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第一章4 転職




―――冒険者殺しが神官の居室に踏み込む前の事。



「私が『賢者』になるのですか?あの、ほとんどの魔法を使える上位職の?」


晴れて『魔法使い』という念願の『職業』を手に入れたコスモスが、はくはくに言われた言葉を確認するように繰り返す。


理解がおいつかないためかこてんと首を傾げたコスモスに、

「そのために、ちょっと待ってて」

そう伝えてはくはくは、自身のステータス画面のあるタブを押した。

それは、『管理者権限』の使用を可能にする指示欄である。


『管理者権限』とは、主にはゲームを制作した会社が、ゲーム内に不具合が無いか等を確認するために予め組み込んでいる便利な仕組みである。


使用法は、実際にゲーム内にプレイヤーとして入り『管理者権限』を用いて便利機能を使うこと。

例えば、迷宮や建物が正しく機能しているか、各地の仕掛け等は正しく作動するか等々を確認するのに歩いて移動などしていられない。

広大な世界を徒歩移動では時間がかかりすぎるからだ。よって、素早く移動して確認するために『飛ぶ』機能。

例えば、ゲーム内職業のひとつ『魔獣使い』が飼いならした魔獣に関する成長テスト用『経験値付与』機能。

まだあるのだが、はくはくがここで使うのはこの二つの機能だ。


そしてなぜはくはくに『管理者権限』など使えるのかは、

「神官がゲームシステム寄りのキャラだからかな?」

本当のところは分からないし、確認のしようも無いが。


分かっているのは、冒険者殺し二人のステータス画面にこの『管理者権限』タブの表示すらなかった事。おそらく、ゲーム時代と同じく冒険者に管理者権限は使えない。


とにかく、はくはくは居室二階部分へ向かい壁を見上げた。

およそ梯子でもなければ届かぬ位置に窓がある。採光用のステンドグラスのはめ込み窓である。

はくはくは、管理者権限タブを選択し、口頭で『飛ぶ』機能を指定する。


「コマンド、コントロール、QB03、ラン」


管理者権限のややこしい所は、機能の指定が分かりやすく出来ていないこと。

『飛ぶ』なのだから『飛ぶ』と指定させてくれれば楽なのに、そうは出来ていなかった。


「やってて良かった、ローカルゲーム」


そんなややこしい管理者権限コマンドをはくはくが覚えている理由は、一つ。

本来、管理者権限はプレイヤーが使えるものではないし、ゲーム内では利用どころかステータス画面内にタブ表示すらされない。


しかし、これは『正規ゲーム』内の話である。

ここでいう正規ゲームとは、ゲーム会社が管理しているゲームサーバ―内で皆でプレイするゲームを指す。

プレイヤーは皆公平に扱われなければならない、当然管理者権限は利用できないのである。


そして、正規でないゲームも存在する。

ゲームサーバーを介さない、個人的ゲームプレイがこれに当たる。

自前のプレイ環境でプレイするゲームを『ローカルゲーム』と呼ぶ。

個人のゲーム環境なので、利便性のため、また多少は存在するゲーム内不具合を自力で解決する手段として、『ローカルゲーム』には使用するも使用せぬもプレイヤー任せで管理者権限が付与されている。

