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第三章10 要塞化済ヘルペナ村

タイトルこそ不穏ですが、ご心配なく。

全く問題ない展開になります、次話『キュル』で証明します。

ぶっこわれキュルのための仕込みを、ご堪能ください。




―――要塞化済み漁村ヘルペナ村にて。



はくはくによって村人全員の転職と要塞化がなされた。

ナーブ村では転職を済ませてから要塞化を提案したが、要塞化を進めるのは村人である。

よって、はくはくは村長と彼の妻、そして息子の転職を終えると、管理者権限『自由建築モード』を使って先に建材を三人に渡して要塞化を託した。

要塞化と村人の転職の同時進行、これによって大幅に時間が節約されたといえる。


漁業が盛んで活気にあふれた村ヘルペナ、村民数は流石の262名であり、転職にまる十日かかり、要塞化はその数日後に完了。

ひとまずの安心を得た。


「大神官様、おはようございます!」


「大神官様、昨日は家をありがとうございました!」


「大神官様、ああ、今日は桟橋の件でしたね!本当にありがとうございます!」


今や、はくはくを「大神官様」と呼ぶのは村民全員。

言わずもがな、転職を行う度にはくはくの横に立ったコスモスが、

「只人に戦う力『職業』を下さるはくはく様を、ただの神官呼びは許されません!さあ、大神官様と!」

そう繰り返したコスモスのせいである。


転職を済ませ、『黄金塊』を売った金で翼竜の騎乗鞍を手に入れたから、はくはくとコスモスにヘルペナ村に残る理由はない。

しかし、はくはくのある思いつきが成功してしまったから、はくはくは村中を回る事になった。

そして、片時もはくはくとコスモスから離れなかったのがキュル。


キュルはもう『腐敗の呪われ』ではない。

村人も、彼女への仕打ちへの後悔からか、呪いが無くなった可愛い幼子と認識を改めたからなのか、皆キュルに優しい。

もともと、彼女の世話をしてくれていた宿屋のおかみが、キュルを引き取ると言ってくれたのだが、

「うーうー」

やはり最初の夜同様キュルは、はくはくの僧侶服の裾を掴んで離さなかった。


だから、はくはくとコスモスは今や間にキュルを挟んで、手を繋いで村を歩いている。


「キュルちゃん、おはよう」


「キュル、今日も元気か」


「キュルちゃん、ほら焼きたてのクッキーもっていって!」


「キュル、今度ワシの漁船にのせてやろう」


「ばっか、親父!幼子に漁船は早いよ、キュルに何かあったらどうすんだ!」


「おお、そうか、そうだな!すまんキュル、かわりに魚獲ってきてやるからな!」


村人みんなの挨拶をもらいながら。


村の中心に位置する村長宅から、村長の指示を受けたらしい村民がばたばたと出ていくのを見ながら、はくはく達は桟橋へ向かう。

村長として村を守る意思を取り戻した村長が、村人を差配して皆役目に燃えている。

実に素晴らしい事である。


「キュル、お願いできる?」


「あーいー、あーあーてー!」


「【癒―イルメ―】」


「ふわわわ、私の大神官様ったら、どうしてこんなに凄いのでしょう!」


コスモスの少々重すぎる感想を聞きながら、それを終えて。

村へ戻ろうと立ち上がったはくはくだったが、

「はくはく様!魔獣です!【剛氷ートル・ギカー】!」

はくはくを背に庇うように動いたコスモスが同時に魔法を詠唱、

「ブワワワワワワワアー!」

しかし魔法が直撃するより前に呼び笛らしき位置が鳴り響き、直後魔法の直撃を受けて音がやんだ。


はくはくがようやく海辺の魔獣に気づいた時には、コスモスの魔法によってHP全損し消えていく瞬間であり、

「―――イベントクエスト『魔獣到来』っ?じゃあ………」

はくはくは気づいた。


消え去った魔獣は、人型の海洋魔獣『サハギン』。

だが本来、海中には魔獣は存在しない。


海洋魔獣『サハギン』が上陸して呼び笛を鳴らすことで発生する、イベントクエスト時を除いて。

そして『サハギン』の上陸を開始の合図としたイベントクエストが発生するのは、

―――10名以上の冒険者がその地域に来ている場合のみである。


「コスモスちゃん、キュル、村長さん宅へ急ぐよ!」


はくはくの胸に嫌な予感が広がったから、はくはくはその予感に従ってキュルを抱っこして走り出した。


◆◆◆◆


―――ヘルペナ村にほど近い森林にて。



冒険者殺しクラン『スノウドロップ13』。

転生後すぐのはくはくを拉致監禁しようとしたクランであり、このクランに所属する男は皆、真っ赤な毒ガスマスクを被っている。


その毒ガスマスクの男たちを率いているのが、

「トートさん、斥候役の『罠師』から報告があったんだが、ヘルペナ村がやべーそうです」

男から見下される形で報告を受ける『トート』と呼ばれる女である。


低身長150cmだが筋肉質でややむちっとした肉感ボディに、身体のラインが際立つぴっちりとした装備スキンを身に纏っているから、その姿はクランの男たちの目の保養になるほどに蠱惑的。

