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第四章7 魔王シリルを救え




―――魔王城にて、しばしの後の祭壇への裏入口内。



はくはくは、間違った方の裏入口の扉を静かに開いて周囲を窺って、

「よし、死翼竜の敵対は切れてるな。じゃあ、ささっと―――」

数メートル先の扉へ飛び込むために念入りに管理者権限『飛ぶ』を使って、

「よし、今!」

玉座の間に通じる扉の中へと無事に滑り込んだ。


そのまま飛んで螺旋階段を下り、目の前には再び扉があって、はくはくは扉に手をかけると、

「ふう、ふう………よし、開けた瞬間飛んで魔王に触れる。魔王に気づかれる前に近づく、これが確実な勝利条件………ふう、ふうぅぅぅ………」

扉にかけた手がふるふると震えているし、不安やら緊張やら恐怖やらが腹の中でどろどろに混ざり合って、はくはくは何度も深呼吸を繰り返し、落ち着くために行動をわざわざ口に出した。

本当は、怖いと口に出しそうだったが、一度怖いと口にしたが最後、足がすくんでしまうような気がしたから思いとどまったはくはくである。


「よし、よぉし………ふぅ………よおし、行くぞ!」


管理者権限『飛ぶ』の自身の体重を感じぬ浮いた感覚を確かめてから、扉を勢いよく開け放って玉座の間の中心にある玉座の、斜め横から飛び込んで水平飛行するはくはくの目に、魔王の顔が自分へ向けられているのが映って、

「―――っ!うそだろぉ!」

最悪の展開を悟ったものの近づかなければ始まらないからそのまま飛び、

「【暗黒雷砲】!」

魔王がはくはくへと向けた黒い魔杖から極太の黒紫の雷光が迸った。


「―――あ、ががががあ」


はくはくは黒紫の紫電に焼かれ、出会いがしらのその一撃でHPは1の『瀕死』状態へ。

それはつまり、立っていられなくなることを示している。


同時に、

「管理者権限『飛ぶ』が無効化ぁ………」

『瀕死』状態によって強制的に立っていられなくなる効果が『飛ぶ』を無効化したのである。


もう一度飛ぶにはHPを2以上に回復した後、管理者権限を再使用するしかないが、

「【癒ーイルメー】ステ―――」

それを実行しようと急ぐはくはくへ再び、

「まだ死んでおらぬのか、目障りだ【暗極爆】!」

魔王の魔杖がはくはくへと黒い球体を放つ、その表面には太陽フレアのように黒い靄が渦巻いて、

「―――あ、ばっ」

はくはくに着弾するとはくはくの腹のあたりで爆発を引き起こしてはくはくを焼いた。


「なんだ、お前は?どうして死なぬ?大した装備も付けぬ木っ端が………」


はくはくはまたしてもHP1の『瀕死』状態で―――耐えていた。

はくはくのレベルはまだ変わらず1であり、本来ならば魔王の強きに過ぎる【暗黒雷砲】にも【暗極爆】にも耐えられるはずのないHP量であり、魔王が見抜いた通りその装備も貧弱である。

したがって普通ならば、はくはくは一撃で死んでいるはずなのにもかかわらず、である。


「ちょ、ちょっとお話しませんかね?」


「耳障りだ!【暗黒雷砲】!」


「―――あっがああ!」



「ま、待って、ちょっと待って―――」


「羽虫が喚くな!【暗極爆】!」


「―――ぐっがあ!」


時間を稼ごうと話しかけるはくはくと聞く耳を持たない魔王の攻撃が続くが、それでもはくはくが死なないから、

「お前はいったい何だ?我の魔法一撃で瀕死に陥る弱さであるくせに、それでも死なぬとは………」

魔王は玉座から立ち上がってはくはくを睥睨する。


「あ、興味もってもらえました?じゃあ、ちょっとお話を―――」


「お前の死にのみ興味がある【暗黒雷砲】!」


「―――あがああああ」


「何度目だ?まだ死なぬのか【暗極―――」


「ぎょ、玉座の間からあなたが動けないのはなぜでしょう?」


「―――な、んだ?お前、何を………」


「動けなかったでしょう?俺がここに来て、やっと今玉座から立ち上げれたでしょう?」


「………」


「それはあなたが世界から『魔王』という役割を押し付けられたからです!『魔王』は玉座に座って挑戦者を待つ者。だから、挑戦者が現れないと玉座から立ち上がれもしない」


「何を言い始めるかと思えばとんだ愚考!我は魔王、我が魔王。人間を憎む気持ちも全て割れの内にある、それを押し付けられただと?挑戦者を待つだけの身だと?はっ―――」


「なぜ人間が憎いんですか?人間に滅ぼされたからですか?あなたの祖国このオーウェイン小王国を」


「―――っ!貴様ぁ、貴様ぁ!そうだ、隣国バラキア王国に無数の魔獣を扇動され我が国は滅んだ。その恨みと憎しみは我の中から湧き上がるもの。我は魔王になる事で、人間を滅ぼそうとしたのだ!」


