表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10年前、私も好きに生きました。〜元婚約者様が捨てて、今更戻ってこようと思います〜  作者: ましろゆきな
第二章:蜜月と嫉妬の輪舞曲(ロンド) 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/13

第九話:賢者の朝、あるいは捕食者の休息

 翌朝、カーテンの隙間から差し込む陽光が、ルネのまどろみを残酷に切り裂いた。  意識が浮上すると同時に、全身を襲ったのは、石像にでもなったかのような重い倦怠感だ。


「……っ、あ……」


 声を上げようとして、ルネは自分の喉が掠れていることに気づく。昨夜、何度も彼の名前を呼んだ代償だ。  耳年増な知識によれば、初夜以降の情事は「より円熟味を増す」とあったが、そんな生易しいものではなかった。セドリックという男は、一度タガが外れれば、ルネが「もう無理」と涙を浮かべて訴えても、それを「甘い誘惑」としか受け取らない本能のけだものだったらしい。


 指一本動かすのも億劫なルネに対し、隣に座る気配は驚くほど軽やかだった。


「おはようございます、お嬢様。……素晴らしい目覚めですね」


 枕元で聞こえたのは、鈴の音のように清々しい、それでいて艶を帯びた声。  ルネが恨めしげに視線を向けると、そこには既に完璧な装いを整えたセドリックがいた。


 昨夜、ルネが「商品」と呼んだ、色気を振り撒くための華美な出で立ち。  だが、今の彼から漂っているのは、毒々しさではなく、内側から溢れ出すような圧倒的な「充足感」だ。肌の艶、瞳の輝き、そしてどこか勝ち誇ったような微かな微笑み。


「……セディ、貴方……。どうして、そんなに元気なの……」


「ええ。貴女の愛をたっぷり『補給』させていただきましたから。今の私なら、侯爵夫人どころか、軍隊一つでも相手にできそうですよ」


 セドリックはルネの額に落ちた髪を優しく払い、慈しむように口づけを落とした。  昨夜、獣のように彼女を貪った男と同一人物とは思えない、聖者のような清涼感。そのギャップが、ルネには何よりも恐ろしかった。


「……さあ、朝食の準備ができています。ですが、お嬢様は今日は一日、寝台ベッドで休まれていた方がよろしいでしょう。腰を痛めてしまったようですし」


「誰の、せいだと……っ」


「私のせいです。……ですから、責任を持って、帰宅後にまたたっぷりとお世話をさせていただきますね」


 セドリックはルネの抗議を甘い接吻で封じると、満足げに立ち上がった。  彼は鏡の前で襟元を少し崩し、ベルローズ侯爵夫人が好む「退廃的な若主人」へと顔を切り替える。だが、その鬱金色の瞳の奥に宿る熱は、未だに背後に眠るルネだけに向けられていた。


「では、行ってまいります。……お嬢様。私がいない間、寂しくても他の男を思い浮かべたりしないでくださいね。……貴女の心も体も、昨夜、すべて私のものだと書き換えておきましたから」


 爽やかな笑顔で、恐ろしいほどの独占欲を吐き捨て、セドリックは音もなく部屋を出ていく。


 一人残されたルネは、火照った顔を枕に埋めた。  ――タガが外れたセドリックは、策士であるルネの想像を遥かに超えて、重く、深く、そしてあまりにも強かだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