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第一章3 村娘コスモス




―――はくはくがコスモスと神官居室に立てこもった後。



「外に悪い冒険者が来てて、俺とコスモスさんを狙ってる。俺は神官として拉致するため、コスモスさんは、襲うために」


神官に言われた内容は、コスモスにとって衝撃だった。

―――神に仕える信奉者である神官を拉致?

―――自分を襲う?

―――神から力を与えられた『冒険者』が?

―――なぜ?

神に選ばれた冒険者なのに、神の意図に沿わない悪事を働くとはどういう事だろうか、と。

神に祈り願い続けても与えられない、コスモスが心から欲した力を、生まれながらに与えられたくせに、と。

それは冒険者の非道への怒りであり、同時に自分のどうしようもない無力さへの怒りだ。

怒りはあるが、しかし現実は―――


「わ、私、何も………」


コスモスは何も持たない手を見て、木剣の入った籐籠は祈りを捧げていた長椅子の上であろうと思い当たる。どちらにせよ、相手は神から力を与えられし者『冒険者』。

木剣一本あったところで、抗えるものではない。

しかも、コスモスの懸命な努力の結果、冒険者からしたらとるに足りないその力を発揮することすら木剣無しにはできないのである。


「神様、どうかどうか私に戦う力『職業』を与えてください」


そして、来る日も来る日も捧げたその願いを込めた祈りは、

「祈り、も………」

とうとう届かなかった、コスモスの中に再び絶望が充満していく。


それでも、コスモスは顔を上げた。

木剣が無かろうと、力が無かろうと、抗わずに理不尽に屈してなどやらないと。

なんでもいい、鍋でも箒でもいい、抵抗してやるのだとコスモスは意思を固め、室内に何かないかと彷徨う視線の先に、

「コスモスさん、神官って無茶苦茶弱くて戦えないんだ。コスモスさんを転職させるから、俺の事守ってくれませんか?」

そう告げる神官様がいた。


「え?」


「あ、だからね、コスモスさんを転職させるから、俺を守って欲しいって」


「私が転職?『職業』を得るってことですか?」


「そうそう」


「そんな事出来るはず―――」


「出来ます、出来ます。さっき腕をつかんだ時に、コスモスさんの転職先が頭に浮かんだから」


「か、神様に祈っても駄目だったんです、それを神様に仕える神官様が………」


「出来ます。コスモスさんは転職できる」


「それは、神官様の頭の上に浮かぶ名前と関係がありますか?」


コスモスは聞いて知っている、頭上に浮かぶ名前、それは『冒険者』の証だ。

今朝挨拶した時には確かに無かった白い名前が、目の前の神官様の頭上に浮いていた。


「そうだね。俺は冒険者みたいな神官、かな?だから只人を転職できるんだと思う」


「………」


「あ、駄目か。やっぱり力与えるから、代わりに戦ってって言われても怖いよね。うん、そうだな………。うーん、うーん………ど、どうしよう助かる方法が思い浮かばない!」


しかし、うろたえるはくはくを他所に、コスモスの手がはくはくを掴んだ。


「もし本当にくださるなら、私に戦う力を、『職業』を与えてください!神官様!」


決意に満ちたコスモスの目がはくはくを捉えるから、はくはくはコスモスの頭に手を重ね。


「じゃあいくよ。転職」


はくはくの手を中心にコスモスを包むような光が瞬くこと数秒。

コスモスの転職は、成った。


「『ステータス』って言ってみて」


「はい、神官様。す、ステータス」


コスモスは見慣れぬ、薄い板のような、それでもうっすら光っている宙に浮いたそれを見る。

そこには確かにコスモスの名と『魔法使い』の文字があった。


自分の身体が光るというのは非現実的だったが、それを見るまで職業を得たという実感は無かった。

これといって変化を感じなかったのだ。


しかし今、祈り、願い続け、欲した戦う力。

コスモスはそれを手に入れた。神から『職業』を与えてもらえなかった只人が『職業』を得た。

それは只人コスモスの命の肯定であるかのように、コスモスを幸福感で包む。


腹から湧き上がる熱、胸に灯る希望を確かに感じ、コスモスは祈るように両手を重ねて頭上に掲げる。

木剣を振るった毎日は結果無駄だったかもしれない、けれどそんな事はどうでも良かった。

たった今願いが叶い、それ以外のすべてはもうコスモスにとって些事になったから。


「私、これで戦えます、私、戦って神官様を守ります!」


「いや、まだ転職終わってないよ?」


「でも私、魔法使いという職業をもらいましたよ?」


「コスモスさん。そのもっと先へ転職してみよう。ちょうどこの教会はそういう場所なんだから!」


何を言っているのか分からない様子で、きょとんとした上目使いのコスモスの可愛さに一瞬見入りそうになりながら、はくはくは次の行動を開始した。



◆◆◆◆



「【斬撃】よし、もうすぐだ糞神官!」


「【斬撃】!おおし、やっと割れた!」


冒険者殺し二人で教会の神官居室への木製扉にスキル攻撃を加え続けることおよそ10分。

準神聖領域指定の建物はその見た目の材質より断然固い、木製扉もしかり。二人がかりでも結構時間を食ったが、内部から話声が聞こえるところを考えると、居室内に外へ逃げ出せる窓などは無かったようだ。


