第四章9 三人目の仲間
第四章もこのお話で終わり、次は第五章になります。
どうぞよろしくお願いします。
―――魔王城玉座の間にて、迫りくる『戦将軍』と『魔将軍」を前にして。
困惑の中はくはくがシリルを見ると、彼女の口元は余裕を崩さぬままで、
「魔王が消えた後になって侵入者を排除とは、遅い上に滑稽だね?【極圧渦雷-ガリ・キリカ-】!」
笑んだシリルの口から発せられたのは、賢者の唱えられる最高位単体渦雷系魔法【圧渦雷ーガリ・キカー】をも超える『勇者』固有単体魔法であり、キュルの『祝福』も乗った極大の紫電が、本来攻撃魔法に対して強い抵抗力を持つはずの『魔将軍』を―――一撃で消し飛ばした。
勇者の自己強化に加えて、魔王の自己強化も乗った魔法であり強くない訳がない。
そして、実際に魔王のスキルをごく自然と使ったシリル本人が、自分は勇者でありながら魔王のスキルが使えると確信していたためだろう。はくはくとしても『魔王勇者』を、受け入れるしかない。
「ただ、もう一体のこ―――」
そう言いかけたはくはくの視界の中、シリルは何もしていないのに再度奔った極太の紫電が見えて、
「―――え、は?どうして?」
その紫電が今度は『戦将軍』をも一撃で消し飛ばしたから、
「あ、は………まさか、『輪唱』効果付きの装備、ですかね?」
再びシリルの顔を見上げるはくはくに、シリルはいたずらに顔を近づけ息もかかる距離で、
「そうだね。シリルのティアラは国宝だからね。魔王で勇者で姫なシリルにはぴったりだと思わないかい?」
そうにっこり笑うと、からかうようにはくはくにフッと息を吹きかけるから、
「―――きゃ」
はくはくは女の子のように小さな悲鳴を上げる事になった。
そして、はくはくを見やるシリルの顔が、きりりと引き締まったかと思ったら、
「どうだろう、シリルがお嬢さんを守って生きたいのだけれど、受け入れてくれるかい?」
そう問うて来た、
「なんで、俺を守りたいって?」
問いなおしたはくはくの腰がシリルによって引き上げられ、しばらくぶりに自分で立つはくはくの前で、再びシリルが片膝を折ってはくはくの手を取った。
「魔王が押し付けられた役割であったとしても、魔王としてやってしまった過去の罪はやはりシリルのものさ。憎しみに駆られてバラキア王国を滅ぼした罪は贖っていかなければね?でも、シリルは今一人の知り合いもおらず、行く当てもありはしない。だから、シリルを救ってくれた恩人に付いていく事で、シリルが罪を贖う方法を探していきたいのさ―――」
シリルの真摯さがはくはくを射止める。
『魔王』の誕生理由のために加えられた緩い設定の結果として同じくシリルの『フレーバーテキスト』に記される過去―――『隣国バラキア王国に滅ぼされた亡国オーウェインの姫がその身を焼くような恨みによって魔王となったと言われる。魔王になったオーウェインの姫は、その恨みのままにバラキア王国を無数の魔獣とともに滅ぼし去り、今や両国は共に亡国となった』
その匂わせに過ぎない過去が、シリルの中では事実起こったのだろう。
二百年以上前の出来事で、シリルを非難する者がいるはずもない。
はくはくは、それが事実でもシリルは自分を許してもいいと思っているが、本人は本心から自分を許せないのだ。
だから、世界から過酷な役割を与えられた『魔王』シリルの転職欄に確かにあった本来の『世界から贈られる詫び職』が―――選べなくなっていたのだろう。
―――シリルが自分を許していないから。
「訳あって、俺には危険の方から近づいてきますけど?」
これははくはくにとって譲れない念押しだったが、
「シリルが、オーウェイン王家の女が、それで尻込みするとでも思うかい?お嬢さんは黙ってシリルに守られていればいいのさ」
またもシリルの男前が凄いから、
「そういう事なら………シリル様。俺を守ってください!」
はくはくの前で真剣な顔をするシリルにそう返したら、
「シリルにお任せを、お嬢さん!」
シリルがそう言ってはくはくの手のひらにキスをするから、はくはくの顔は真っ赤になり、
「ひゃあ………」
普通は男がする仕草で、女の子がされるような誓いを受け、間抜けな驚きをもらした。
『輪唱』効果とは、直前の攻撃魔法を確率で繰り返す破格の高性能効果である。
それこそ、クエストラインの果ての報酬や、レイドクエストのランダム報酬などでしか入手困難なものであり、実は魔王討伐クエストのランダム報酬にも入っていない装備である。
