第四章2 王都生活・コスモス暴走
この作品、皆さんには楽しんで頂けてますでしょうか?
少しは読んで頂けてありがたいと思いながらも、評価などの読者様のアクションが無さすぎて毎日不安な作者です。
少しでも面白いと思って頂けてるなら嬉しいのですが、実際どうですか?
少しでも面白いと思ってるよ、という方はブックマークや評価いただけると、作者はとても安心して書き続けられるので、ぜひお願いします。
―――ビリル神聖王国王都にて。
コスモスとキュルは手を繋いで、五階建てはあろうかと思われる真っ白いホテルや商店の街並みの中をとぼとぼと歩いていた。
コスモスが生きて来た17年の中で見た最も高い建物はナーブ村の教会で、それ以外の家は全て平屋であったから、見上げるほど大きな建物に囲まれるのに慣れない。
それに、もともと田舎の村娘に過ぎぬコスモスである。
都会の威容に興味以外に、不安が半分くっついているのも仕方が無い事だ。
何より、ビリル神聖王都内は安全だと言うはくはくの言を信じたものの、はくはくと別行動を願われたコスモスの胸は不安でざわざわと沸き立っているからだ。
「はくはく様を一人にするの、不安です………」
「あーいー………」
コスモスの顔に見える不安につられて、キュルも自然とうつむき加減。
それをコスモスが見て、はっと考え直す。
「いえ、いけない。これは私の偉大なはくはく様からの指示!キュルちゃんと楽しんできて、という指示なんだから、楽しまなければ!」
キュルを不用意にうつむかせてしまった、自分の不安げな顔と言を反省し、コスモスはキュルとつないだ手を、大きくぶんぶんと振って、
「キュルちゃん、顔を上げて、楽しんでいきましょう!」
そうにっこり笑った。
楽しもうと考えなおした途端、コスモスを威圧しているかのような王都の景観は、キラキラした都会然として映るから不思議である。
上空から見たとおり基本的に建物の壁色は純白だが、玄関や窓枠はそれぞれ個性があるし、商店やレストランの玄関前に立てられている看板もカラフルで面白い。
キュルとともに屋台で買ったジュースを片手にその看板を眺めては、
「キュルちゃん。ここは、レストラン」
「えーすーとーあー?」
コスモスは店をひやかしつつキュルに王都ならではの単語を教えて歩いている。
村にあるのは食堂で、レストランなどと洒落た呼び名ではなかったから。
「本当ならもっとしゃべれる年頃なのに、キュルの言葉が遅れてるのはあたしらのせいだ」
ヘルペナ村の宿屋のおかみによると、
「キュルはあたしくらいしかまともに相手をしなかったからね。ある程度言葉は理解してるのさ。けど、言葉を口にする機会をあたしらがまともに作ってやらなかったから、キュルの口は言葉を出すのに慣れていないってわけさ。本当に、いい大人が何をやってたんだって………」
キュルは言葉をかけられる側で、誰もキュルの言葉を必要としなかったから、発音する事にそもそも慣れていない、という事らしい。
当時の村民がキュルに投げかける言葉は、「寄るなよ!」「触らないで!」と似通ったひどい言葉ばかりだったろうが。
「慣れてないのなら、今からで良いし、ゆっくりで良いんです!ね、キュルちゃん!」
「あーいー!」
「キュルちゃん、これは看板」
「あーばー」
看板を指さしてコスモスの言葉を繰り返そうとするキュルの横顔を見ながら、コスモスはフンスと鼻息を吹きだした。
「うちの子、可愛い!」
「ああいー?」
「そう、可愛い!」
「あーいー!きゃっきゃ」
「ああ、こんなに可愛いキュルちゃんにご褒美をあげたい!」
コスモスは親ばか丸出しで、初めて見るソフトクリームなる甘味を買ってキュルと共に、
「つ、冷たいし甘くてふわふわ!これが王都の力!」
「あーいーいー!」
その冷たさ甘さふわりと柔らかい触感に驚いて満面の笑みのまま通りを歩く。
「あ………」
コスモスの視界の中に、はくはくが騎獣舎に預けた黄金翼竜にべったり頬をくっつけて恍惚のだらしない笑みを浮かべた女性がいた。
