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第一章8 幕間最強ナーブ村




―――麦畑と野菜畑に囲まれた小さな村、ナーブ辺境村のほど近く。



「はあ、はあ、はあ………」


「くそぉ、はあ………」


走り続ける冒険者が二人。

ゲーム時代と同じく、ダメージを受けると冒険者の見た目もダメージが見て取れるように変化する。

そのために、既に危機的ダメージを負わされた彼と彼女は、腕やわき腹から出血し、金属製の部分鎧や籠手、具足にまで傷が入って見える。

実際にはHPが減るのみで、腕や脚が切られて無くなるという事もない。

ダメージによる見た目の変化は演出である。


ゲーム時代と異なるのは、疲労と持久力があること。

これは人間らしく、走り続ければ疲れるし、持久力が低いと長く走れない。

ゲームの中の一部分を現実に寄せたような変化と言える。

したがって、走り続けている彼と彼女は疲労困憊。


「あいつ、ねちねち攻撃しやがって!俺の従魔『風馬』から狙い撃ちとか、くそ!」


「あいつ、楽しんでるよね?絶対」


二人はわずかばかりの時間、木の幹にもたれて息を整える。

その間も視線をせわしなく動かし、歓迎しがたい追跡者の姿に怯える。


男が言った『風馬』は馬型魔獣の一種で、『魔獣使い』の職を持つ男が飼い馴らして『従魔』にしたものだ。

東への遠征で体力を使わずに、人間が走るよりはるかに速く移動できていたのだが。

二人で騎乗して駆けている最中、ふいうちを食らい、集中的に『風馬』ばかり攻撃されて、殺されてしまった。


「ゆめありの言う事聞いとけば良かったかなぁ」


「あいつだって本気で止める気は無かったろ、そりゃ『推し』に会いに行きたいなんてのは、メンバー全員の望みなんだから」


「そうだよね。私たちは『推し』NPCを愛でたいってクランだもん」


「クラン名が物語ってるよ『おしてまいる』なんだか―――」



「見ーつけたっ!【斬波】!」


言いかけた冒険者クラン『おしてまいる』の男の言葉は、女の艶を含んだ声で止められ、続けて二人が背中を預けていた太い木の幹に、「バカン」と衝撃音が響く。


「逃げてる最中に、おしゃべりですかー?お気楽だねぇお前ら、大好き!死ね!【斬波】!ひゃっはっは!」


二人は慌てて、冒険者殺しの視線と射線を木の幹で切るように走り出す。


後ろから、

「おいおい、逃げんじゃねーよ!弱気ちゃんかよ、大好き!死ね!【居合奔り】!」

冒険者殺しの大声が追いかけてくる。


冒険者殺しクラン『ブラックローズ』に所属する、通常物理系三次職『侍』の職を持つ女。

【居合斬り】は刀を居合斬りのように構え、抜刀しつつ対象を斬る技だが、【居合奔り】は抜刀しつつ進む距離が長い移動技であり、『侍』は一瞬で数メートルは移動して追いかけてくる。


二人には、傷を負わせてはわざと隙を作って逃がし、瞬く間に追い付いて斬りかかってくるという、恐怖を与え弱者をいたぶるのを楽しんでいるとしか思えない。

実際これで逃がされたのは三度目だ。

しかし、今度は『侍』の姿が見えなくなるまで引き離す程の隙は与えられなかったらしい、【居合奔り】を繰り返し距離を詰めてくる。


その恐怖たるや、

「いやあああー!魔王シリル様に会わずに死ねないー!」

「いやあああー!俺は魔王シリル様の攻撃を受けるんだー!」

疲労困憊、息も絶え絶えな二人に、火事場の馬鹿力ならぬ馬鹿速さを発揮させる程で。

実際に恐怖によって炙り出された彼らの絶対的欲望のおかげで速度はあがり、『侍』に追い付かれぬまま林を抜けた。

しかし、林を抜けたところで見た光景に二人は呆気にとられて脚が完全に止まってしまった。


「こんな場所に大型拠点?」


「あるはずないだろ、ここまでの大拠点作るには、ずっと前にここに着いてるって事だ。結構無理して移動だけに集中してきた俺たちよりずっと前に到着?ないない」


彼らの前にあったのは、冒険者が拠点建築で使う建材で組まれた防壁、しかも鉄製。

鉄製建材は建材の中で最高の強度を誇り、目前の『鉄製防壁建材』は破壊に膨大な時間がかかる事から、ほとんど破壊は出来ない建材とされる。


最強の鉄製建材は代わりに、大量の鉄鉱石を必要とするというデメリットを持つ。

鉄鉱石はどうやって手に入れるか、採掘である。

世界各地に点在する、採掘場所でコツコツコツコツ自力で集めるしかない。そして、一度の採掘で大量の鉄鉱石が手に入るならいいのだが、実に少量ずつしか手に入らないのである。


