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第四章5 目指すは東・ナーブ村再び




―――辺境村ナーブの鉄製物見やぐらにて。



梯子で登る物見やぐらの見張り台という高所から、村を囲う防壁周辺を警戒しているのは村長の息子トルタと綿花栽培を担っている村民男性である。

彼らの村の大神官によってもたらされた安全を確実に守っていくために、村民は一丸となって危機に備え続けている。


村の対角にある二つの物見やぐらにも見張りは詰めているし、周囲の防壁の迎撃窓にも村民が交代で詰めている。

何度か髑髏付きの赤ネームの冒険者の到来を退けて、確かに大神官の言った通りの展開になっていたからその警戒を弱める愚を犯すなど、村民一同にできようはずもなかった。

それは大神官に与えられた大きな大きな恩を蔑ろにするものだから。


「綿花の方はどうだい?」


「良い感じだ。防壁に囲われて魔獣の心配もないからな、畑の手入れも行き届いてるぞ」


「そりゃあいい。衣服はあんた達頼みだからな」


そう雑談を交わしつつも二人は周囲の警戒を怠らず―――それを見つけた。

まだ遠くの空の上に、多数の黒い影が高速で村へと飛んでいる。

コスモスが飛んだ時のような人間の大きさではないそれが、である。

大神官が言った飛空艇でもなく、人間でもない。ならばそれは―――


「西の上空に魔獣多数!敵襲っ!敵襲ー!」


綿花栽培担当が大声を上げ、物見台に吊り下げられている半鐘を打ち鳴らして、村全体に危機を知らせようとするが、

「待て、確認する【長遠射】!」

『連弓師』トルタが遠距離射撃のスキルを発動するが、弓は構えても矢はつがえないまま発動したスキル【長遠射】がもたらすのは遠視の効果であり、

「ああ!いや、鳴らしてくれ!でも、危険じゃない、危険なんかじゃない―――」

トルタの目に映ったのは危険と対極の存在で、

「―――あれは俺達の大神官様だ!皆に知らせよう!」

その姿を見た途端トルタの緊張や焦りは吹き飛んで、

「おーい!大神官様が、俺達の大神官様がお戻りになったぞぉ!」

村中にそれを伝えるべく、物見台を下りて村の中心へと駆けだした。



トルタの声に村民が一人また一人と教会周辺へと集まっていく。

防壁の迎撃当番は持ち場を離れられないから、村人四人に大神官の来訪を伝えるように頼み、トルタは父であるタガーロ村長に報告した後も、できるだけ多くの村民に知らせるべく村を駆け回った。

村民一同一人残らず大神官様の帰還を待ちわびていると知っているから。


「本当?大神官様が戻られたって?」


「本当らしい!トルタが確認したと言うんだから!」


「で、空を飛んでくるのは分かるんだけど、数が多くない?」


「え、あれって………え?」


「ど、どうなってるんだ?」


村民は教会の前で西の空から近づいてくる多数のそれを見上げ、戸惑いの声を上げる。

それもそのはずで、今や遠視の効果がなくとも視認できる距離に近づいてくるのは、大きな翼をはためかせその巨大な体で空を割って飛ぶ―――十を軽く超える翼竜だったのだから。


