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第三章11 キュルの暴威




―――イベントクエスト『魔獣到来』。



ヘルペナ村も発生場所の一つとされる、小規模レイドクエストに分類されるクエスト。

『レイドクエスト』は多数の冒険者による集団戦で挑む、集団戦用クエストを指す。

本来、数人程度で勝てるクエストではないため、多数の冒険者が発生場所に集った時に始めて、魔獣襲来イベントが発生するかどうかが低確率で決定されて発生するクエストである。


そして『魔獣到来』が発生した地点では、村人が襲われた恐慌状態の中で冒険者に助けを求める形で自動受注になる。

つまり、冒険者は近づくだけで勝手に受注してしまうクエストである。

だから、これらのイベントクエスト発生地に近づく場合、一般的には『多数の冒険者』と認識されない人数でパーティーを組んだり、他パーティーと一緒にその場所に行かないのが鉄則だ。

それを守っていれば、イベントクエストの発生自体を抑えられるのだから。


しかし、なんとしてもはくはくを確保するため、『スノウドロップ13』のトートは現状出せるメンバーを遠慮なく連れていた。

ゲーム時代にはあったパーティーの人数上限五名が、この世界には無いために十一名パーティーである。

当初の目的地ナーブ村がイベントクエスト発生地ではなかったから遠慮しなかったのではなく、イベントクエストなどどうでも良かったからという方の理由で。

イベントクエストが自動受注されようが、クエストを攻略しなければならない訳ではない。発生地から離れる事も可能で、その時はクエスト失敗になるだけで痛手はない。

当然、イベントクエストで襲来した魔物によって、村は壊滅状態に陥るが、それも二週間もすればNPCが再配置されて村は復活するのだから。

その場合、当初の村人が魔物に殺されようが、トートは気にしないから。


そのトート達の接近によって、低確率のはずのイベントクエスト『魔獣到来』が発生してしまったのは不運としか言いようがない。

ヘルペナは漁村であったから、陸側は防壁で囲ったが、漁の場である海側を囲う訳にはいかなかった。それで、村内部で魔物の上陸を迎え撃たねばないのは仕方のない話である。

戦う力を神に与えられなかった只人である村人には、絶望的な状況だった。

―――ただの只人だったならば。


「【奔落雷ーヴァルナ・ゼー】!うひゃあ、何だこの範囲と威力!」


中年漁師、職業『暗黒騎士』。

『暗黒騎士』は攻撃魔法も使える物理戦闘職であり、中程度までの攻撃魔法を放てる。その彼が放った魔法の威力と範囲は、ついさっき練習で放ったものとまるで違うから、『暗黒騎士』は驚きに声を上げた。


「キュル、お前、すっごいな!」


「あーいー!」


そうキュルの祝福を受けて、攻撃力が爆上がりしているのである。


そして、

「あーあーてー!」

相手に触れるキュルの手がピカンと光り、

「あーあーてー!」

相手に触れるキュルの手がピカンと光り、

「あーあーてー!」

ピカンと光りを繰り返し、キュルは海岸線防衛村民部隊三十名全員におしみなく『祝福』をばらまいている。


桃色の髪はすっかり綺麗にカットされ、汚れもなく綺麗な身体に、愛らしい顔。

薄い緑色のかわいいフリフリのワンピースに身を包んだキュルは、かつて『腐敗の呪い』を振りまくしかなかった手で、今や『祝福』を与える。

その喜びと、人に触れられる喜び、そして皆一様に「ありがとう!キュル」と言ってくれるから、実に嬉しいキュルの祝福は、最高の笑顔で与えられるから、村人は皆その幼子の笑顔にメロメロになり、

「みんな、キュルのために勝つぞお!」

「おお!キュルには絶対さわらせん!」

「「「「やるぞお!」」」」

その士気をも爆上げする事になった。



海岸線防衛村民部隊三十名は、ノリス村長によって差配されたグループであり、防壁の方にも三十名が配置されている。

海洋魔獣が上陸を開始する前に部隊を組織し配置できたのは、はくはくの報告と説明が早かったからである。

ただ、推測される海洋魔獣の数を聞いてノリスは気が遠くなりかけたが。

海岸線防衛村民部隊三十名の後ろに、海岸死守のリーダーとしてノリスも立っている。


「はくはく様が防壁にいて下さっとるから、防壁は安泰じゃ。海洋魔獣の数を聞いた時には、もうだめかと思ったが、なるほどさすが『祝福者』キュルじゃの。せいぜい、ワシもはくはく様より頂いた使命を果たすべく、働かねばな!」


はくはくより与えられた職業名がノリスにこう生きよ、と命じている気がしたからノリスは、それを自分に生きなおす機会をくれたはくはくから与えられた使命と認識して、熱い決意のままに己が拳を天に突き上げる。