二人は、苛立ちと、もうすぐ手が届く美少女を前にした興奮とで、鼻息も荒く壊れた木戸を蹴り倒して居室内へ入った。

そこは、食事が食べられるようにテーブルが置かれた奥行きの広いダイニングキッチンだ。


そのキッチンの奥に、冒険者殺し達の獲物、可憐な美少女が少し震えて立っていた。

神官が見えないのは隠れているからか、少女の横に階段が見えるから、居室二階部分に隠れているのかもしれないと二人は考える。


周囲を見てから、二人は互いに頷きあって、意思疎通し、行動開始。

二人ともが、少女の方へと歩き始め、二人とも少女の方を捕まえようと動いた意図を察して、

「「ああ?」」

互いに威嚇する。

少女を捕まえている方が、先に手を出しやすい。

二人ともそれが分かっているから、獲物を前にして互いに譲らず威嚇しあう。


はなはだ油断が過ぎるという行為であるが、二人にしてみれば神官が戦う能力を持たないのは知っている、神官の呪文に一瞬驚いたのはただ気を抜いていただけだ。


そしてもう一人は只の村娘である。

びんた一発くらったところで、痛みは弱く、自分の生命力を示すHPが1すらも減る事はない。

その辺も、既に実証済である。

もっとも、その相手は村娘と呼ぶには年かさだったが。


未だ獲物から視線すら外して、

「俺が娘を抑えるってんだよ!そのあとの順番は、相談に応じてやる!」

「嘘つけ!てめえ、前もそう言って先に手つけてたじゃねえか!今度は俺が娘を最初にもらう!」

「あのおばはん相手に味見の順番も何もあるかよ!勝手に味見の順番決めようとすんな!くそが!」

「おばはん相手でもてめえが舐めちらかした身体をどう楽しめってんだよ!くそが!」

「「あああん?」」

にらみ合い処か喧嘩を始める始末の二人に―――


「冒険者なのに只人を襲ったんですか?」


村娘の声がかけられてはじめて、居室に逃げ込まれて初めて見る村娘の顔には怒りが浮かんでいた。

睨む視線は凛々しいが、元々は愛嬌のある美顔である。

そのギャップが冒険者殺しの嗜好を刺激して、ぞくりと身体を振るわせる。


「いいねえ、その顔。たまんねーな」


「睨まれながらってのも、いーな」


だから、更に下卑た顔を上気させ、興奮のままに少女を見る。



「神様から『職業』を頂いた冒険者なのに、神様の意思に背いて、只人を襲ったの?」


今一度の問いに、

「冒険者だから襲ったんだろー。俺たちは死なねーんだ。そしたら、やりたい事全部やるだろーが!」

「神聖騎士団以外に罰則ないんだから、そりゃ好き放題するのが人間ってもんよ!」

そう答えた。


「そう。じゃあ、もう私に迷いはありません!」


冒険者殺しの中の少女の震えがぴたりと止まって、

「【炎焼ージンジアー】!」

まっすぐ伸ばした少女の指先が二人を差したまま、鈴音の声で呪文が唱えられた。

魔法威力を底上げする魔道杖すら持たぬ無手のまま。


【炎焼ージンジアー】は炎系魔法の範囲攻撃にして【炎焼】系の最下位魔法である。

その特徴は、最初の炎のダメージと、付与される延焼状態の継続ダメージだが、レベル80の彼らにとって【炎焼】はさほど怖くない。

