第七話:バグり始める日常
黒川は翌日も学校に来なかった。
ホームルーム。
担任が淡々と告げる。
「黒川……今日も欠席だな」
教室がざわつく。
「こないだのアレで引きこもった?」
「いやでもあいつ見栄だけで学校来てたようなもんだしな」
クラスメイトは笑い話として流そうとした。
しかし——自分だけは違った。
(……いや、絶対に違う)
胸の奥、微妙なざわつき。
一昨日の異常を見た時に感じた違和感がまだ残っている。
ドクン……ドクン……。
心臓の音がやけにうるさく聞こえた。
(黒川は……どうなった?)
思考の最中、突然ウィンドウが出る。
ーー
◾️緊急クエスト発生
【黒川の行方を追え】
•彼の残した“異常値”を確認しろ
•失踪の周辺を探索しろ
報酬:未知
ーー
(……クエスト!?)
胸騒ぎが確信に変わる。
——黒川はただの欠席じゃない。
——“どこかに連れていかれた”。
⸻
放課後。
黒川の「一昨日最後に目撃された場所」へ向かおうとしていた時だった。
日奈子が駆け寄って話しかけに来た。
「あ、あの……宮本くん。ちょっと、話せる?」
日奈子はいつもより近い距離で、真剣な目だった、
「私……見たの。学校の裏の路地で……黒川くんに似た何かを」
「何か」
その言い方に悠真の心臓が跳ねた。
「まるで……人じゃない動きをしてた」
(黒川……お前まさか)
日奈子はバッグからスマホを出し、震えた手で動画を見せる。
画面には、路地裏を四つん這いで跳ね回る黒い影。
人間の体格……でも動きが違う。
明確に“壊れてる”。
「……桜井さん、その動画……」
「宮本くんと一緒じゃないと……怖くて」
その言葉に、胸の奥で小さく灯がともる。
「……一緒に行こう」
すぐさま決意し、日奈子とうなずき合う。
⸻
黒川が最後に確認された路地裏に2人で向かった。
薄暗く、湿った空気。
日奈子が思わず袖をつまむ。
「ここ……」
「大丈夫。俺が前歩くよ」
脳裏にウィンドウが出る。
ーー
【サブクエスト:異常反応の源を探れ】
•黒川が残した“痕”を探し当てろ
•進行度:0% → 1%
ーー
路地裏は異様な変化を遂げていた。
地面の「爪痕」。
壁に残る黒ノイズの裂け目。
黒川が人間じゃない動きをしていた理由を示してくる。
「宮本くん……これ、何かが起きてるよね」
「……ああ。たぶん、黒川は——」
そう言いかけた時だった。
日奈子の手が、ぎゅっと俺の袖をつかむ。
「宮本くん……私だけ話して、宮本くんは何も言わないなんて……ずるいよ」
「……え?」
日奈子は震えている。怖いからじゃない。
信じたいからこそ、知りたい、という目だった。
「私、能力のことも……黒川くんの影のことも話したよね。
宮本くんは……何を知ってるの?」
半ば確信をもって尋ねてくる日奈子。
確かに、この状況であまりにも自分は冷静すぎる。
何か訳があると思って当然だ。
「…………」
逃げられない。
いや、逃げたくなかった。
(……そうだよな。
桜井さんは自分の秘密まで全部見せてくれたんだ)
俺は静かに息を吸い、
画面を起動した。
ピコン。
透明なウィンドウが、路地裏の闇を照らす。
「あ……クエスト……?」
「俺は……俺も天使から能力をもらってたんだ」
日奈子が驚いたように目を見開く。
しかし、その瞳に疑いはない。
もしかしたら想定内だったのかもしれない。
「俺の能力は……“クエスト”だ。クエストをこなせば、能力が上がったり……
時には“世界の異常”すら教えてくれる」
日奈子は驚きと納得が混ざった目をした。
「……だから宮本くん、あの日……黒川くんを助けたんだね。
誰よりも早く異常に気づいたり……妙に決断が早かったり……全部」
「隠すつもりはなかった。
でも……巻き込みたくなかった」
日奈子は首を振る。
「もう巻き込まれてるよ。
黒川くんのことも……街の異常も……
宮本くんだけの問題じゃない」
その言葉は、覚悟そのものだった。
そして彼女は小さく笑う。
「……だから、隣に立たせて。
私もチート能力者なんだから」
ーー胸が熱くなる。
自分は独りじゃない、そう教えてくれている。
(桜井さん……強いな)
そんな時だった。
ピキ……ピキピキピキ……
地面がひび割れた。
⸻
ウィンドウが強制的に開く。
ーー
【危険通知】
〈異常フィールド〉発生
•ランク:F
•発生地点:現在地
•原因:ダンジョン化(初期段階)
ーー
(……来た)
地面のひび割れから黒い霧が噴き出し、空気が震える。
「ひっ……!!」
俺は日奈子の腕を引く。
「離れて、桜井さん!!」
ドォォォォン!!
深い穴の奥から何かが蠢く音。
そして——
“男子制服の一部”が霧の中から、ふわりと落ちてきた。
「……え……これ……」
俺は震えながら、でも確信しながら呟く。
「黒川……黒い穴に飲まれたんだ」
日奈子が震えながら俺にしがみつく。
「どうするの……宮本くん……」
(どうする……って)
視界にクエストが出る。
ーー
【緊急クエスト:異常源の調査】
•ダンジョン化の原因を突き止めろ
•桜井を安全に逃がせ
報酬:???
ーー
「行くしか……ない」
「行く……って、どこに?」
俺は霧の穴を見つめて言う。
「“街の異常化”が始まってる。
……黒川だけじゃ済まなくなる」
日奈子は震えながらも、うなずいた。
「宮本くん……一緒に戦わせて」
その静かな決意が、霧の揺れる路地に響く。