その鉄製防壁が見上げる程高く、しかも左右に長く伸びているから驚きだ。


「迎撃窓があるって事は足場も用意してんのか!滅茶苦茶資材つぎ込んでるぞここ!」


それに防壁の上にはおそらく足場も用意されている事が、防壁上部に点在する四角く斬り抜かれたような穴―――迎撃窓の存在で推測できる。

防壁上の足場はつまり、迎撃窓から敵を迎撃するための場所である。


「ねえ、鉄製物見やぐらもあるよ。どんだけ固い拠点よ!カッチカチじゃん!ちょ、ちょっと待って。マップ見て。ここ『ナーブ村』だ!」


「はあ?鉄製巨大柵に囲われて、物見台まで備えた村?あるわけ―――」



「まあた、気をぬいてんのなー!お気楽ちゃんめー、大好き!死ね!【刺突貫】!」


『侍』の【刺突貫】は、『侍』の攻撃系スキルでは最長間合いを持つ。対象のいる位置まで前進するからだ。

抜き放った刀を前方に向けたまま突進するもので、突進は加速効果を持ち、間合いが開いているほどその分速くなっていく。

しかし、【刺突貫】は対象が移動してしまうと攻撃は当たらない。

あくまで、【刺突貫】を放った時点での対象位置まで移動し、刺すという技だからだ。


当然、狙われた男の方は【刺突貫】から逃れようと斜め横へと移動したが、

「【居合斬り】」

【刺突貫】の持つスキル特徴『【刺突貫】が対象に到達する前にスキルによるキャンセル可能』でもってキャンセルされ、

「―――があっ!」

全速力に近い移動速度だった『侍』が、移動を済ませた男の横を通りすぎるはずだった軌道から、男の真横で瞬時にビタリと止まり一瞬の後に【居合斬り】の広い間合いの中で男を斬り抜いた。