それに、今度こそ只人が魔法の呪文を唱えるのだから、今度は騙され様がない。


「「はっ騙されね―――」」

冒険者殺し達は、動じずにニヤニヤを顔に張り付けたまま言いかけたが、しかし彼らの足元が燃え上がったから、

「ぐぎゃあ!ど、どうなってやがるぅ!」

「おま、おまえ、村娘じゃねええのかよぉ!」

ゲーム時代と違い痛みは発生する。その痛みに二人は悲鳴を上げた。


レベル80の二人のHPは初撃の延焼効果で半分吹き飛び、徐々に延焼の継続ダメージでみるみるHPが減っていく。

【炎焼】は最下位攻撃魔法職『魔法使い』であれば放てる初期基本魔法の一つだ。

しかし、『魔法使い』が放つ初期魔法が刈り取るHP量では断じてない。


「ただの【炎焼】の減り方じゃねえ!」


「お前、高レベルの魔法使い、いや―――」


あるとすれば、攻撃魔法の威力を上げるステータス『賢さ』が高いために、威力が底上げされていること。

しかしそれは、相手が高レベルでないと成立せず、レベルアップするごとに『賢さ』中心にステータスが伸びる『魔法使い』であっても、攻撃魔法職としては初期職である。

初期職であるために、ステータスの伸びは控えめ。その『魔法使い』のステータスの控えめな伸びがもたらす『賢さ』には到底思えない威力がこの【延焼】にはあった。


「高レベルの魔術師か魔導士か!」


「うそだろ、村娘があ?」


冒険者殺しの片割れが、『魔法使い』を経て転職できる攻撃魔法二次職『魔術師』か、その上の三次職『魔導士』かと踏んだが、それが分かった所で自らの危機は変わらない。


二人は各々、なけなしのHP回復薬・小をがぶがぶ飲んで無理やりHPを回復しながら、村娘を抑えるべく前進しようとし、

「村娘ぐらい力づくで抑え込めると思いましたか?【豪焔焼ーボアジア・ギカー】」

コスモスの呪文の言葉を聞いて、

「う、上位魔法じぇねえかぁ―――」

「おまえ魔導士でもね―――」

そう叫ぶのが精いっぱいであり、炎系【炎焼】よりも一段上の、焔系最強魔法【豪焔焼】の初撃で燃え上がった焔で彼らのHPは一瞬で消し飛んだ。


「私は魔導士じゃありません―――」


彼らがHP0になる直前にそう言い放ったコスモスの声は彼らには届かぬまま。


コスモスの視線の先、肉体が光の粒子になって消えていく彼らに向けて、

「偉大な大神官様に与えてもらった私の職業は―――賢者です!」

コスモスはそう言って。フンスと鼻息を吐いた。


はくはくによってもたらされたコスモスの職業は『賢者』。

魔法系最高位特殊職であり、そのステータスは『賢さ』を中心に爆上がりする。

炎系範囲魔法最弱の【炎焼】が、炎系範囲魔法最強の【豪炎焼】に匹敵する威力になるほどに。

そして、炎系より上位の焔系魔法であり上位魔法である【豪焔焼】が使える職業は限られる。

当然『賢者』という魔法系最高位特殊職は使える側である。



―――村娘コスモス、職業『賢者』である。




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