魔王であったシリルが装備していたのは魔王シリーズ装備であり、クエスト報酬は魔王か勇者にちなんだ装備から、その他の優秀なアクセサリー系装備で、王女のシリルにちなんだ装備など含まれていない。
それはゲーム上当然の事だったが、『魔王』という役割を書き換えたはくはくによって、シリルの装備は変化したために世界にもたらされた装備といえた。
その後、はくはくはいよいよお目当ての魔王討伐報酬を得ようと玉座の後ろにある宝箱へと手を掛けた。
魔王は討伐しておらず転職しただけだが、黄金塊のように宝箱は玉座の間に置かれているのだから普通に手に入れられるだろう、はくはくはそう考えて計画を実行したのだから。
がしかし―――
「開かへんのかぁぁぁぁいっ!」
はくはくは床をどんどん叩いて悔しがるしかなかった。
命の危機を間近に感じた今回の計画自体が、始めからそもそも達成不能だったと分かったのだから。
『勇者』シリルがはくはくに同行するという成果は得たものの、それはシリルが願ってくれたからで、はくはくが意図したものではなかった。
はくはくは、自分の勝手で相手に命を掛けさせる事を嫌うからだ。
危険を十分に分かっている相手が本気で望んでくれる場合を除いて。
だから、今回仲間としてシリルを得たのはたまたまで、もしシリルが仲間になってくれなかった場合、命の危険にさらされ、高額で希少な『身代わりの宝珠』を無駄に11個失っただけな残念に過ぎる結果を迎えるところだった。
「あー、危なかったあぁぁぁぁ!」
「ふふふ。はくはく君は可愛らしいね」
魔王城の裏入口から、はくはくとシリルは飛翔した。
襲い来る死翼竜はシリルが、魔王と勇者の自己強化とまだ続くキュルの『祝福』ありのスキルで爆散させていく。
魔王も勇者も基本的に単体攻撃が強く、範囲攻撃は賢者よりも弱い特徴があるために、多少時間はかかったが飛んで逃げながら、追ってくる死翼竜を打ち落とし続け、やがて死翼竜との距離が開いて死翼竜たちからの追跡はぴたりと止んだ。
そして、黄金翼竜の上でシリルを仲間として紹介したのだが、
「ななななー!なんて言いました?」
「ああああー!きゃっきゃ」
「だから、元魔王で………」
「勇者!ゆーしゃ!元魔王で勇者が、魔王勇者ぁ?彼女も仲間になるって―――え、姫様ぁ?ああああ!私の大神官様の活躍が留まるところを知らない!」
「あーいー!きゃっきゃ」
コスモスを大層驚かせ、キュルは無邪気に楽しそうだった。
「よろしくね、お嬢さんたち?」
シリルがそう言って飛び切りのウインクを飛ばして、
「は、はい!シリル様!」
「あーいー!」
キュルは無条件に受け入れ、コスモスは若干顔を赤くしていたのはシリルが男装の麗人の本領を発揮したからである。
ともあれ、黄金翼竜の騎乗鞍の上、前にコスモス、真ん中にキュルを抱っこするはくはく、その後ろにシリルが騎乗する形で一行は次の目的地へ向かうために飛ぶ。
「ああ、世界はこんなに美しいのに、それを忘れていたなんて………」
はくはくは背の後ろから、そう小さな呟きが聞こえた気がしたが、思い出せたのなら良いばかりだから何も言わずにキュルの頭を撫でて、はくはくの前に座るコスモスに、声は出さないままに、
「心配かけてごめん。信じて待っててくれて、ありがとう」
そう口を動かした。今回の作戦の、ぞっとする命の危機を思い出しながら。
はくはくは計画の当初の目的だった魔王討伐報酬の装備が手に入らなかった事をコスモスに報告したのだが、
「はくはく様が無事なら、全て順調、万事問題無しです!おかえりなさい!私の大神官様!」
そう言いきってくれた。
全てははくはくのために、という姿勢が少し重くも、くすぐったくもあるが、それでも素直に嬉しかった。
はくはくがこっそり感謝したくなったのも無理からぬ事である。
強い装備を得る目的とは別に、もう一つの目的の方は達成できた。
それはコスモスに伝えた言葉に続けられた、
―――『俺は、魔王を救いたいんだ!』
それは今や、はくはくの行動指針の一つである。
こうして、元オーウェイン王国第一息女シリル=リグル=オーウェインが三人目の仲間になった。
はくはくが『身代わりの宝珠』を命の残機がわりに使って、魔王を転職させ、魔王時代の行いを悔いるシリルを変えた職業は―――『魔王勇者』である。
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