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第四章6 突撃!魔王城




―――魔王城を遥か遠くに望む上空にて。



空中で滞空飛行する黄金翼竜の背の上にはくはく、コスモス、キュルの三人がいる。


少し雲がかかってはいるが空は晴天といえるのに、遠くに見える魔王城に禍々しさを感じるためか、はくはくの気分は重かった。


何せ、これからはくはくがやろうとしている事が、かなり危険だから。

考えて対策はしたし、成功する自信もある。

そもそも自信がなければ、死んだらおそらく蘇れないはくはくが実行に移すわけがないのだから。


それでも、

「あ、ちょっと胃が痛い気がしてきた………」

ほんの少し弱気が口から洩れるほどには、緊張しているのだった。


そして、難関だったのが、

「反対です!絶対反対!はくはく様が一人で魔王城に乗り込むなんて、私認められません!」

コスモスの説得だった。


「どうしても避けて通れないんだよ。魔王討伐クエストの報酬が強い装備なの。コスモスちゃんの強化に欠かせないの」


「いえ、はくはく様が危険に飛び込むくらいなら、そんな装備私いりません!」


「現状、戦えるのはコスモスちゃんだけだよ。キュルの『祝福』は凄いけど、キュル自身は戦えないし、俺も同じで役に立たない。戦いで役にたてない俺が唯一出来る事なんだ、やらせて!」


「はくはく様は生きていてくれるだけで役に立ってます!生きて息をしてくれてるだけで世界に希望の光をくれる偉大な人です!だから無茶は止めてください!」


話は平行線で決着を見ず、どうしてもコスモスが折れてくれないために、はくはくは最終手段に出る。


それは、ヘルペナ村でコスモスからキュルを連れて行こうと説得された時の事を、その理由を、はくはくが後日唐突に思い至ったのである。

コスモスの下手な説得が、はくはくの突然の心変わりを引き起こしたのは、コスモスに与えられたキュルの『祝福』のせいではないか、と。


だから、

「キュル、お願いできる?」

「あーあーてー?」

よく分かっていない顔のキュルだったが、いつも『祝福』を頼む時にはくはくが言う言葉を受けて、キュルがはくはくの頭に小さな手を置いて付与される『祝福』にキュルの手がピカンと光った。


「突然キュルちゃんに祝福してもらって、どうしたんですか?はくはく様?」


はくはくの行動の意味が分からない様子のコスモスの心配げな顔がはくはくを見るが。


「コスモスちゃん。たぶん、今頃冒険者殺し達が飛空艇を手に入れてる可能性が高い。そうなると、西から一気に冒険者殺し達がこっちへ来るんだ。今までの人数とくらべものにならない数の冒険者殺しだよ。いくらキュルの祝福を受けた賢者コスモスちゃんでも、たぶん勝てない」


「そんなのやってみないと分からないじゃないですか」


「駄目だよ。コスモスちゃんも、キュルも、たぶん俺も死んだらそれきりだよ?試しに戦うなんて駄目だ。戦うなら準備して絶対勝てる戦いをしないと!だから、魔王城へ行かせて、コスモスちゃん!」


「ぐむむむむむ………」


「それに目的は報酬の装備だけじゃないんだ。俺は、魔王を―――」


はくはくが続けた言葉が効いたのか、それともキュルの祝福が効いたのか、

「はくはく様ぁ!私、耐えますぅ!我慢しますぅ!でも絶対、ぜーったい無事で帰ってきてくださいぃ!約束ですよぉ!」

眉をハの字にしてぷるぷる震え、苦渋に満ちた表情を浮かべたコスモスから、しぶしぶの了承を得た。


はくはくは、キュルを挟んで前後の位置のコスモスから、キュルごと一緒に抱きしめられ、

「はくはく様ぁ。ご無事でぇ!ぜったいご無事でぇ!キュルちゃんもそう願ってますからぁ!」

涙声で懇願されてしまったから、胸が痛んで、

「ありがとう。自信はあるから大丈夫!コスモスちゃん、キュルを守って待機お願い!キュルもちょっとだけ留守番よろしく!」

本当は『無茶はしないから大丈夫』と言いたかったがそれは言えなかった。


はくはくはこれ以上に二人に無用な心配をかけさせぬよう、それだけ言って、上空の黄金翼竜の背から管理者権限『飛ぶ』で飛び立った。



目指すは魔王城上部にある別入り口。

ゲーム時代の通称『魔王周回ショートカット入口』であり、この入口を使った場合、本来魔王城正門から侵入した冒険者は強力な魔獣と連戦した上で、最後に魔王に挑む事になるところを、直接魔王とだけ戦えるようになる。


