第四章4 『モフ連はちゅ連』のあのあ、驚愕の原因はくはく
―――ビリル神聖王国王都大通りから外れた冒険者宿にて。
従魔を愛するクラン『モフ連はちゅ連』クランの副リーダー・のあのあは、従魔や騎獣を預かって世話する商売を行う騎獣舎に、冒険者の誰かが預けた黄金色の翼竜を見に行こうと、クランが拠点代わりに利用している冒険者宿を後にした。
「あの黄金翼竜ちゃんだけが、こんなにわたしを引き付けるのは、なんでなんだろう?」
のあのあの悪い癖で、愛して止まない翼竜を見てしまうと、ずっと見ていたい、ずっと撫でていたいと欲求が止まらなくなる。しかし、それはのあのあの従魔としての翼竜の話だ。
他人の翼竜も確かに、見たくなるし、撫でたくなるが、大抵一度で気持ちは落ち着く。
なのに、ここまで毎日通いたくなるのは初めてだった。
『魔獣使い』系職業ののあのあには、触れると『従魔』と分かる技能があるから、間違いなく黄金翼竜は『従魔』である。
しかし、騎獣舎の職員は只人であり、『従魔』が『魔獣使い』系以外の指示を聞くことはない。
但し例外があって、『従魔』の主に「この人の指示に従え」と指示されている場合は、その指示に従う。
但し、指示に従う期間は長くはなく、数日で指示を忘れてしまうため、騎獣舎から『従魔』の主には五日おきに指示のかけなおしを行う、という同意書が交わされるのだが。
それに、『従魔』が理由なく暴れる事はない。
ただ、指示に従わないだけだ。生かして預かっておく事だけを考えれば騎獣舎側には、特に難しい事ではないのである。
「おはよう!金色のかわい子ちゃーん!」
今日も午前中いっぱいは、綺麗に体を洗ってあげて、撫でまわすつもりであった。
騎獣舎の店主にも許可はもらっている。
一度試しに洗わせてくれと願い出て、その手際を認めてくれたらしい。
ゲーム時代には魔獣を洗う必要などなかったから、転生後初めての経験だったが、何度か爬虫類成分を補給しようと、騎獣舎を訪れて洗体の様子も見ていたのが役に立った。
そこに、
「ああ!のあちゃん、今朝もここか!」
「いーでしょー?午前中は自由行動って、リーダーのはーめるんが言ったんだから」
「あ、いや探したってだけだし、分かりやすかったから良いよ」
「わたしは単純な女ですからねえ!」
「怒るなよ、のあちゃんのは単純っていうより、純愛を尽くすタイプってだけだ」
「どうした、わたしが好きになちゃった感じ?」
「いや、違う。のあちゃんの評価の話で………いや!そんなことはどうでもいいんだ!騎獣商会とバルディン武器防具店の両方から、のあのあに来て欲しいって使いが来たんだ」
「へ、騎獣商会もバルディン武器防具店とも、わたし行った事すらないよ?」
「理由は分からないけど、両方とも店主が直接伝えに来たから、間違いじゃないと思う」
「むむぅ?どうゆうこと?」
まったく心辺りが無いのあのあだったが、名ざしで呼ばれてるのなら行くしかない。
無視するには、気になりすぎるから。
◆◆◆◆
―――バルディン武器防具店にて。
「待っておったわい。ああ、ワシはこの調子でしか話せん。お客人には失礼かもしれんがの」
のあのあは騎獣舎から近かったと理由で、先にこちらを訪れたのだが、
「ねえ、何か入店に条件とか無かったっけ?」
「ああ、レベル100以上の者、だな」
「わたしのレベルで入れるわけないんだけど?」
「呼ばれたんだから、とにかく―――」
二人が到着するや否や、あっさりと厚い木戸が開かれた。
「『モフ連はちゅ連』の、のあのあさん、ですね?」
白い名前の浮いた男が二人を迎え入れ、冒頭の店主の挨拶を受けることになった。
「ごめんなさい。店主は職人なもんで、丁寧な感じで話せないんですよ。あ、俺はこの店の店員です」
「そういうこった。では、早速伝えるぞ。えー、あー、なんじゃったかの………」
「バルディンさん、もうー。俺から伝えますよ。いいですね?」
「おう、任せた任せた」
「では、『カジノで会ったはくはくです。ちょっと勝ち過ぎたのでおすそ分けです。クラン同士助け合って強くなって欲しいです。お願い』………というのが伝言の内容になります」
その伝言の内容から、のあのあは推測するしかないが、分からないものは分からないから、
「ひょっとしてカジノで勝ち過ぎたって意味かな?おすそ分けって、なんだろ。思い当たらないぞ」
そう呟いたのだが、
「ああ、そのおすそ分け―――いや、そんなレベルじゃない気が………いえ、ごほん!そのおすそ分けを当店が預かっているという意味でして。ですから、お二方の入店条件は今回のみ無効としました」