「本当に?」


「何が言いたいっ!」


「魔王城の地下に祭壇があるんです。悪魔を奉じるとかそういうものじゃなくて、普通に神を奉じる祭壇です。丸十字が刻まれた祭壇で、これが証拠で同じ丸十字ペンダントが祭壇に置かれてました。ほら神官である俺が持ってるものと同じものですよ?」


「………」


「その祭壇で、あなたは失った家族と民の魂の安寧を―――祈ってたんじゃないですか?」


「そんな記憶は―――」


「この丸十字のペンダントの表面ね、ずいぶん歪んでるんです。きっと強く強く握りしめて祈ったんでしょう。それに、表面にうっすら血も付いてるから、きっと手が痛むくらい強く握って祈ってたんでしょう。そんな人が、魔王になったりします?」


「そんな記憶はない!お前のつくり話ではない証拠があるとでも言うのか!」


「魔王さん、お名前は?皆、魔王、魔王って呼びますけど名前、ありますよね?」


「それが何だ!」


「魔王――シリル。それがあなたの名前で、オーウェイン王国の第一息女、シリル=リグル=オーウェインがあなたの本当の名前。そして、ほらこの丸十字のペンダントの裏に刻まれた名は―――」


「―――シリルとでも言うの、か」


はくはくは、ペンダントを魔王の手元へと放り、それを受取ろうとはくはくから視線を逸らした魔王を見ながら、

「………」

口の中でつぶやいた。


「―――シリル、本当なの、か。なぜだ?なぜ我の記憶と違う?なぜ、我は魔王になった時を思い出せぬ?」


受け取ったペンダントの裏面を確認し、魔王は困惑の中に陥っているように見えて。

茫然と手の中のペンダントを眺めるままの魔王の、その隙をついて、はくはくは自分を回復し、管理者権限『飛ぶ』を再使用して飛んだ。


「―――貴様ぁっ!」


魔王が気づいた時にはもう、はくはくの手は魔王の肩へ届いていて、

「魔王の役割、やめちゃいましょう?」

はくはくは脳内に弾けるような感覚を覚えその中に見つけたそれに、

「え?なんっで―――まさか、拒んでる?それならこっちで―――転職!」

はくはくが触れた魔王の手から光が広がって、魔王の全身の装束の黒を輝きが包んで行くが、

「触れるな人間があ!【暗黒掌】!」

転職の演出の五秒の間に抵抗する魔王の攻撃を受け続け、

「胸元から割れる音か!分かったぞ!お前、『身代わりの宝珠』を使っていたのか!」

最後の最後で魔王に見抜かれたが、

「正解!すごく怖かったし痛かったんですけどね!」

それが魔王としての最後の台詞であるから、はくはくは素直に白状した。


はくはくがカジノに入り浸った理由は、この『身代わりの宝珠』の大量確保のため。

『身代わりの宝珠』はHP0になる攻撃を必ずHP1で耐えてくれる希少アイテムであり、耐えてくれる効果を発揮したアイテムは自動的に割れて消え去る消耗品でもある。

なにより、カジノの景品交換において馬鹿高い事で有名。

だから、四日で億単位の金を稼げたキュルの暴威を持ってしても、実質10日間で十二個しか用意できなかった。


「ステータス………っげ!」


インベントリに残っていた『身代わりの宝珠』の数を見て、はくはくは絶句。


「俺の命、残機1だった………あっぶねえ!」


『身代わりの宝珠』を命の残機として扱って命がけで魔王に挑む、これがはくはくが考えた作戦である。その残機が1とは危険極まる状況だった訳だが、ともかく―――

こうして、魔王―――魔王シリルの転職は、成った。


そしてはくはくの目の前、彼女を包んだ光の中で頭の捻じれ角が、腰の羽根が粒子の様に消えていく。

彼女から漏れ出る瘴気もかき消え、光が消えた今、純白のドレスを身にまとった女性がはくはくを見ている。


その目は見開かれ、そして自分の姿へと視線を落とし、ゆっくりと天を仰いだ彼女の目から、涙が零れ落ちた。

とめどなく零れるそれは、国を失った過去を思い出したからか、魔王の苦しみから解放された安堵からなのか、はくはくには分からなかったが。


長く艶めく金髪を後ろで束ね、長いまつ毛に縁どられた大きな碧の瞳には星でも瞬いているのでは、と感違いしてしまうほどの、瞳の煌めきがあり。

スレンダーな印象の白いドレスの裾には大胆なスリットが入り、そこから白いストッキングを纏った長い脚が垣間見える。

高いヒールの靴を履き、頭上煌めくのは王国息女らしくティアラである。

はくはくの推測では、魔王からの転職で魔王装備の装備資格を失ったシリルに、世界が調整を行った結果だと考えている。


「たぶん、魔王になる前の格好だ………」


魔王城玉座の間にて黒き装束を纏った魔王は、もういない。



玉座の間に、長くすらりと伸びた背で真直ぐに立つのは亡国の王女シリル。

旧魔王にして―――『勇者』である。

だが、その転職の秘めたおかしな特性をはくはくはまだ知らない。




星評価やブックマークしてもらえると、書き続けるモチベーションが迷子にならなくなります。

切実なので、よろしくお願いします。

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