第4話・静かな怒りの矛先と~ままならないのは現状と~
第2章 悪意の種が芽吹く時
第4話・静かな怒りの矛先と~ままならないのは現状と~
明けて翌日。
「それで? どういうことですか?」
医務殿の神官長室で、インスとシリウムがテーブルを挟んで向かい合って座り、話をしている。
いや。一方的にインスが笑顔で睨んでいるといった方が正しいか。
「何の説明もできなかったのは悪かったと思っているが、ステールの手前、あまり詳しく話せなかったのはお前にも分かっているんだろう?」
鼻で息を吐き、腕を組んで答えるシリウムも、難しい顔をしていて、決してふざけた様子はない。
昨夜、医務殿で一夜を過ごすことになったインスとステールは、一般病棟の個室の並びに案内され、隣り合う部屋に通された。
それ自体は別に問題ない。
いくら呪師とその見張りを兼ねた護衛官と言えど、別に四六時中べったりと張り付いているわけではないし、昨夜は二人共疲労困憊で、休むこと以外にできることはなかった。
けれど、インスが案内された部屋には、その病室を使っている者が他に居た。
以前の入院中も、退院させられる直前までも、退院してからも、ずっと様子が気になっていた神官呪師見習いのアインが使っている病室だ。
しかも、自分が退院する日には、あと数日もすれば体力も回復してきて、回復魔法での怪我の治療ができるだろう。
といった様子だったのに、どういう訳か悪化しているのが見て取れる。
頬はこけ、酷く青ざめて、目の下には五歳ほどの子供とは思えない濃いクマを作っていて、以前見た時よりもやせ細っているようにすら思えた。
実際、就寝の際にわざと抱きしめるようにして体を包み込めば、以前より小さくなっているように感じて、顔色が変わらないようにと気を張り詰めなければいけなかった。
あの時、アインは自分の胸元に顔を寄せていたが、変に鼓動が早くなっているのに気づかれやしないかとヒヤヒヤしたものだ。
食事の時も、世話役を兼ねた看護要員の神官たちの様子から、最近あまり食べれていなかったのが伺い知れて、無理をさせない程度に、けれどなるべくたくさん食べさせるのにも気を使った。
少し楽しげな様子を見せてくれて、思っていたよりは食べてくれたから安心したが、その様子を見ていた神官たちからも安堵の雰囲気を感じられて、逆に心配になったほど。
もしかしなくても、殆ど何も口にしていなかったのではないか? と穿った見方をしてしまった。
もちろん、医務殿側が何も用意しなかったり、手立てを講じなかったりしたわけではないのはわかっている。
それでも、他にももっとできることはあったのではないか? と思ってしまうのは止められなくて、苛立ちが漏れ出てアインに気付かれることがないようにとここでも気を使い……むしろ疲労感が増してしまった。
おかしくないですか? 私も疲労困憊で医務殿で待機だったはずなんですけれど?
そう思ってしまったのも、責められることではないだろう。
朝食まで一緒に摂って、病室を出るまで表情を保つのが大変だった。
ドッと来た疲労にふらつきながらも神官長室に押しかけて、話をしているのが今と言う訳だ。
「結論から言うと、今のアインはお前への依存度が高すぎる」
真面目な顔で告げるシリウムの表情は険しい。
「お前が退院した夜から、また悪夢にうなされるようになったみたいで、質の良い睡眠が取れていない。更に、日が経つにつれて食欲も落ちていって、一昨日は一切食事が摂れなかった。無理に食べさせると吐いてしまう。その結果、それでなくても下降気味であった体力を消耗して、気を失うように眠るだけと言った感じだな」
聞くにつれ、息を飲んだインスの顔色も悪くなる。
いや。もともと神官長室を訪れた時も悪かったが、更に悪くなっているといった方が正しいか。
「アインの回復には、お前が傍にいる必要があるだろう」
「……………」
難しい顔で、呟くように告げたシリウムに沈黙を返す。
そうは言われても、インスは皇宮勤めの皇宮呪師。
自分自身の治療や療養と言う訳ではないのに主神殿の医務殿に居続けることなどできない。
だから半ば強制的に退院させられ、皇宮に連れ戻された。
「こっちも、何も考えていないわけではない。神殿側の上層では結論が出ている。あとは皇宮側の上層が素直に頷くかどうかだけだ」
言われて、インスは渋面を作る。
言っているシリウムも渋面。
「……ペンティス呪師長が、素直に頷くとは思えませんが……」
「……だろうな……」
実に苦い声を絞りだすインスに、シリウムも苦り切った顔で頷く。
「だが、きちんと手順を踏む必要があるのはお前も分かっているだろう? 向こうがごねてもどうにかするから、心づもりだけはしておけ」
最後に、にやりと笑ったシリウムの言葉に、軽く目を見開いて瞬きしたインスは……
「……あなたも、人のことは言えないじゃないですか……」
若干呆れた様子でそう言った。
第2章第4話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、旧都での「動」の戦いから、神殿での「静」の対話への転換回です。
アインの衰弱というショッキングな事実に加え、シリウムとインスの、立場を超えた信頼関係が見えるシーンとなりました。
「向こうがごねてもどうにかする」と不敵に笑うシリウム。
皇宮と神殿、二つの巨大な組織を巻き込んだ「アイン救済」の駆け引きが始まります。
神殿側が導き出した「結論」とは一体何なのか。
シリウムが言う「皇宮側への手順」の行方は?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
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【第2弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト




