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第五章5 オーウェイン王族というもの

悲しい、辛いと思う展開かもしれませんが、彼らが格好良かった話です。

その想いはシリルに継がれる、そんな話です。

もしつらければ飛ばしてもらって大丈夫。

シリルこそが、彼らが残そうとしたオーウェイン王族。

シリルの幸福が、彼らの悲願だったと思うので。




―――現在から二百年以上前のオーウェイン小王国にて。



まだ神の御力によって冒険者が降り立つ以前の世界においても、人の一番の天敵は魔獣に違いなかった。


オーウェイン王国騎士団と名を冠しても、鎧を纏い剣に槍を携えても只人に過ぎず、肉体を鍛え懸命に武技を磨いても、魔獣の撃退ですら多くの人員で当たってやっと、といった時代である。


オーウェイン小王国は、この魔獣に備えるようにと作られた周囲を覆う高き防壁と、深く幅広き水堀に、鉄柵を備えた壁門は四方の四門のみで、王国内に入るにはその四門から水堀を渡す四つの橋を渡る必要を魔獣に押し付ける。

―――護るための造りで魔獣に対抗する国であった。


魔獣に備えるだけで精一杯な時代だったのにも関わらず、その時代は現代と違って国家間の緊張もあったのだが、理由が自国が当の魔獣からの安全を得ようとするためだったのは、不幸な話である。


魔獣が嫌う特殊な鉱石を地下に多く含み、魔獣が寄り付かぬ安全地帯を『楽土』と呼んで、その地の奪取と移住を狙い、国同士で小競り合いが繰り返される。


オーウェイン小王国の地そのものは『楽土』ではなかったが、小王国の国領内に点在する町がその『楽土』であり。

過去隣国と一方的に突きつけてくる要求に交渉で粘り抜き、にらみ合いでなんとか死守してきたオーウェイン小王国の領土だった。


国名に『小』と付くほどオーウェイン王国の領土は広くない。

王城と城下をぐるっと防壁で囲んだ土地こそ、一定の安全を確保できているが、数多の国民全てが居住できる広さはない。

だから、国民は周辺の『楽土』へも暮らしてやっと、王国の人口問題、食料問題、資源問題、経済問題を解決できていた。

他国が欲しがる『楽土』はまた、オーウェイン小王国が決して手放せない場所であった。


オーウェイン小王国は『楽土』を手放さない、それを理解しているからこそ―――


「な、何だあれは?空中に浮かび―――いや、飛んでいるのか!」


「人間が作ったもの、なのか?」


「見ろ、風船のような物の下に煌めいたのはガラスじゃないのか?」


「な、ならば人間の作ったもの、それがなぜ我らがオーウェインへ?」


初めて見るそれが遠い空からゆっくりと飛んでくるそれを、王国騎士団はただ眺める事しかなかった。

当時、空を飛ぶ事は誰にもできなかったからだ。


捕まえた魔獣を調教して『騎獣』にする技術は、冒険者が大陸に降り立って確立された技術であり、当時には存在しなかったから。


まして、オーウェイン王国騎士団が初めて見る空飛ぶ乗り物―――『飛空艇』は、この時代、この時に世界で初めて発明建造されたものだ。

それを、建造したのが隣国であったのがオーウェイン小王国にとっては不幸の始まりだったのだが。


「なんだ、風船から出ているのは煙か?」


まだ現代程洗練されていない、初期の飛空艇といえるずんぐりした姿の下部から、もくもくと煙が降って周辺を煙らせている。

オーウェイン周辺の森林地帯の広範囲を覆うように、煙は広がりつつ、飛空艇はオーウェイン小王国の周囲をゆっくりと一周していく。


「報告は誠か?あれか、人の作ったもので間違いないのだな?」


「父上、風船のような物の下に箱がくっついています!所々ガラスが光を反射しているようにも見えますから、空を飛ぶ船の類ではないかと」


「兄上、では中に人が乗っていると?」


「俺はそう考える。しかし、目的はわからないがな」


「隣国バラキアなの、か………目的が分からぬが、いや楽観視などできようはずがない!今すぐ東西南北の四門を閉じよ!近衛を除き、第一から第五まで全ての騎士団を四門および、城下へ配置!事態に備えよ!民を死なせるな!」


「国王様、近衛だけでは王城の護りが手薄になります!せめて第一騎士団は城に残されますよう進言致します!」


「ならん!民あってこその国。民あってこその王。民の守護が優先だ!行けっ!」


「「「「―――っは!」」」」


このオーウェイン王の危惧は現実のものとなった。

得体の知れぬ煙を振りまきならが、オーウェイン小王国の周囲を一周した飛空艇は進路を変更、オーウェイン小王国王城へ飛んだまま接舷し、王城の上部から城内へと兵装の男たちが多数侵入する。

接舷した船底からの煙は続き、防壁に囲まれたオーウェイン王国内を毒々しい緑の煙が煙らせていく。


飛空艇の王城接舷と同時に、

「―――魔獣が四方から押し寄せてくるぞっ!」

魔獣の群れが押し寄せて来た。


「鉄門を死守せよ!突破されるなよっ!」


「南は、南門もか!北は、おい全部の門へ魔獣が殺到してるぞっ!」


「狼狽えるな!門を超えさせなければ良い!副長以下交代で門に当たれ!」


「団長!水堀を超えて防壁にとりつく魔獣多数!防壁へ弓兵の配置を進言します!」


「分かった、俺が行く!第三から第四部隊は西門側防壁上部へ向かい迎撃射撃を行うぞ!動け!」


「―――団長!なぜ魔獣が押し寄せるのか、原因があるのでは?」


「きっと、この煙だ。この煙が魔獣を引き寄せてる―――」


「では、まさか!」


「ああ、人間の手によって我が国は魔獣に襲われている!」


オーウェイン王国第四騎士団長はそう言って、今王城の接舷している飛空艇を睨み、その巨躯で防壁上部へと走り出した。



◆◆◆◆



―――オーウェイン王城地下の祭壇室にて。



その場所は、代々のオーウェイン王族の亡骸が安置される墓所である。

王家の者が、神に祈りを奉じ、同時に先祖と王国民の魂の安寧を神に願う、そういう場所である。


王族が崩御すると、玉座の間から螺旋階段を上って王城の最も高く天に近い場所へ亡骸を運び、その魂を天へと還す。

そうした後に、もう一つの出入り口から地下の祭壇室へと運び、亡骸を壁面に無数に開けた玄室内へと葬る、そういう場所である。


そこに、

「嫌です兄様、シリルも民を守って戦いましょう!」

そう言って震えながらも戦いへ身を投じようとするのは、かつてのシリルである。


「駄目だ!可愛い妹を守れずに死ぬ不名誉を俺にきせてくれるな!」


「でも、他の妹達はどうしてここにいないのです?」


「―――間に、合わなかった。すまん………」


「―――っ」


「浮かぶ船から敵兵が玉座の間になだれ込んで城内に散開してしまった。せめて一か所に味方が集まって戦えれば良かったが………それに、魔獣が防壁を超えたと報告もあった。時間が、無い………」


「では、では!お兄様も皆でここに籠って、敵も魔獣もやり過ごしましょう!」


「いいや、シリル。それは出来ない。父王も母妃も、兄達も王族だ」


「それなら、シリルだって王族です!同じではありませんか!」


「神も一人くらい見逃してくださるだろう。だからシリルは生きてくれ」


「兄様は………死にに行かれるつもりなのですか?なぜ?どうしてっ?」


「シリル、恐れなど何もないと格好付けて、恐怖も痛みも意地でねじ伏せる―――それがオーウェイン王族だ」


「兄様………」


「王族よと傅いてくれる民の前で、無様を晒すわけにはいかん。民に惚れられる王族であり続けるためには、格好付けも意地も必要な事だ。せいぜい兄も格好を付けてくることにしよう………それに、可愛いシリルを神に見逃してもらうんだ。父王と母妃、シリルの兄達の命を差し出すくらい安いもんだ」


「兄様、兄様………シリルは、シリルは………」


「泣くな、シリル。シリルには涙は似合わん。いつものように凛と生きろ。俺は、俺達はみんな、凛としたシリルが大好きなのだからな。ありたい自分でいろ!では、お別れだ―――」


シリルは兄のこの言葉の後の記憶がない。

目が覚めた時、首裏に残る鈍い痛みが、兄によって気を失われたと教えてくれた。


その後、祈りを捧げるシリルは、奇跡的に生き残った血みどろの三人が王族の―――シリルの家族の亡骸を葬りに訪れて、自分以外に生き残った者が、オーウェインの者がいると知ることができた。

それが、これから始まる大罪への始まりとは知らずに。


奇跡的に生き残ってしまった三人によると、父王も王妃も兄達の最期は―――


「く、離せっ!死にぞこないがぁ!」


「―――くはは、は、離す訳ないであろうがっ!な、なに、ちょっと腹から剣が刺さって背から飛び出ておる程度、俺を誰だと思って居る?この国の王、だぞ!こ、この程度では死なぬ、バ、バルキア兵ども!もっと俺に集まって来い、こ、これくらいの兵で倒せる王だと思っておる、のかぁ―――」


「ふ、父王が敵を引き付けている!お前達は落ちのびよ!」


「殿下!殿下の片腕が、片腕が………」


「あ、ああ、これか!バルキアのボンクラ兵に、ハンデをな………やってる、だけだ。俺は王族、だぞ?この程度で、し、死ぬものか!だから、俺達を信じて、お前達は逃げよ!」


「そうだ、行けっ!他の騎士団や、民にも伝えよ!己の命だけを大事に逃げ延びよと!」


「おお、ちょうど、良かった。ちょ、ちょっと肩を貸してくれ。バルコニーへ出たいんだ………」


「兄上、声を出し続けてくれ。兄上の方向が、分からん………」


「そうか、お、お前もやっとオーウェイン王家の男らしい顔に、なったと言う事、か………」


「あ、兄上も、だろうに。は、はは………」


「ああ、そちらに………いいぞ、バルコニーに出た。さあ、王族らしく格好を付けてみせねばなぁ」


「そうだな、お、俺も―――」


「オーウェインの全ての民、騎士に告げる!逃げよっ!逃げて、生きよっ!自分の命をこそ、大事と走れ!オーウェイン王国の王族として、ここに命ずる!愛する我が民よ!逃げて、生き―――」



滅びを迎える王国にあって、最後まで民への愛と気遣いを失わず、民を優先しようと―――精いっぱい格好を付けて、意地を張って散っていく、実にオーウェイン王族らしい最期だったと。



◆◆◆◆



―――商いの町ベレンの中央、ベレン教会入口にて。



太陽が傾き陽光が赤に染まる中でシリルは今、うっとりとはくはくを見ている。


既に数十人に転職を施しているが、はくはくが町民の転職を一度で済ませないから時間がかかっていた。


例えば、通常物理系一次職である『戦士』への転職一回で終われば時間はそうかからないのだが、はくはくは最低でも通常三次職までは転職を行うからだ。

コスモスに聞いた話では、相手の希望があった場合は、通常三次職でとどめて相手の意向に沿うが、本当なら『通常職』よりも一段上の強さになる『複合職』まで強くしておきたいらしい。

その場合の転職数は三次職の比ではないから、時間がかかるのも当然だった。


「平和な世界を目指して、手を抜かない。本当に素晴らしいね、はくはく君は」


シリルの目の前で、少しずつ世界が変わっていく。


世界は甘くない。

弱い人間に合わせて手を抜いてはくれない。

ならば、人間が世界に合わせれば良いのだ。甘くない世界なら、人間も甘くない存在に。


はくはくにはその力があり―――今日まで魔獣に怯えた町民が、今度は魔獣を狩る側になっていく。

魔獣による死者は減るだろう。

人間の行ける世界、生きられる世界は広がるだろう。

死人が減れば人口も増えて、世界は今よりもっと豊かになる。

―――それを成しているのは、シリルの目の前の小さくて大きな背中だ。


はくはくが口にした『平和な世界を目指す』事と『世界中の人を救えるように頑張る』事は今、実行されている。はくはくは心中で平和な世界を願うだけの男ではなかった。


汗が流れ髪は汚れ、食事もそこそこに、町民を変えていくその背中は、本当に世界を変えていくのだ。


それは同時に、過去の大罪を贖おうとするシリルの願いもきっとかなえてくれるだろう。

「はくはく君の変えていく世界は、シリルが思うより大きそうだ」

―――その規模の人々を救う助けをシリルが出来るなら、シリルの大罪すら贖罪が叶うだろうから。



過去のオーウェインの滅びの中で、王族である家族は見事に格好をつけ、意地を張って死んでいった。

世界を変えるほどの力どころか、自分の国すら守れなった王族だったが。


その死に様を馬鹿にできる者がいるなら、それは偽物だ。

自身の脚で立ち、自身の手で握手を交わし、自身の言葉で相手と分かりあおうとしようとしない偽物だ。

本当に生きていない者に、シリルの家族の生き様を口汚くののしられる謂れはないし、シリルはそれを決して許しはしないだろう。

過去、魔王であった苛烈さをもって。


オーウェイン王族としてシリルが見て来た王や兄は、強い力はなかったが、何よりも民を優先した。


魔獣からの防衛、国同士のにらみ合い、領土内『楽土』への騎士派遣、増え続ける人口問題………そういう問題が山積し経費は増える一方だったが、民への課税は増やさずに、王族自らが切り詰めた生活を送った金で、なんとか不足する経費を賄った。


困った顔はおくびにも出さず、弱音も吐かず、民の前ではいつも颯爽と凛々しく立って、豪快に笑う。

そういう王族だったとシリルは知っているし、その在り方を今でも眩しいと思っている。


「ああ、格好をつけて意地を張り、世界を変えようとする君には、ある―――人の中心に立つオーウェイン王族の器が!シリルの愛したオーウェイン王族の心意気が!」


同じものが目の前のはくはくに見えるから、シリルは喜びを隠さない。


生き様も、死に様さえも格好をつけて意地を張り抜いた、シリルを生かすために散っていった、愛おしい家族と同じ生き方が、在り様が、シリルが眩しいと思うそれが、はくはくの中にも確かに見える。

だから、シリルは今は亡き父王へと―――



―――「父上、シリルは見つけました。はくはく君こそがシリルが願う相手です」




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