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第一章7 一人目の仲間




―――ナーブ村村民全員の転職を終えて。



ナーブ村全員の転職はさすがに時間がかかった。

村人150人程と記憶していたが162人だったし、『職業』を得られると聞いて教会に来てくれる村民もいたが、そうでない者もいたから、村の家をほぼ全部訪ねた形だ。

一緒に行くと譲らないコスモスを連れて。


一週間ほどかかって村人の転職を終え、はくはくは、いよいよ冒険者殺しからの逃亡を急がねばと用意を始めた。


「タガーロ村長、実は―――」

村長に理由を話て、はくはくが村を去る事を伝え、教会に、村に、神官が不在になる事を詫び、

「それと、ナーブ村を―――」

はくはくが暮らしたナーブ村の安全と発展を村長に願って。



◆◆◆◆



―――はくはく旅立ちの朝。



教会を丁寧に掃除し、神官居室の私物は全てインベントリへ入れた。

―――『インベントリ』は要は保管庫であり、物を「インベントリに入れる」と考えるだけで、見えぬ『インベントリ』に収納される。

反対に、「あれをインベントリから取り出す」と考えるだけで取り出せる。

いくつでも入れられて、大きさも無関係、食品の腐敗も停止し、温度すら入れた時のまま保持される。ステータス画面が開ける者全てが使える便利機能である。


すっかり綺麗になった教会の祭壇で神官時代繰り返した祈りを捧げたのは、はくはくの中のルッタの記憶と想いがそうすべきだと主張していたから。


物はインベントリの中であるため、身体一つと身軽なまま、はくはくは教会を出た。


「「「「はくはく大神官様!」」」」」


はくはくの前に、村人が勢ぞろいで両ひざを折っている。

祈りを捧げる時と同じ、両手を握り合わせて額に当てているのは、やりすぎだとはくはくは思う。

それは、神へ祈る姿なのだから。只の神官であるはくはくには、重すぎると。


教会を掃除している時から感じていた外の気配や話し声から、村民が集まってるなとは思っていたのだが。村道を埋め尽くすほどの人の姿を見るに、村民全員かもしれない。


「見送りありがとうございます。神官不在になってしまう事も、許して下さい」


村長には詫びていたが、こうして村民皆に詫びる機会を得たのだからと許しを請うた。


「そんな、大神官様が許しを請う必要なんてないです」


「そうです。大神官様はこの世にいてくださるだけでええんです」


「みんな、分かってますから」


まるで、はくはくの行動・存在その全てを受け入れるような言葉が、はくはくにはやはりちょっと重いが。


「ナーブ村のみんな、分かっておりますから。どうぞ、はくはく大神官様は思いのままに」


村長タガートが歩み出て、はくはくの両手を握る。

その両手の甲に、村長は額を当てて、最大限の礼をとり、

「ナーブ村のために対価も求めずに、はくはく様がしてくださった事、全てに感謝を!」

タガーロは感謝を口にした。

言葉を尽くしても尽くしても、タガーロは感謝を伝えきる事など到底出来ない、と思いながら。


「「「はくはく大神官様に感謝を!」」」


「「「かんしゃをー」」」


一斉に村人達も感謝の声を上げ、続けて子供たちの声が続いた。


タガーロがはくはくの手を離し、はくはくはいよいよ旅立とうと、

「コマンド、コントロール………」

『管理者権限』の『飛ぶ』を実行しようとしたのだが。


「コスモスちゃん、大神官様を頼んだよ!」


「コスモスよ、大神官様をしっかりお守りするんだぞ!」


「コスモス、身体に気を付けてな!」


「コスモス姉ちゃん、たのんだー」


村人に肩や背中を叩かれながら、マントに肩掛け鞄の旅姿のコスモスが現れたから、

「この流れはまさか?」

そう独り言ち、

「はくはく様!私の大神官様!『賢者』コスモス、ご一緒してはくはく様をお守りします!」

コスモスの笑顔が眩しすぎて、

「コスモスさん、分かってる?俺といるとずーっと冒険者殺しが襲ってきて危険なんだよ?」

だから村を巻き込まないために村を出るというのに、

「分かってます!冒険者殺し歓迎です!」

フンスフンスとコスモスの鼻息が荒い上に、コスモスの顔が若干上気しているから、

「歓迎しちゃ駄目だよ?それに、コスモスさんみたいな可愛い女の子をまた命の危険に巻き込むのは男の子として―――」

はくはくにとってコスモスは年下の可憐な村娘であり、一人の大人として本来守るべき対象だと思うから断ろうとし、

「可愛い?私、はくはく様の好みですか?顔ですか?この身体ですか?」

コスモスが耳まで真っ赤にしておかしな事を言い出すから、

「コスモスさん、驚くところが違うよ?命の危険ってところに驚いて欲しかったよ?」

冷静にコスモスに突っ込みを入れたのに、

「もし、はくはく様が私に付いてくるなと言われるなら、こっそり陰から見守る事にします!」

コスモスの暴走が止まらないから、

「逆にそれはやめようね?コスモスさん?怖いからね?」

それはストーカーではないかと断固拒否して、

「はくはく様、私を危ない目にあわせたくないって気持ちは嬉しいです。でも、はくはく様は戦えないじゃないですか。逃げても必ず追い付かれます。生きていくためには、食べて眠らなきゃならない。足りない物を村や町で買う事もあるでしょう。悪い奴にこの先絶対合わないなんて無理です。だから、はくはく様を守って戦える私を側においてください!」