翼竜を模したと思われるもこもこの服を着て、その頭上に白い名前が浮かんでいるから冒険者であるらしいが。
「わたしたちの黄金ちゃんなのに………」
只人の娘が「わたしたちの黄金翼竜ですよ!」と言っては要らぬ疑いを招くし、はくはくに確認もとれぬまま冒険者と接触するのは得策ではないだろうと無視することにしたりして。
ふと目に着いたショウウィンドウの中、女物の可愛い服を身にまとったマネキンが数体並んでいる。
ひと際上品な店構えの店だが、そのマネキンの二体の纏う服が気になったから、
「キュルちゃん、ちょっとこの店をみていきましょう」
「あーいー」
コスモスは店の玄関を押し開けようとして、中の店員がコスモスが扉に手をかける前に開いてくれた。
店内は明るく、ほどよい間隔でマネキンと衣装ラックや平台が並んでいて、店員は全て女性。
女性達は皆コスモスより年上ではあるが若く、皆シワひとつない制服に身を包んだ美人である。
彼女らに「いらっしゃいませ」と店に招き入れられ、コスモスは店内にもショウウィンドウで見た気になる服を纏ったマネキンを見つけて、じっと見る。
その服が可愛いとか、綺麗だとか、自分やキュルに似合うとかそういう意味を持たぬコスモスの視線は、
「どうして布面積がこんなに少ないの?」
という意味であり、
「ほとんど下着だ………」
コスモスの感想である。
「お客様、水着をお探しですか?」
店員の一人にそう声を掛けられて、
「水着、というんですかこれ。あの、どんな時に着るものなんですか?」
コスモスは素直に聞いて、
「水に入る時に着用します。海や湖で泳いだり、水遊びの時に、ですね」
しかし店員の返事の中にまた分からぬ単語があったから、
「泳ぐって何ですか?」
そう聞きなおし、
「全身で水につかって、水の中を自在に手足や体を使って進むことを泳ぐと言いますね」
その答えに自分が見たあの広いヘルペナ村の眼前に広がる海に、自分が泳ぐ姿を想像して、
「買っちゃおうかな」
そう口にしたのは、それは楽しそうだと思ったからだ。
ナーブ村の外を怖がったコスモスはもういない。ここにいるのは、存分に世界を見てやろうというコスモスなのだ。海で泳ぐという経験もまた楽しそうだとそう思ったのである。
「ありがとうございます。お客様なら、こちらもお似合いですが、あちらもお勧めですね。あと可愛らしいお子さんにもぴったりな水着もございます」
店員がいい笑顔で勧められるままに、自分用の数着の水着と、キュル用の水着数着、それと子供が安全に海に浮かべるという浮き輪数個も加えて購入することになった。
「当店のお勧めがもうひとつ。良好な夫婦仲や恋人仲を保つ秘訣としてお勧めしておりますのが………」
そういって案内されたコスモスの眼前には、さっき買った水着とほぼ同等の布面積でありながら、肌色が透けて見えるような上質なメッシュでレースの飾りが施された服であり、
「旦那様や恋人の愛情を釘付けにする、勝負下着でございます」
店員が笑顔で勧めてくるから、
「い、一応、買っておこう、かな………」
コスモスは若干顔を赤くしてそう言った。
コスモスがはくはくに抱くのは敬愛である。
偉大な人物に対する強い尊敬を芯に据えたそれは、情愛とは異なる。
はくはくに劣情を抱いた事もない。
がしかし、はくはくの成す事すべてに感動し、彼の想いを素敵だと思っている事は事実で。
コスモスがはくはくに劣情を抱かないのは、もしかしたら、不遜であると自制心が強く働いた結果かもしれないが。
それは横に置き。
ただ、もしかの偉大な大神官はくはくが、コスモスにそういう行為を求めたとしたら自分はどうするだろうと考えて、答えは一瞬で出た。
「私の全てははくはく様のもの!期待に応えてみせます!」
両肩に大量の紙袋を下げて衣服店から出たコスモスは、空を見上げるようにしてそう決意を口にして、フンスと鼻息を吹いた。
「あーいー!」
その言葉の意味も分からぬままに、キュルもコスモスを真似てフンスと鼻息を吹いた。
―――勝負下着まで買ってしまった村娘、コスモスの明日はどっちだ?