「なんということじゃ。我らの大神官様の成される事は、わしの想像など及びもせんなぁ」


村長タガーロは翼竜を引き連れて村に降りたとうとする大神官の姿に、今や神々しさすら感じてそう呟いた。

只人に職業を与え、無数の防壁を与えるという奇跡を成した大神官のする事だから、と軽く思考の放棄ではあったが。


教会の前に集まった村民に巨大な影が落ちて、村民達を巻き込まぬ位置へ金色に輝く翼竜がゆっくりと降下してくる。

大きな翼膜がとらえた強い風を身に受けた村民たちが、息を呑んだのも無理からぬ事で。


しかし、その黄金の翼竜の背に大神官と村娘コスモスの姿を見つけたから、巨大な翼竜の威容に臆した不安は吹き飛んで、

「おかえりなさい!大神官様!」

「よくお戻りになりました!大神官様!」

「コスモスちゃんもおかえり!」

「ああ、なんでだろ。大神官様見たら俺涙出て来た………」

「大丈夫よ。私も涙出て来たから………」

「安心、したんだろうよ。心から、な………」

大神官が身近にいる、それは村人にとって絶対的な安心をもたらしたから、大神官を迎える村人は実に晴れやかな笑顔であった。

―――当の神官はまったく戦えはしないのではあるが。



着地した黄金の翼竜へとタガーロは近づき、神へ祈るのと同じように眼前の大神官に祈りを捧げ、

「おかえりなさいまし。我らが大神官様。コスモスもご苦労さんじゃった」

そう言って翼竜から幼子を抱っこして降りる大神官とコスモスを迎える。


「ただいま戻りました。村長さん、皆さん!」


「私コスモス、大神官様をお守りするお勤め、がんばりました!」


大神官もコスモスも表情は明るく壮健そうでタガーロは安心し、

「よくぞお戻りになられました。今回は長く留まってくださいましょうか?」

つい出過ぎた願いを口にしてしまったが、村人の総意でもあるからそう願い、

「残念ですが数日だけ。今回立ち寄ったのは、あれをですね――」

大神官が指さす上空には十を超える翼竜が村上を旋回して飛ぶ姿だったから、

「立派な翼竜達でございますな。流石大神官様、引き連れて飛ぶ姿は壮観でございましたが………あれが何と?」

なぜか胸に緊張が走った村長は心中身構えるように大神官へと問い返し、

「『魔獣使い』系職業でなくても言う事を聞く翼竜十六頭。ナーブ村で預かってください!」

あまりに規格外で本来ありえるはずのないその内容に、

「―――なんて?」

間抜けな返事を返した。



◆◆◆◆



―――辺境ナーブ村にて。



はくはくは懐かしき教会の神官居室で目を覚ました。

場所はテントの中であったが、これは居室には一人用ベッドしかないためで、キュルと一緒に寝るには狭すぎるからである。


ついでに、

「私も一緒に寝ます!一時もはくはく様を一人にはさせられません!」

そう譲らぬコスモスを加えて三人で寝るためだった。


はくはくは目覚めてすぐ教会の井戸で顔を洗い、タオルを濡らして全身の汗を清め、ごく自然に教会の祭壇前で朝の祈りを捧げる。


はくはく本人は神の存在を信じていない無神論者だったが、はくはくの中のルッタが神への信奉を決して譲らなかった。

それにはくはくは思う、祈るのは見返りを求めるためではないのだから、だったら自分の願いを強く持ち続けるためにこそ祈るのも良いではないか、と。


だから、

「目指すは世界平和!」

少々壮大に過ぎる願いを心中で願う。


それは、PVP民に怯えることなく生きる事を望むはくはくの願望であり、全てのNPCは生きている蔑ろにされて言い訳がないと願うNPCとして生まれて生きて来たルッタの願望である。

ただ、それが実現可能かと問われればとても難しいと誰もが答えるだろうが。


「おはようございます!はくはく様!」


「あーうー………」


祈りを捧げ終わったと同時に、コスモスがまだ眠たそうなキュルを抱っこして現れたから、

「おはよう、コスモスちゃん。キュル。朝ごはんにしようか」

「はい、はくはく様。今日こそ、私が作ります!」

コスモスによる料理はしばし、キュルが完全に目を覚ます頃になって出来上がった。

久しぶりのコスモスちゃんのシチューが美味しい朝食だった。



村長に驚かれて、次に村民に驚かれたはくはくだったが、ひとまず翼竜十六頭はナーブ村で預かってもらえることになった。


村内を歩くはくはくの視線の先には、管理者権限の『自由建築モード』で出した『従魔舎・大』が九つ並んで建っていて、一舎に二頭の翼竜を飼育できるようになっている。


少々場所をとってしまったため、村長は防壁の拡張計画を進めると張り切っている。

有り余るほど渡している鉄製防壁建材があれば防壁をさらに広げられるからであり、周囲を開墾する力が村民にはあるから。

職業とレベルによって底上げされた筋力である。


「おはようございます!大神官様!おはよう、コスモスちゃん、キュルちゃん!」


「おはようございます!お三方!」


「おはようございます!………」


村民の挨拶を受けながら歩くはくはくの目の前で、子供を前に乗せ、後ろに女性が騎乗した翼竜が従魔舎の前から舞い上がっていく。

翼を力強く羽ばたかせ、あっと言う間に上空へ。


「うわー!飛んでるー!」


「本当ねえ!お母さん、一度でいいから空を飛んでみたかったの!夢がかなったわ!」


空から楽し気な声が降ってきたから、はくはくは満足である。


従魔舎に近づくはくはくに気づいて、

「「「おはようございます!大神官様!」」」

朝から翼竜を見たい者、飼育するのだと意気込む者が多くいたらしく従魔舎の前には村民の姿が多い。


特に村民が一番多く集まっているのが黄金翼竜の従魔舎であり、外からうっとりと眺めている者もいれば、従魔舎内でせっせと黄金翼竜を洗っている者もいる。

いずれもいい笑顔だから、好意を抱いているのは明らかだった。


「そうでしょう、そうでしょう。黄金翼竜は正義!」


「うちの黄金ちゃんが一番です!」


「あーいー!」


そうは言っても、元々翼竜好きのはくはくであるから、どの翼竜も可愛いのだが。

強いて言うならという注釈付きでは、黄金翼竜が一番好きである。

なにせ、はくはくの黄金翼竜はただ金色な翼竜ではない。

全能力が通常の翼竜の五割増しで【忘却咆哮】が放てる本物の黄金翼竜なのだから。


三人で自慢の黄金翼竜が愛でられる姿に満足しつつ、従魔舎で翼竜の世話をしてくれている村民へ、

「翼竜の飼育、大変だと思いますが、よろしくお願いします」

そう願ったが、

「あ、いえ!まさか翼竜の世話ができるなんて思いもせなんだんで、嬉しいです!」

「あたしも、なんだか誇らしくって!」

「そうです、俺達ぁ皆好きでやっとりますんで!」

皆にいい笑顔を返されたから、三人で黄金翼竜をひと撫でしてから従魔舎を後にした。


「もう少しだけ、ここでやる事もあるし。よし、頑張って用事を済ませて、昼は村の食堂へ行こう!」


「そうですね!私も久しぶりに食堂の料理が食べたいです!キュルちゃん、美味しいんですよ!楽しみにしててね!」


「あーいー!」


食堂は、宿屋兼食堂でありナーブ村唯一の宿であり、元々村娘コスモスが住み込みで働いていた店である。

コスモスにとってはきっと懐かしくも思い出深い場所で、清貧を心掛けていたルッタが一度も訪れなかった場所でもある。


しかし、はくはくは無駄な金は使いたくはないが、必要な金は使うことに躊躇いはない。

村に現金を落とすのも村のためになるのだから。


こうしてはくはく達は、当初の目的をいくつか果たして、四日後ナーブ村を後に黄金翼竜で空へと舞い上がった。



目的地はナーブ村より遥かに東、魔王が住まう―――魔王城である。




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切実なので、よろしくお願いします。

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