「見えて来た!みな、村をまもりぬこうぞ!」


ノリスの使命―――それは全てを『守護』する事であるのだから。



そんな彼らの前には、ノリス村長の言の通り、視界いっぱいの魔獣の群れ。

サハギンに、ブルークラブ、レッドクラブ、キラーオクトパス、シードラゴン、そしてクラーケン。無尽蔵に思えるほど、次々海から上陸し続ける大量の魔獣達である。


しかし、キュルの『祝福』により爆上げされた彼らがこれから成すのは、蹂躙である。


「【扇拡射】!」


「【罠起爆】!」


「【絶光砲】!」


「【尖氷林ートルジア・ゼー】!」


「【苦無乱破】!」


遠距離攻撃職が『祝福』によるその攻撃がらまかれる先で、ほぼ爆発に近い衝撃と暴威が複数の魔獣を一撃で消し飛ばし、

「【円刃乱舞】!」

「【聖槍刺突】!」

「【首刈斬人】!」

「【闇槍刺突】!」

「【炎雷双刃斬】!」

かと思えば近接職が近づく魔獣を押しとどめるどころか、食い破って進む。

その攻撃の一刺しで、一振りで、ばかみたいな範囲の魔獣が消し飛んでいく。


「とんっでもなく強い!キュル、ありがとう!【聖槍刺突】!【聖槍刺突】!」


「なんか私、魔獣と戦ってるのに楽しいんだけど!キュルのおかげね!ありがとう!私の天使ちゃん!【炎雷双刃斬】!【炎雷双刃斬】!」


「うはははっはー!最高じゃー!ありがとう、キュルー!【円刃乱舞】!【円刃乱舞】!」


「おやじっ、いい年してガキみたいにはしゃぐなよ!ありがとう、キュル!【首刈斬人】!【首刈斬人】!」


己の得物で面白いほど魔獣が倒せる喜びと興奮で、皆のテンションが変になってしまうのも無理はない。

思い返せば、ついこの間まで魔獣は彼らより絶対的強者であり、一方的に彼らの命を握っていた存在だったのだ。

それを薙ぎ倒せる力をもらった今、只人である自分たちでも、自らを守り、隣人すら守っていけるのだから。


「はえ?魔獣がいないんだけど?俺の獲物は?」


「ええ?もう終わり?あーん、楽しかったのにー!」


「ほんとうじゃ、暴れ足りん!魔獣のおかわりもってこんかあ!」


「あ、そうだ!向こうはまだやってるかも、私あっち行ってくるー!」


「おお?ああ、そうか!待て、儂も行く儂も!」


「よし、キュルも行くぞ!」


「あーいー!」


こうしてヘルペナ村海側、イベントクエスト『魔獣到来』―――完封。



但し、最初から最後まで海岸線防衛村民部隊の中心にいながら出番がなかった男が一人。


「なぜじゃ?なぜ、出番がないんじゃ?」


男の名はノリス、ヘルペナ村村長にして冒険者にはなれぬ『守護者』なる職業を持つ者。

『守護者』のスキルは二つのみ。


一つ目は『守護』、彼を中心に広い範囲の味方への攻撃を大幅弱体化させる能力。

二つ目は『身命』、『守護』で守る味方が多い程攻撃力と範囲が上がる物理範囲攻撃。


この二つのまさにぶっこわれ性能のスキルを持っていたから、村長ノリスは村人と、なによりもキュルを守ると神にさえ誓い、妻に背中を叩いてもらって、気合十分で海岸線の部隊の後ろに立っていた。