◆◆◆◆
―――ビリル神聖王国王都に滞在して二週間経過した頃。
はくはくは毎日カジノに通い続けて当然の様に勝ち続けた。
理由は一つ、キュルの『祝福』付与のクッキーを食べたからである。
それでも、はくはくの計画に必要な最低限の勝ちですら到達するまでに二週間かかってしまった。
途中余計な事をして四日ほど計画とは別の思いつきの方の賭けに時間を費やしたりもして。
煌びやかなカジノは初見こその派手さに驚きもしたが、毎日毎日賭け台の前に座って日がな一日賭け賭け賭け、である。
「もう嫌だ。カジノはもう嫌だ………」
特に賭け事が好きではないはくはくは、その毎日の賭けにうんざりする程には精神をすり減らして疲れ果ててしまっていた。
計画に必要な最低限の勝ちにもうすぐ到達すると思ったはくはくは、翌日もカジノに来るのを嫌がって、結局夜までカジノで粘った。
その甲斐があって、勝ちに到達して目的は達成できたが、毎日夕方にはコスモスとキュルの待つホテルに帰っていたのに、帰らないはくはくを心配してコスモスが起きて待っていた。
「あ、ただいま。コスモスちゃん」
「はくはく様、大丈夫ですか?少し顔色が悪いですよ」
「疲れただけ。あと、もう明日からカジノに行かないで済むよ。夜も遅いしコスモスちゃんは先に寝て。俺、夕食食べてから眠るから」
「分かりました。明日からは一緒ですね。私もキュルちゃんも嬉しいです」
コスモスは寝ているキュルの桃色の髪を手で撫でて、ベッドに入りこんだ。
「あ、もう寝てる。コスモスちゃん寝つきがいいからなぁ」
ベッドに入ってすぐ聞こえてくるコスモスの寝息に、はくはくはそう漏らし、眠い眼をこすりながらインベントリから取り出したサンドイッチを口に運ぶ。
しかし、疲れと眠さからはくはくは何度か寝落ちしてしまい、結局深夜過ぎにテーブルに突っ伏すというのを二度繰り返して、食事は諦めて寝ようとふらふらとベッドに向かったのだが。
「―――っ!」
キュルが幼子の寝相の悪さで掛布団を蹴飛ばして、コスモスの寝巻姿が露わになったその先。
開けた胸元に、透けそうなレースの下着が垣間見えて、驚きで思考が停止した。
白く艶やかなコスモスのふくらみと谷間を強調するような、黒。
レースの飾りが美しい身体をまるで誰かへの贈り物のように包む、大変けしからん姿である。
「な、な、なんて下着を着ているのかな?」
ビリル神聖王国王都は安全である。
だから、只人が魔法使い装備を着けているという悪目立ちを避けてもらうために、コスモスには王都内では私服を着てもらっていた。
当然、夜の襲撃もないので、眠る時は寝巻に着替えていたコスモスであるが、まさかそんな過激な下着をつけているとは夢にも思わなかったから、
「い、いや、コスモスちゃんの自由。そう、コスモスちゃんがどんな下着を着てようと、自由………」
そうつぶやいて、キュルをはさんでコスモスの反対側のベッドに入ったはくはくは、早鐘のような自身の心臓の鼓動で当分の間寝付けなかったのだが、
「おはようございます!はくはく様!」
翌朝元気に目覚めたコスモスには預かり知らぬ事であった。
例え、いつ偉大なはくはくの劣情が自分に向けられても応えられるようにと、毎晩勝負下着を着けていたとしても、はくはくの寝不足はコスモスのせいではない。
朝は少し苦手なキュルが、身体を起こしたまま上半身をゆらゆらさせてまだしつこい睡魔と戦って。
その間にバスルームで着替えを済ませたコスモスの後、はくはくは朝から風呂に入ってさっぱりとする。
昨夜風呂に入る前に寝てしまったからというのと、睡眠不足感を風呂で払拭するためである。
「おはよう、キュル」
「おーあーいー!」
風呂を出たはくはくをやっとすっかり目覚めたキュルが迎えてくれた。
はくはくの足にはっしと抱き着いてはくはくを見上げる笑顔が可愛い。
いくら計画のためとはいえ、二週間も二人を放っておいたことに罪悪感も沸こうというものだ。
だから、
「今日、明日は三人で王都観光に行こう」
はくはくがそう言い出すのも無理はない。
二人には、はくはくの気持ちを示して存分な満足を得たもらいたいのだ。
つまり―――接待である。
星評価やブックマークしてもらえると、書き続けるモチベーションが迷子にならなくなります。
切実なので、よろしくお願いします。