コスモスが真剣にはくはくと一緒にいる事を考えていたのだと教えられた。

決して考えなしではないのだと。


はくはくとコスモスの様子を固唾をのんで見守っていた村民から、

「コスモスちゃん、もう一息!」

「押せ押せコスモス!」

「大神官様はグラついてるぞ!」

「いけー!コスモス!押し勝てー!」

小声ながらコスモスを後押しする声が上がった。


「………」


どうやら村民一同、コスモスがはくはくに同道する事を応援しているらしい。

はくはくは、確かに戦えない。それを村民も心配しての事かもしれない。


『管理者権限』の『飛ぶ』があるからひとまず飛んで逃げればなんとかいけるのでは、と考えて村を出る決心をしたのだが。

時間が経てば、そのうち飛空艇を手に入れ、『飛翔』魔法が使える『賢者』に至る者も出てくるだろう。『魔獣使い』が飛行魔獣や翼竜さえも飼い馴らして飛ぶようにもなるだろう。

そうなってしまえば、『飛ぶ』だけでは逃げきれなくなるかもしれないと、はくはくは悩む。


その辺りの事をまだ先の話だと、考えるのを放棄していた自覚もあった。

そして、はくはくのレベルは1のまま。

はくはくはゲーム時代『魔獣使い』系職業だった。

魔獣を手懐けて、最高レベルの翼竜を拠点に並べたいがためだけに、管理者権限で翼竜へ『相手に経験値を与える』コマンドでレベルを上げていた。

対して、自分のレベルだけは管理者権限で付与して上げたのでは、これから手懐ける魔獣に不誠実だ、ズルだとそこだけは妙に生真面目だったから、『自分へ経験値を与える』コマンドを一度も使っていなかったから、覚えていないのである。

つまり今も吹けば飛ぶような、弱きはくはくである。


「はくはく様は、私がお嫌いですか?」


額に指をコツコツ当てて悩むはくはくの目に、そう言って形の良い眉をハの字にして困った顔のコスモスの覗うような可憐な顔が映るから、

「嫌いじゃないよ。ただ、危険に巻き込めないと思うだけ」

と慌てて否定して、

「じゃあやっぱり陰からこっそり―――」

そう返されてはもう反対もできず、

「分かった、コスモスさん、俺を守って!」

とうとう村娘だったコスモスにそれを願った。


「コスモスちゃんが勝ったー!」


「コスモス、良くやったー!」


「コスモスちゃんお幸せにー!」


「「「「コスモス!コスモス!」」」


一部誤解を招くような声を含んだまま、周囲から歓声が上がり、ようやく旅立ちかと思ったはくはくだったが。


―――だったのだが


「駄目です!」


「なんでえ?」


「私を呼ぶのに、さんは要りません。コスモスと呼び捨てでお願いします。コスモスが偉大な大神官はくはく様のものだと示すために!」


「そっちぃ?コスモスさんが俺の物とかどうなのそれは?女の子を物扱いなんてできるわけないでしょ?現代日本だったら炎上ものだよ?」


「はくはく様は私の中で神様と同じなんです。はくはく様をお守りして仕える私は、神徒!つまり私は、はくはく様のものです!こうして当の本人がそう望むのです。何の問題もありません!さあ、コスモスと呼び捨てに!」


「俺、神じゃないよ?恐れ多いよ?」


「お願いします!はくはく様!さあ、コスモスと!」

はくはくの言を無視してコスモスがまたハの字眉でうるうるとはくはくを上目使いで見るから、

「コスモス………ちゃん」

ちゃん付けまでは、努力した。


「………」


「無理、ちゃん付けまでで許して」


「………もう!仕方ないですね、ちゃん付けで妥協します。でも、はくはく様はもっと自分の偉大さを自覚すべきです。これから私を呼び捨て出来るように努力してください」


コスモスはそう言って、ぷくりと頬を膨らませるから可愛いのだが、

「………はい」

偉大だと称えながら、努力しろと迫るコスモスの言葉にモヤモヤしつつ、今度は実に嬉しそうに自分を見るコスモスの目に嘘偽りない親愛が見えるようだからはくはくは諦めた。


「じゃあ、俺からも願い。俺に様付けとかやめて?」


「いえ。只人に職業を与えるという奇跡を下さって、見返りも求めない無欲の大神官をどうして呼び捨てにできると言うのです!拒否です!私がはくはく様の物だからと言って、なんでも言う事を聞くと思っては困ります!」


あまりに迷いのない言葉だったからはくはくは、

「あ、駄目だこりゃ………」

はくはくはは完全に観念した。


それはそうだったと懐かしく思い出す。

妹もこんな感じで、良かれと思ったアドバイスや忠告に聞く耳もたず、自分のやりたいようにやっていたなあと。

だからと言って、妹を生意気だと嫌いになることもない。

自分は自分、妹は妹、繋がりはあっても別の個人なのだから。


そう考えれば、コスモスの言動は実に可愛いものである。

なにせ、危険を顧みず自ら無力なはくはくを守ると言い張って押し通してくれたのだから。

そういうのは我がままとは呼ばない、―――献身と呼ぶのだ。



「大神官様、お気をつけて!」


「大神官様、旅のご安全をお祈りします!」


「コスモス、大神官様を頼んだぞ!」


「大神官様、ありがとうございました!またぜひ村に立ち寄ってくださいね!」


「お二人ともお幸せにー!」


はくはくとコスモスは、村人全員の見送りを受け、ナーブ村を旅立った。

はくはくは管理者権限の『飛ぶ』で、コスモスは賢者の魔法『飛翔』で空へ舞い上がり、手を振ってナーブ村を後にした。



―――神官はくはくの一人目の仲間は、一人では無力なはくはくの元に、半ば押しかけで仲間になってくれた『賢者』であった。




はくはく君とコスモスちゃんが少し気になる、応援したいと思っていただけましたら、ぜひ下の☆☆☆☆☆をポチっとして★★★★★に変えていただけると嬉しいです!

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