「ここの装備すごく高いはずだぞ、のあちゃん!」
「そうなの?それは、おすそ分けにしては、借りが大きぎるね?むむぅ」
そう唸るのあのあ達の前に、
「驚かないでくださいね。常識は今は捨てておきましょう。いいですね?」
店員が意味深な事を言うから、
「何が起こる、の………」
そう身構えるノアのアの前に、
『ガチャリ、ゴトリ、ズン、バサ、ガチャリ、ゴトリ、ズン、バサ、ガチャリ、ゴトリ、ズン、バサ、…………』
装備が置かれ続けることに二十分。
布を敷いた店内床から、うずたかく積み上がった装備。
剣も斧も刀も弓も短刀も、鎧兜も、魔法使い系ローブも、僧侶系服も、部分鎧も、それらは全て『バルディン』謹製。
「200人分程度の装備になります」
店員の引きつった笑顔に、
「「―――なんて?」」
のあのあと、男の間抜けな声が返されて、
「ばっはっはっはっは!豪快な男もおるもんじゃて!」
店主の豪快な笑い声が店内を満たして、
「ちなみに、ここにあるのは、はくはくさんが購入した全てではありません。これとは別に三百人分くらいを自分で受け取っていきましたから」
遠くを見る目の店員が、頭のおかしな話をしているから、
「どんだけの勝ちよ!どんだけの借りよ!はくはく君、やりすぎぃ!」
のあのあの絶叫が上がった。
のあのあは知っている。
カジノでは通常、お金でカジノ内でしか使えないコインを買って、そのコインを増やすべく賭けに勤しむ。こちらは、負けもすれば勝ちもする。公正と言える勝率の範疇。
但し、コインは景品交換にしか使えず、お金には戻せない。
もう一方、お金を賭けてお金を増やす賭け台も存在するが、この台の勝率が極端に低く、まずお金は増えない。
ゲーム時代から有名で、誰もカジノでお金を増やそうなんてしない程に常識だった。
それに勝って、大金も大金、のあのあには想像もつかない金額を得た?何の冗談だろうと思うのは当然であった。
―――絶叫も上げたくなろうというものである。
◆◆◆◆
―――騎獣商会にて。
「おお!『モフ連はちゅ連』の、のあのあ様ですね!私、当商会会長でございます!」
どこをどう歩いて辿りついたのか、のあのあは思い出せないほど、常識はずれの出来事で頭が回っていなかった。
バルディン武器防具店で、無言で延々と装備をインベントリに回収しつづけて、どっと疲れて、仲間の男に手を引かれるように、とぼとぼと歩いた。
「出来るなら、帰って寝たいよぉ。夢落ちで許して欲しいよぅ」
「しっかりしろ、のあちゃん!」
「君は当事者じゃないからそんな事言えるんだよぅ。お願いだから代わってよう」
「無理だ、のあのあ名指しなんだぞ!」
「もう、これ以上驚く事ないよねぇ?無いよねぇ?」
「………」
「無いって言ってくれないんだぁ………」
そう愚痴をこぼしながら、こうして冒頭の騎獣商会会長の挨拶を受けた。
のあのあと男の前には、会長の他に男性と女性。
女性の方は頭上に白ネーム、冒険者らしかった。
「私は商会店主で、こちらは従業員でございます」
「よろしくお願いします」
丁寧で恭しい挨拶を受けて、のあのあの不安が増していく。
既視感を感じるのは、なぜだろう、と。
「では、伝言から先にお伝えしましょう『カジノで会ったはくはくです。翼竜の手懐けは南東の風啼き渓谷の方にして下さい。黄金洞窟に翼竜はいません』でございます。私では意味までは分かりかねますが」
「へ?黄金洞窟に翼竜ちゃん、いないの?どうして?手懐けで頭数が減っても再配置するはずなのに………」
「まあ、一方には少なくとも翼竜がいるなら、まあいいじゃないか。な、切り替えろよのあちゃん!」
「あ、うん。そうだね、うん」
「続きまして、お二方ともこちらへ」
のあのあと男は、商会の三人に促されるまま、商会裏手の高い石壁で覆われた広大な広場へと導かれた。
そこに、五頭の翼竜を見つけて無邪気に、
「あ、翼竜ちゃんだ!―――っまさか?」
喜びそうになり、その流れが予想できてしまったから、
「はくはく様より、こちらの『騎獣』翼竜五頭をのあのあ様名義で差し上げて欲しいと依頼されました」
その予想通りの会長の言葉に、
「………」
もう考えるのを止めた。
「『騎獣』翼竜って一体どれくらいするんですか?」
のあのあの隣で仲間の男が会長に尋ね、
「これくらいでございます」
会長の指が五本立てられたのを見て、
「ああ、絶対俺の知ってる桁じゃないな、これ」
そう言って天を仰いだ。
「いや、考え方だ。この子達がいれば、東部へ安全に遠征できる!私の従魔翼竜を手に入れられるかも!」