しかし、出番はまるでなかった。


言い訳が許されるならば、『守護』は使ったのだ。

海岸線防衛部隊の皆への攻撃は弱体化されるはずだった、皆が一回も魔獣の攻撃を食らわないなんて無茶苦茶が起こらなければ。

キュルの祝福による暴威が、魔獣の攻撃を許さなかったから、村長ノリスの『守護』はただの一度も効果を発揮しなかった。


ならば攻撃に回ろうと思いなおした村長ノリスの前にはもう、魔獣は一匹たりとも残っていなかった。あれだけ溢れるように押し寄せていた魔獣がである。

やはり、キュルの祝福の暴威が吹き荒れた、そう表現するしかない。


防壁戦に参加しようと、ばたばたと走っていく村民の後を村長ノリスは追うしかなかった。


「今度こそ、ワシが守る!守らせてくれえ!」



◆◆◆◆



―――ヘルペナ村防壁外側にて。



「【乱断斬】!」


トートの武器を握らぬ無手で『斬』とはおかしな話だが、これは仕様。

つまり間違っていない。

トートの繰り出した技は通常三次職『狂戦士』の斬撃技だ。

しかし、無手でも繰り出せる。普通はその威力に武器のダメージ加算が入らないために攻撃が弱くなるだけだ。

しかし、

「―――ガギンっ」

防壁に与えた衝撃音が、その攻撃が確かに強い事を物語っていた。


トートの無手の攻撃には、無手状態の場合の攻撃力上昇効果をもつパッシブスキル『無手の覚悟』の攻撃力上昇効果が乗っているから。

『無手の覚悟』は、通常物理二次職『無手闘士』で攻撃を800回敵へ放つ事で取得できる。

取得すれば転職してもずっと残り、自動的に効果を発揮しつづける優秀なスキルである。


トートは『無手闘士』から『狂戦士』に転職可能なレベル60を超えても、『無手の覚悟』取得のために『無手闘士』であり続けて取得したのである。

それだけ、狂戦士と『無手の覚悟』の相性は良く、トートは並みの『狂戦士』よりも断然強かった。


しかし、

「かってーな!くそ!全然耐久値がけずれねー」

小傷が入った程度の防壁を見ると、ほとんど耐久値が削れていないのを確認し、

「おい、てめーら。防壁超えにへんこーだ!何人か、肩車でアタシを上へ上げろ!ただし、迎撃窓に女が見えたら要注意だぞ!いーな!」

即座に作戦を変更した。


メンバー四人が肩車をして立ち、その背を伝って防壁上部へ取りつくべく、迎撃窓と迎撃窓の中間に男たちが肩車を開始。

他メンバーは迎撃窓を注視し、『賢者』かどうかは横に置き、高位攻撃魔法が放てるという村娘を警戒する。


男たちがそれぞれ肩車して四段の高さになった。


「よーし、いくぞー!てめーらも続けよー!」


「「「「はい!トートさん!」」」」


トートが肩車最下、土台の男に手をかけて上を見上げた時、防壁上部から手が伸ばされるのが見えた。


「ああ?」


その手が、肩車最上段の男の伸ばした手に触ったのはなんの意図かといぶかしんだが、その手はすっと引き戻されて何も起こらなかったから、防壁越えを開始しようと登り始めた。


しかし、

迎撃窓から男の腕が見えて、その男が、

「【奔落雷―ヴァルナ・ゼー】!」

魔法を唱えたから、

「はったりだ!」

そう断じたのは常識的な反応だ、只人にスキルや魔法は放てない、がしかし、

「あがががっがががあ―――」

「おががあががが―――」

本来放てない魔法を放ち、それが雷系中位範囲魔法【奔落雷】とは似ても似つかぬ範囲と威力で肩車一番上と二番目の男までを消し飛ばしたから、

「うそだろ!てめーら散れ!」

追撃を警戒してメンバーを散開させた。


たった今、破格の威力の魔法を放った男は、頭上に名前の無い只人だった。

つまりNPC村人。

それがいったいなぜ魔法を放つのか?そして、あの馬鹿げた範囲と威力はいったいどういう事だ?トートには考えもつかない事が起きている。


「遠距離いけるやつはいけ!迎撃窓のやつだ!」


「りょーかい!トートさん!」


「俺もいきますぜ、トートさん!」


遠距離攻撃の手段がないトートは現状役に立たないから、防壁から少し離れて立っている。

その視線の中を数人が、遠距離攻撃可能な位置へと移動を開始した。


「メンバーは全員通常三次職だ、あの程度の魔法いっぱつで落とされる訳ねーんだ!それを………ああ?村娘だけじゃ………ねえのか?まさか、NPCなら誰にでも職業を与えられるとか言わねーよな?そんなん………」


本日数個目のロリポップキャンディーをバキリとかみ砕き、

「反則じゃねーか!」

苛立たし気に怒りを吐き出した。


防壁を睨むトートの目に、その視界の全ての迎撃窓に人影が見えた。

たったそれだけで、なぜか背中に寒気がしたから、トートは、

「てめーら、下がれっ――――」

その言葉を言いきる前に、

「【圧落渦雷ーガリ・ギカー】!」

「【扇拡射】!」

「【絶光砲】!」

「【尖氷林ートルジア・ゼー】!」

「【苦無乱破】!」

「【爆炎焼ージンジア・ゼー】」

視界一杯に複数の攻撃がめったやたらな範囲で飛んでくるからトートは、

(ぜってー違う!攻撃が強すぎ、大きすぎ、届きすぎだ!無茶苦茶だろーが、こんなん!いや、待てよ?これって、ヴァイス様が喜ぶ情報なんじゃー?それならまあ………いっかー)

その攻撃が自分を消し飛ばすままに、そう考えてこの遠征が『無駄じゃなかった』と締めくくった。


迎撃窓からの攻撃は、離れた位置に立っていたメンバーも全員一撃で屠った。



―――こうして、冒険者殺し十一名対要塞ヘルペナ村戦、完封。




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