『バリン』


攻撃を受けた男の方は特殊音とともに、今や太ももや頭からも出血し、鎧は半壊している演出へと変わっていた。

まさしく瀕死の演出であり、もう一度たりとも攻撃を受けるわけにはいかない状態だ。

冒険者はHP1の『瀕死』状態になると立っていられなくなる。

実際に男の方は、死んではいないが自力で動けない状態で倒れ伏している。

ただ、HP残量次第では攻撃一撃で死に至る冒険者において、瀕死で耐えきれたのは幸運ともいえるが。


「―――っく、っく、お願いーどうにかー」

同クランの女は、竦む身体を鞭うつように動かして、倒れている男を引きずるように防壁の方へと逃れようとするが、

「ねーねー!そろそろ終わりにしよ、大好き!死ね!【居合斬―――」

それでも無慈悲な『侍』の攻撃範囲から逃れられていないまま、再度の【居合斬り】を、

「【穿ち連射】!」

「【剛氷ートル・ギカー】!」

「【苦無乱破】!」

受けなかった。


代わりに、

―――ピンポイントかつ連続で『侍』の顔に叩き込まれる矢の嵐。

「―――が」

―――ドリルの様に高速回転して『侍』の胸を穿つ腕ほどの太き尖氷。

「―――げひ」

―――突如周囲の宙空に現れて四方八方から『侍』の全身に突き刺さる無数の苦無。

「―――」

連続の大ダメージにHPを削りきられ『侍』は消滅した。



「え?どうなってるの?上から?」

冒険者クラン『おしてまいる』メンバーの女は、ぐったりする男の両脇に手を入れてひきずる体勢のまま、振り返って防壁の方を仰ぎ見る。


その防壁上部の四角い穴―――迎撃窓から、三つ顔が出て、眼下の女を見て、

「白い名前の冒険者さん、大丈夫かい?」

「ひでーめに会ったんだな、もう大丈夫だよ」

「入っておいで、ほら後ろ後ろ」

笑顔を見せて手を振ってくれて、視線を下げた先の防壁の扉が開いた。


そこから、老婆が出てきて動けぬ男の方を―――軽々と担ぎ上げた。

部分鎧装備の男が決して軽くないのは女が身をもって知っている、それを実に軽々と。


「―――うそっ?」


今日一番の驚きに女は一瞬固まったが、別の老人に手を引かれて防壁内へと入った。


そこには、360度を完全に防壁で囲まれた村があった。

教会、家々、驚くべきは麦畑や野菜畑の全ても防壁で囲っていること。

村だけを囲うのでも大量の建材が必要なのに、広大な畑ごと囲っているから驚きだ。


いったいどれだけの鉄建材を用意せねばならないか、数十人で毎日毎日採掘だけを繰り返したところで、数年で済むだろうかと自分を採掘役として想像し、吐き気を催すほどに。


「凄いとしか言葉が出ない………」


「本当になあ……」


「―――は?」


あまりに異次元な村の様子に女がぼそりと呟いた声に、同クランの男が答えた。

しかし、彼はさっきまで瀕死のHP1である。

只人の村にあっては、宿屋で寝るか、教会で回復を受けなければ、回復できないはずだった。

その男が立って話している。見ると小傷一つない全快状態で。


「回復してくれたんだ。NPC村人が」


「は?」


「回復してくれたんだ。NPC村人が」


「バカなの?」


「俺だって言ってて意味分かんねーよ」


「NPC村人が魔法やスキルを使えるってこと?アホなの?」


「俺たちを助けてくれた攻撃の三人な―――」


「まさか?」


「NPC村人。一人は村長の息子さんだって。見てみろよ、ここにいる人たちを」


救ってくれた三人、老婆、老人、どこか誇らしげにたたずむ彼らが、二人を暖かい目で見ている。

―――その誰の頭上にも、名前が浮いていない。それは冒険者ではない証左。


「うわぁぁぁ、常識がこわれるぅー!」


「大丈夫だ、俺の常識も一緒にこわれるから!」


「ぜんぜん大丈夫じゃないもんー!」


いずれにせよ、助けられた事に変わりはない。


「皆さん、助けてくれてありがとうございました!」


「皆さん、回復までしてくれてありがとうございました!」


二人でしっかりお礼を伝えたら、老人が両手を広げ、

「ようこそ大神官様のいらっしゃる村、ナーブ村へ!」

実に良い笑顔で二人に村への歓迎の意を贈ってくれた。



―――しかし、『大神官』とはなんぞや?内心で二人は首を傾げたのだが。



◆◆◆◆



―――ナーブ村人全員の大恩人である神官が、村長タガーロに村を離れると言いに来た日。



大神官様がもたらした只人に『職業』を与えるという奇跡は、この一週間で村人全員を、想像をはるかに超えて強くした。


自分とそう年齢が変わらぬ老婆―――力が衰え自分の世話すら難しくなっていた老婆が、『筋力』を求め『狂戦士』になった後、大人すら軽々と持ち上げる様を見て心底驚いた。

彼女は元気と明るさを取り戻し、今は男たちに腕相撲を吹っ掛けるほど気持ちも若若しくなった程だ。


その奇跡をもたらした彼の大神官様が去る。

次々大神官様を攫いにくる悪い冒険者に村の皆を巻き込みたくないという理由で。

本当は、「村人全員命をかけて大神官様をお守りします!」と言いたかった。

だがそれでは、村人が大神官様の重荷になってしまうから、言えなかった。


大神官様と話の最中だというのに、胸に去来するのは寂しさで。

―――タガーロは寂しさに耐えていた、はずだった。


大神官様が村を去る件を話し終えてから、

「それと、ナーブ村を要塞化してください」

―――「なんて?」

村の要塞化とは何の冗談だろうかと真面目に考えていたタガーロだったが、大神官様に促されて家の外に出た。

タガーロ家の玄関を出た先の村道にて。

大神官様は―――無数の建材を出し始めた。


「―――えええ?」


老年の域、経験した場数が違う、それでもタガーロの理解が追い付かない。

『職業』を持つ者はもれなく皆、見えぬ無限空間保管庫『インベントリ』を持つと説明を受けたから、大神官様はおそらくインベントリから建材を出しているのでは?と推測はできる。


しかし、なぜこれほどの建材がインベントリに入っているのか?

建材は素材が無いと作れないはずであり、ずっと教会にいた大神官様は、どうやって素材を集めたのか?

そういった事が全く分からない。


鉄製の建材は重く、地面に落ちる度に「ガコン」「ガキン」と重い金属音を響かせる。

その音を茫然と聞いていたタガーロの耳に、

「村道一杯になっちゃいましたね。一旦村長さんのインベントリに入れてください。ここが空になったらまだまだ出しますから」

そう大神官の驚くべき言葉が届いたからタガーロは、この大量の建材も大神官様の奇跡の御業としてまるっと受け入れる事にした。

只の人間に、神のごとき御方の御業など理解できようはずもないのだから。


いっそすがすがしい気分でタガーロは、

「はい!大神官様!御業に感謝を!」

元気よく目の前にうずたかく積まれた鉄建材を自身のインベントリに収納していく。

それが終わると、再び大神官様の建材出しが始まり、それを延々と四日間繰り返した。



さて、神官はくはくが大量の建材を出せた理由は、一つ。

『管理者権限』にある『自由建築モード』を使用しただけ。

この『自由建築モード』は、全建材を欲しい数いくらでも出せる、そういう便利機能だ。


建築に凝りたいプレイヤーがローカルゲーム内でテスト建築を行うのに使用されるもので、はくはくも使っていたから覚えていた。


死ねばよみがえる事のないNPC達を守るため、遠慮してはいられない、はくはくはそう割り切って膨大な資材を村長タガーロに託したのである。



ナーブ村は今、鉄建材の防壁に囲まれている。

村長タガーロが力不足に嘆いた、脆弱だった村の護りは今や―――最強である。




作者他作品も異世界ファンタジーを書いております。

ぜひそちらもご一読下さい。


[展開重くない]

短編異世界ガールズラブ『高貴な竜人の愛しい猫獣人は下賤』


[展開超軽い]

超短編異世界ファンタジー『星の王、異世界で無双したくない』


[展開重めからハッピーエンド]

異世界ファンタジー『最強竜は奴隷として少女に人類の存亡をかけてみることにした』

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