のあのあは、そう思いなおした。
はくはくが、翼竜好きなのあのあに翼竜達を贈ってくれたのは、きっとそういう意味だ。
バルディン武器防具店の伝言では、『クラン同士助け合って強くなって』というものだったのだから。
そう考えれば、のあのあの気持ちは軽くなり、その頭をなでようと翼竜の前に進む。
一頭一頭が愛おしい、のあのあの愛して止まぬ翼竜であるのだから。
例え戦う能力を失っている『騎獣』であれ、この子達は安全な空を飛んで、冒険者を目的地に連れて行ってくれるのだ。
「どの子もみんな可愛いよ。『騎獣』ちゃんた―――」
最初の子の頭に触れた時に、のあのあはありえないはずのものを感じて絶句。
それは魔獣からの反応であり、『魔獣使い』が『従魔』に触れた時に感じる特殊な感覚。
つまり―――、
「君も、君も?君もぉ?この子達『従魔』なんですけどぉ?」
五頭全てが『従魔』である証拠だった。
「ええ、いえ。そんなはずは!あり得ません!」
「そうです、ここの広場に連れ出した者は只人です、従魔が言う事聞く訳がございません」
「はい私も見ていましたから本当です。見たところ僧侶系のはくはく様が騎乗鞍を付けられていた際も、おとなしく従っていました」
しかし、
「いや、本当です。俺も『魔獣使い』なんで。全部、感じます。従魔の反応………」
仲間の男の言葉に商会の三人は、
「「「ええええ………」」」
驚くしかなかった。
「ねえ、君だけここに残ってて!わたし、はくはく君を探してくるから!」
のあのあは、仲間の男を翼竜たちと留まるように頼んで走り出した。
彼を留まるように頼んだのは、『従魔』が『魔獣使い』系以外の者に従わないためだ。
いくら『騎獣』の扱いのプロであっても、彼らの指示に従う事はもう無いはずだ。
只人の指示を聞いたなど、何かの間違いで、それ以外ないのだから。
商会を飛び出し、向かうはカジノか、カジノ周辺。
「黄金翼竜の騎獣舎に居る時に、なんどか見かけたから、騎獣舎あたりもいいかも!」
走りに走って、騎獣舎が見える位置まで来たのあのあの目に、金色の輝きが映らなかったから、
「うそ、黄金翼竜ちゃん、もういなくなっちゃったの?」
はくはくそっちのけで思わず空を振り仰いで、
「ああ、飛んでいっちゃう―――え?」
眼前、たった今飛び立ったと思われる上昇していく黄金翼竜の背に、
「はくはく君?うそ、君がその子の持ち主?なんで?その子も『従魔』なのにぃ?」
どう見ても僧侶系のはくはくが『従魔』に乗って飛び去っていくから、
「はくはく君、君何者よぉぉぉぉぉ!」
とうとうペタンとその場に座り込んで、
「ん?待って待って!はくはく君と初めてカジノで会った日に、黄金翼竜ちゃんに会ったよね?あの時、はくはく君カジノは初めてだって言ってたよね?じゃあ、黄金翼竜スキンはまだ持ってないはずよね?だって、黄金翼竜スキンはカジノの景品交換限定アイテムなんだから―――」
のあのあは、頭に浮かぶその可能性を何度も振り払おうとして結局、
「まさか、本物の黄金翼竜じゃないよねぇ!まさかねぇ!」
口に出してみたそのバカバカしさに思考を放棄した。
黄金翼竜は手懐け対象外で、絶対に『従魔』にならないのだから。
その後、はくはくに問いただせなかった事、黄金翼竜ちゃんにもう会えない寂しさとで、実にとぼとぼと騎獣商会へ戻ったのあのあに、
「のあちゃん、落ち着いて聞いてくれ!」
仲間の男がそう言ってくるから、
「まだ、あるのぉ?わたしもう限界いっぱいなのにぃ!」
両手で顔を覆って何も見ないぞと示したのだが、
「この五頭の『従魔』な、『魔獣使い』でない只人の指示も聞くぞ」
信じられない事を言うから、
「なんでぇ?」
そう間抜けな問い返しを口にするしかなかった。
はくはくは、シビル神聖王国王都在住『モフ連はちゅ連』のあのあを翼竜好きの同士と認め、出来る範囲で贈り物をした。PVPクランの対抗馬として、PVEクランに強くなって欲しい思惑もあった。
PVEクランが強くなれば、必然的にはくはくや、NPC達にPVPクランがちょっかいを出す機会は減るはずだから。
ただし、はくはくが安全にかける執念が、少々やりすぎてしまったのは致し方ない事である。
よって、『モフ連はちゅ連』のあのあと、この後巻き込まれるクランには―――やりすぎがすぎる贈り物であった。
これもまた、超低確率の賭け台にも負けぬキュルの『祝福』の暴威と言える。
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