はくはくは、この『ローカルゲーム』を介して管理者権限コマンドをごく一部のみ覚えていたのだ。


管理者権限『飛ぶ』機能が効果を発揮。

はくはくの足が完全に床から浮いたから、飛ぶ感覚を掴んで飛翔する。

「すごい!」

足元からコスモスのキラキラした視線がはくはくへ向けられていたが、

「コスモスさん、窓を割るから離れて」

そう声をかけ、コスモスが階下へ消えたのを確認してステンドグラスに『聖書』の角を思い切りたたきつける。


「これくらいは役にたてよ、ネタ武器め!」


数度の殴打で窓の縁に残っていたステンドグラスの破片も片づけ、外へ飛びだす。


―――そう、実は神官居室に逃げ込んだ時、自分のステータスに『管理者権限』タブを見つけた時、はくはく一人ならこうして教会外へ逃げ出せたのである。

逃げなかったのは、コスモスを危険の中に置き去りにできなかったから。

管理者権限の『飛ぶ』は、そもそも一人用でありコスモスを抱えては飛べないからだ。


外に出たはくはくは、自身の位置を把握。

教会の屋根の上にある鐘塔へとさらに上昇し、鐘の脇にお目当ての物を見つけた。

小さな宝箱であり、その中から一本の木の枝を手に入れると、教会の窓から再び神官居室に戻った。


はくはくの前でコスモスが目をキラキラさせて座っている。

ステンドグラスの破片を取り除いた、はくはくのベッドの上で。


「まずは、『魔法使い』レベルを60以上にするよ」

コスモスの頭に手を乗せてそう告げると、

「え?」

またコスモスに浮かんだ驚きの表情を見つつ、

「コマンド、ターゲット、JB685、ワン、テンミリオン、ラン」

『経験値付与』の管理者権限を発動。


「レベル76か。よし」


脳内でコスモスのステータスを確認し、『転職条件』を満たした事を確認し、

「次、転職『魔術師』。コマンド、ターゲット、JB685、ワン、ハンドレッドミリオン、ラン………」

次々にレベルアップと転職を繰り返していく。


その間、コスモスはもう全てを受け入れて、はくはくのするに任せていた。

その目の中の興味と興奮は最後まで消えないままに。


特殊上位職『賢者』への転職条件は、三つ。

一つ目は、通常攻撃系魔法職の第三次職『魔導士』のレベルが60以上まで上がった履歴を持つ事。

二つ目は、通常回復系魔法職の第三次職『聖者』のレベルが60以上まで上がった履歴を持つ事。

―――上記ふたつは、それぞれ初期職からレベル60以上に上げて二次職へ。

二次職のレベルを60以上に上げて三次職へ。三次職のレベルを60以上に上げる、と計6職へ転職する必要があった。

三つ目は、前述二つの条件をクリアした上で、転職アイテム『啓蒙の桃枝』を使用すること。

この『啓蒙の桃枝』こそ、はくはくが教会の鐘塔の中で見つけたアイテムである。


「じゃあ、最後の転職」


そう言ってはくはくは、コスモスの頭に置いた手と反対の手の中で『啓蒙の桃枝』を折る。

ひと際輝いた転職の光が収まってから、

「コマンド、ターゲット、JB685、ワン、ファイブハンドレッドミリオン、ラン」

最後の経験値付与を行った。


「コスモスさん、ステータス確認してみて」


「はい、神官様。ステータス」


コスモスは自分のステータスの中に表示されている職業を見る。



「賢者!私が、賢者!神官様、神官様!」


そこには燦然と輝く通常レベル上限の『レベル100』表示。

馬鹿げた『賢さ』を含めた高ステータス。

使用可能な魔法の多さに加え『飛翔』魔法。

今やコスモスは只人からすれば、埒外の強者になったように思えた。


はくはくがコスモスに言った、

『コスモスさん。そのもっと先へ転職してみよう。ちょうどこの教会はそういう場所なんだから!』

という言葉は、『啓蒙の桃枝』が教会に隠されている事を指した言葉だ。


しかし、おそらく現状冒険者で『賢者』に転職できた者はいないとはくはくは推測する。

―――なぜならナーブ村に、誰も飛んでこないから。

『賢者』は『飛翔魔法』が使えて空を移動できる。

何より『啓蒙の桃枝』の取得は、本来『飛空艇』を手に入れた後というのが大前提である。

通常『飛空艇』入手後に、教会に横づけした飛空艇から教会屋根に降り立って取得するもの。

しかし、『賢者』どころか『飛空艇』も見かけていないとはくはくの神官時代の記憶がそう告げている。

それに、冒険者殺し達も徒歩で村に入ったのは、村道を歩いて教会に近づいて来たのを開け放たれた教会の玄関の向こうに見ている。

クラン内の優先方針だろう、二人は神官の独占に徒歩で向かわなければならなかったのだ。


現状冒険者の誰も『賢者』に至っていない。

それは、はくはくがコスモスに与えた『戦う力』が、現状最高峰であることを示していた。



―――こうして、コスモスは過剰な攻撃でもって、冒険者殺しを退けたのである。




星評価やブックマークしてもらえると、書き続けるモチベーションが迷子にならなくなります。

切実なので、よろしくお願いします。

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