第十二話:初めてのボス戦
配信コメントが絶え間なく流れる夕暮れ。
二人は先程の戦闘の直後、息を整える暇もなく、公園エリアに突入していた。
公園は、すでに日常の形を残していない。
《まだ戦うの!?》
《今政府が影について会見してるな》
《コイツら、マジのヒーローだ》
《もう日本やばいだろ……》
常に視聴者が見ている。
日奈子のスマホ画面は既に光を帯び、“配信バフ状態”のままだ。
「……休みがほしいな、マジで」
「気配……。さっきより濃いよ……ここがきっと“核”なんだよ」
夕暮れの公園には、異様な静けさが満ちていた。
ブランコはひとりでに揺れ、影だけが長く長く伸びている。
まるで“誰かが遊んでいるのに姿だけが消えている”ような……そんな気配。
「……もう完全に、普通の公園じゃないな」
日奈子が緊張した声で言う。
「宮本くん……。なにかの気配がする……」
その瞬間。
――パキィン!!
砂場の中心に黒い裂け目が走った。
地面が盛り上がり、影が煙のように立ちのぼる。
そして──
ーー
■ ボス出現ーー討伐クエスト
〈影喰い(シャドウ・イーター)〉
【アシスト条件:影喰いの動きを“1秒以上拘束”】
ーー
目の前にウィンドウが現れる。
それと同時に骨と影を混ぜたような異形が、ずるりと這い出た。
三つの目が互い違いの方向を向き、視界を全方位に広げていた。
見た瞬間、本能が警鐘を鳴らす。
「ギィアアアアアアアアア!!」
耳を裂く叫びとともに、影喰いが四足で突進する。
「桜井さん、下がって!!」
俺は跳び込み、日奈子を庇う。
影喰いの爪が制服ごと肩を裂いた。
――ザシュッ!!
「っ……ぐ!!」
「宮本くん!!」
《え、血が出てるんだけど》
《やばい!!!》
《さっきまでと違う》
混乱するように流れるコメント。
影喰いは切り裂いた匂いに酔うように、唾液を滴らせる。
舌を垂らした口元が笑っているように見えた。
俺はその姿に背筋を凍らせた。
(こいつ……。ただの影じゃない)
影喰いが影ごと形を崩し、
次の瞬間、“足元の影”から再出現する。
「ーー下!?」
「危ない!!」
日奈子が思わず俺を引き寄せた瞬間──
影喰いの牙がすぐ目の前をかすめた。
――バキィ!!
コンクリの地面が噛み砕かれ、粉々に砕け散る。
「これが……ボス級……ッ!」
息が荒くなる。
このままじゃ押し負ける。
日奈子が震える手でスマホを握った。
「……コメント、まだ来てる……!
配信、切れてない……!!
みんなが……私たちを……!」
《がんばれ!!》
《右後ろ注意!!》
《桜井ちゃん光だ!》
《宮本死ぬ気で守れ!》
コメントが怒涛の勢いで流れ、
日奈子の身体が光に包まれる。
「……行こう、宮本くん!応援がある!」
日奈子の手に光が集まり、
光の矢が次々生成される。
――シュンッ!シュンッ!シュンッ!
影喰いの足を貫き、影の身体を固定した。
「ギャァルルルル!!」
「ナイス!!動き止まってる!!」
《いけいけいけいけ!!!》
《いまだ!!》
《倒せるか!?》
「うおおぉぉおおお!!!」
絶叫しながら飛び込む。
目の前にクエスト能力の表示が浮く。
ーー
【条件達成:影喰いの動きを“1秒以上拘束”】
【報酬:威力一時上昇(+40%)】
ーー
「いまだ……!!」
拳が影喰いの胸を打ち抜いた。
――ドゴォオオォッ!!
影喰いの身体が半分吹き飛ぶが、すぐ再構成される。
「……まだやれるのかよ!」
舌打ち。
すぐに体勢を立て直す。
影喰いが影を震わせ、
全方位へ撒き散らした。
全身を震わす重低音。
地面の影すべてが津波のように襲ってきた。
「桜井さん!!伏せろ!!」
俺は日奈子を抱き寄せて地面に倒れ込む。
影の波が二人の頭上を掠めるように流れていく。
「……っ、宮本くん……!」
「ーー大丈夫だ」
見ると俺の肩から血が流れていた。
さっきより深い傷。
避けきれていなかったようだ。
このままでは本当に危ない。
桜井が必死で顔を上げた。
「お願いします……!!
二人に力を……!!」
配信コメントが一気に溢れる。
《いけえええ!!》
《桜井ちゃん!!頼む!!》
《光でぶっ飛ばせ!》
《がんばれ!!!!!!》
《頼む!》
《応援してるよ!!》
日奈子の光が、もう一段階強く輝く。
――パアァァァァァッ!!
「これが……みんなの応援の力……!」
日奈子は全身の光を一点に集め、
“影喰いの中心”へ向けて撃ち放つ。
着弾。
――衝撃音!!!
「ガァァァアアアン!!」
影喰いの身体が貫かれ、
影の再構成が追いつかない。
ーーその隙を逃さない。
地面を蹴って跳躍し、拳を叩き込む。
「終われぇぇぇぇッ!!」
影が大きく揺れる。
「もう一発ッッ!!」
黒い霧が水風船のように弾ける。
影喰いが悲鳴を上げて爆散した。
残ったのは、黒い種のような“異常芽の核”。
そして──ウィンドウが浮かぶ。
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【クエスト:異常芽(第三エリア)討伐】
《達成》
報酬:
● 武器ドロップ:《影打ちナイフ(バグ適正)》
● 能力解放率:+12%
● 街ダンジョン化進行:一時停止
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「……報酬だ」
黒い刃のようなナイフが、影から浮かび上がる。
触れた瞬間、手に吸い付くように馴染んだ。
日奈子がほっと息を吐いた。
「宮本くん……よかった……!
ほんとに、死んじゃうかと思った……!」
俺はゆっくり笑い返した。
「助かったよ。桜井さんのおかげだ。
……マジで、ありがとう」
日奈子は顔を真っ赤にして俯く。
「い、いいの……!私こそ……守りたいから……」
夕暮れの公園に、二人の小さな呼吸だけが残る。
《あのー俺らがいるんですが》
《何を見せられているのだろうか》
《爆発しろ》
……二人の小さな呼吸とコメント欄だけが残る。