ゲーム時代、魔王討伐の報酬はランダムだった事から、当たりの装備報酬を求めて魔王討伐を周回するのが当たり前だった。

つまり、飛空艇入手段階のプレイヤーに、ゲーム製作者側がこういう攻略で時間短縮攻略もありです、と実にゲーム的に設定された入口である。


久しぶりに管理者権限『飛ぶ』を使って飛んだが、やはり速度的には黄金翼竜より早い。

コスモスが賢者の魔法【飛翔】で飛ぶはくはくと並んでいたから、コスモスの【飛翔】は管理者権限『飛ぶ』と同じ速度と言える。


その翼竜よりも速い速度で近づく魔王城の周辺上空には、翼竜が飛んでいる。

通常の翼竜と違うその翼竜はしかし、肉体は腐っていて、翼膜はところどころ破れ、眼球は落ちて無くなって空洞の眼窩があるだけだ。

その名を『死翼竜』。死んだ翼竜がアンデッドとして蘇ったとされる魔獣である。


「黄金翼竜も、コスモスちゃん達もだから遠くに待機してもらったわけで………」


死翼竜は、通常魔王城へ陸路で近づく『正攻法』で魔王へと挑む冒険者を攻撃する魔獣だ。

対して、はくはくが目指す魔王城上部の入口は、飛空艇入手後に魔王城に乗り付けて降り立つ裏ルートであり、死翼竜は飛空艇に反応せず攻撃を受けることもない。

これがゲーム時代の魔王城であり、死翼竜の行動パターンだ。


がしかし、翼竜で魔王城へ近づいた場合の死翼竜の反応をはくはくは知らない。

「翼竜は建物上部に着地したがらないって設定があったから、試した事がないのが当たり前な訳で………」

だから、どうしても危険に思えて黄金翼竜は魔王城の遥か先で待機させたのである。


では、魔王城に飛んで近づく人間がいた時、死翼竜はどう反応するのか、これもはくはくは知らない。


「冒険者の職業で飛べるのは、賢者と勇者と戦乙女だけで、どちらも重さ的に大人をかかえて飛べないわけで。これから魔王と戦おうってのに、勇者と賢者と戦乙女だけのパーティーとか転職までの難易度が高すぎて………」


特殊上位職『戦乙女』もまた、複数条件をクリアした上で飛空艇入手後に手に入れられる特殊転職アイテムを消費して転職できる、まさに賢者と同じような転職条件を持つ職業。

その転職難易度が低いわけがない。


詰まるところ、飛んで魔王城上部の別入り口から魔王へ挑もうとした場合、全員が賢者か勇者か戦乙女でないと駄目という話である。

ゲーム時代の【飛翔】には重さ制限がかかっていて、抱えた物の重さ如何で飛べなくなる仕様だった。

つまり、多少の重さには耐えて飛ぶことが出来るともいえ、それがはくはくがキュルをおんぶして飛べた理由だが、それは横に置き。


おそらく、プレイヤーの中には手間をかけて転職して賢者と勇者と戦乙女だけで魔王城裏入口への侵入を試した人間もいたのだろうが、はくはくはその結果を知らなかった。


よって、

「死翼竜が旋回して一番上部入口から離れたタイミングで、よし今!」

管理者権限『飛ぶ』の翼竜より速い飛翔にまかせて、攻撃しないでくれ、反応しないでくれと祈りつつ猛然と死翼竜の中を飛び搔い潜ろうとして、周囲の死翼竜の数体と目が合った。


それはつまり、

「あ、反応するのね―――」

はくはくが魔王城の裏入口の扉に手を掛けたと同時、数体の死翼竜がはくはくへ【毒の息】を放ったのが見え、

「―――あっぶなぁ!」

はくはくが扉の内側へ滑り込んで閉じた扉の向うで、

『ばじゅうぅぅぅ!』

と毒の息の着弾音が鳴り響いた。


「ギリギリだった、ギリッギリだったぁ………」


盛大に鳴り響く心臓の音がうるさくて、同時に扉の外の死翼竜の咆哮もうるさくて、しばしはくはくは思考ができなかったが、

「あ、こっちの扉じゃなかった………」

慌てていたはくはくは、二つの裏入口のうち玉座の間への扉とは反対側の扉に滑り込んでいた。


「すぐには死翼竜の敵対が切れないから仕方がない。こっちで時間をつぶそう………」


はくはくは、玉座の間へは行けない方の螺旋階段を降り始めた。



その先は飛空艇でしか訪れる事の出来ない場所でありながら、冒険者の強化には一切寄与しない数点のフレーバーアイテムが入手できるだけの―――祭壇しかないのだが。




星評価やブックマークしてもらえると、書き続けるモチベーションが迷子にならなくなります。

切実なので、よろしくお願いします。

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