髪は左右で色違いで、右側が黒髪、左側が紫髪をツインテールにしている。黒い皮マスクで口元が隠れているが、赤基調メイクの目元が一層目立つ女である。


「おう?どうやべーんだよ?」


「それが、とにかくやべーとしか」


「ああ?ほーこくの意味がねーだろーがっ」

そう言って、マスクの下でもごもご舐めていたロリポップキャンディーをガリっとかみ砕いて、

「あう、すんません!トートさん!」

男の平謝りをそのままに、

「まあ、いー。行ってみりゃ分かんだろ、気にすんな」

そう言って猛然と走り出す。


「まさか、ナーブ村みたいになってんじゃねーだろーな?いや、ねーか………」


クランリーダーの願いで、トートは男を探している。

ただのNPCに過ぎない村娘を『賢者』にしたらしい男、『神官』に転生した転生者である。

神官確保の先遣隊として派遣していた二名のクランメンバーが死んで、『スノウドロップ13』の拠点内で復活した後の報告に、クランリーダー・ヴァイスがひどく興味を示したから。


ヴァイスが、村娘に殺されたクランメンバーの報告を受け、低位魔法でのダメージが異常だった事、高位魔法を放った事、場所がナーブ村協会であった事、これらからヴァイスが推測したのが、

「村娘ちゃん、たぶん賢者ねぇ」

只人である村娘が『賢者』になっているという信じられない内容だった。


「NPCの転職にぃ、飛空艇無しで『啓蒙の桃枝』をどうやって手にいれたんだろうねぇ?ヴァイスちゃんは、興味しんしんだよぅ。だからね、トートちゃぁん。探してきてぇ、その………はくはくくんをぉ、お願いねぇ?」


トートが愛して止まないヴァイスの願いを断ろうはずもなく、

「は!ヴァイスさま!トトが必ずさがしてみせますワ!」

ヴァイスの前だけぶりっ子を決めこむトートのおかしな口調で即答したのだから。


そして報告のあったナーブ村を訪ねたのだが、

「はあ?要塞じゃねーか、こんなもん!」

驚きに、つい誰にでもなくツッコミを入れる程で。


それでも、防壁の迎撃窓から、

「髑髏付きの名前の冒険者は、俺達の村に入れない!帰ってくれ!」

そう告げる顔に向かって、

「ここに、はくはくってやつが居るか知りてーだけだ」

素直に問う、はくはくが居る場合は手荒な手段をとるつもり満々に、

「大神官様は奇跡を施すために世界へ旅立った!」

その答えで進行方向を変えることにしたのだ。


トートの直感が男の言が嘘ではないと告げていたから。

対象が居もしない要塞の攻略など無駄の極みであり、一刻も早く愛するヴァイスの元に帰りたいトートは時間を無駄にできないのだから。


「それにしても、大神官様とか、奇跡とか。やべーなあいつ………」


ナーブ村で聞いた男の台詞を思い出しながら、その不可解に首を傾げつつ、猛然と走って森林を抜け、広がった視界の先にそれが見えたから、

「うわ、ほんとーに要塞かよ!どーなってんだ、クソが!」

そう吐き捨てて、斥候役と合流。


「さーて、ここにはくはくは居るかなー?」


左右伸びる鉄製防壁を前に歩きだしたトートの視線の中で、目があった。

防壁の迎撃窓から外を窺うように出した顔の上に、白い文字が見えた男が、トートと目が合ったと思ったら慌てて引っ込んだから、

「クカカカカ、たぶんあいつだー」

トートの直感が男こそ、はくはくであると告げていた。


「今度は弱えー雑魚じゃねーぞ?さあ、お前らはたらけー!」


トートは振り返ることなく仲間に告げると、無手のまま両こぶしをぶつけ気合のままに進む。

それに追従する毒ガスマスクの男が十名。それぞれの得物を手に、

「「「おおおおー!」」」

気合の声を返した。


冒険者殺し十一名対要塞ヘルペナ村戦の開幕であり、同時刻ヘルペナ村内海側から無数の海洋魔獣が上陸を開始して、海洋魔獣対ヘルペナ村戦の同時開幕である。



―――しかし、神官はくはくが村娘だけを転職させただけと思い込んでいるトート達はまだ知らない。神官はくはくによって、ヘルペナ村がどうなってしまったのかを。




星評価やブックマークしてもらえると、書き続けるモチベーションが迷子にならなくなります。

切実なので、よろしくお願いします。

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