第八話:独占欲の刻印
鏡の中にいたのは、ルネの知る「ストイックな従者」ではなかった。
いつもは喉元まで隙なく締められているボタンが二つ外され、鍛えられた鎖骨が覗いている。上質なシルクのシャツは、わざとらしく体のラインを強調し、耳元にはベルローズ公爵夫人が好むという派手な貴石が揺れていた。 香き立つような色気を全身から放つセドリックを見て、ルネは胸の奥が焼けるような不快感に襲われる。
「……完璧ですわ。それなら、あの夫人の目もすぐに眩むでしょう」
ルネはあえて冷淡な声を出し、セドリックを見ずに書類に目を落とした。
「完璧に仕事をこなしてきて。……貴方は、私の『最高の商品』なのだから」
「……『商品』、ですか」
不意に、背後から熱い気配が迫る。 気づけば、セドリックの手がルネのデスクにつき、彼女は彼の腕の中に閉じ込められていた。
「お嬢様がそう仰るなら、期待に応えなくてはなりませんね。……ですが、このままでは、あのような女の前で『恋に落ちた男』を演じ切る自信がありません」
耳元で囁かれる掠れた声。ルネの首筋に、セドリックの熱い唇が触れる。
「成功のために……出発する前に、勇気が出る『おまじない』をしていただけませんか?」
「なっ……ここで?」
「いいえ。……ここから先は、私一人のための『検品時間』です」
抗う間もなくお姫様抱っこで寝室へ運ばれ、ルネはシーツの上に沈められた。 いつもは壊れ物を扱うように優しいセドリックの手が、今夜は驚くほど強引で、熱い。
「セディ、……待って、まだ昼間……っ」
「待てません。これから数日間、別の女の傍で貴女に触れられない地獄を耐えるのです。……今、ここで、貴女の熱を私の芯まで刻みつけておかなければ、正気でいられそうにない」
セドリックはルネの服を剥ぎ取るように脱がせると、白い肌のあちこちに、わざと目立つような赤い徴を刻んでいく。まるで、自分がいない間に他の誰も近づけないようにする呪いのように。
「あ……んっ、……っあ!!」
ルネが捉えるのは、欲望を隠さなくなった男の激しい執着だ。 セドリックはルネの足首を掴み、自分の方へと引き寄せると、溜め込んできた情熱をすべて吐き出すように彼女を貫いた。
「……ルネ、見てください。……私の目だけを。……私の体に触れているのは、世界で貴女だけだ……」
激しく重なる体。ルネの嬌声が、セドリックの理性を粉々に砕いていく。 彼は「最後」まで、そして「二度、三度」と、彼女が快楽で声を枯らすまで、その肢体を飽くことなく貪り続けた。
――これが、これから戦場へ向かう男の、あまりに必死で、あまりに重い「誓い」だった。




