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第三章6 生まれ変わった呪われ




―――キュルを助け出したデリア断崖からしばしの空の上。



キュルを助け出して、夕日を浴びながらヘルペナ村へ飛ぶ黄金翼竜の背に、はくはく達は騎乗している。

前にコスモス、後ろのはくはくの間にキュルが座っているが、キュルは後ろ向きに座ってはくはくに抱き着く形である。

黄金翼竜に幼子のキュルが一人で登れるはずもなかったから、確かにはくはくが抱っこした上で騎乗した。

その上で、一旦はきちんと前を向かせて座らせたのに、である。


「キュル、前向いて座った方が安全だよ?」


「キュルちゃん、私にしがみついていいんだよ?」


二人でそう言ってみたものの、

「いーあー」

はくはくの胸に顔をうずめたキュルの頭が横にふられるばかりだった。


「キュルちゃん、はくはく様が好きになったのかもしれませんね」


「………」


思い返してみれば、はくはく=ルッタは自分を助けてくれた神官に確かに親愛を感じていた。

初めて優しくされ、一人の人間として認めてくれ、庇護下において導いてくれた彼を、父親のように思い慕っていたのだ。

『お父さん』とこそ呼ばなかったのは、他の孤児達への遠慮からだったが。


そう考えてみれば、

「あの時みたいに、初めての優しさが染みたのかなあ………」

そう思えなくもなかった。


だからはくはくは、キュルの頭に手を置いて撫でる事にした。

ボサボサに伸びた桃色の髪は汚れていて、髪はからんで酷い状態だったが、それはゲームの悪意に満ちた設定のせいであり、やはりキュルのせいなどではない。

だから、

「キュルは理不尽にあっただけ。キュルは何ひとつ悪くない」

かつての神官の言葉を口にしたのだが、

「………?」

キュルが顔を上げてきょとんとした顔をはくはくに向けたから、

「分からなくていいよ。でも、これからはきっと皆優しくしてくれるからね」

その頭を撫でながらはくはくは笑んだ。


「まずお風呂に入って、髪を整えて、それからちゃんと服を着させて………」


「いいですね!はくはく様!キュルちゃんには、これからいっぱい幸せを感じて欲しいです!」


「今までの不幸の分を、取り返すように幸せに、か。いいね!コスモスちゃん!せめて俺達が村にいる間、出来る事をしてあげよう!」


「はい!はくはく様!」


「そうと決まったら、よし!ちょっと急ごうか!」


「はい、はくはく様!黄金ちゃん、スピードアップ!」


沈みゆく夕日の茜色の空を割るように、黄金翼竜はその羽ばたきを早め一層速度を上げた。

その背のはくはくとコスモスは、幼子を助けられた満足感と共に。

キュルはきっと、初めての安心感と共に。



◆◆◆◆



―――『腐敗の呪われキュル』を抱えていたヘルペナ村にて。



やっとヘルペナ村に着いたのはすっかり日が暮れた頃だった。

黄金翼竜を再び村の外に待機させて、徒歩でヘルペナ村に入ろうとしたのだが、

「キュル、着いたよ。降りるよ」

当のキュルの返事は無かった。


「寝てる………」


「寝てますね。はくはく様に抱き着いたまま………」


まだ幼子が二日間、あのダリア断崖近くまで歩かされたのだから、無理もない。

だから、寝息を立てているキュルをはくはくは抱っこして黄金翼竜から降りて、村へ入った。


露店こそ閉まっていたが、村の食堂は灯りがともされて賑わっていて、夜は始まったばかりといわんばかりの活気に満ちていた。

おそらく現在冒険者は村にはいないはずだから、夜の食事を楽しんでいるのは村民達だろうが。

NPCにも暮らしがあるのだ。しっかり働いたら、人生を楽しむ、実に素晴らしい事である。


灯りと賑わいの中をコスモスと歩き、宿屋に入った途端、

「あ、あんた!どういう事?なんでその子を抱っこして大丈夫なんだい?」

宿屋のおかみに目を見開かれて驚かれたが。


「もう、この子は『腐敗の呪われ』じゃなくなったんです。だから、触っても大丈夫」


「そ、そんな事が………いや、でも呪いが消えるなんて………」


「本当ですよ。私もほら」


隣のコスモスが、はくはくが抱っこしているキュルの頭を撫でたから、

「本当………なんだね………」

おかみはおそるおそるとキュルのそのやわらかな頬に指先で触れて、

「痛くならない………本当だ、この子はもう『呪われ』じゃないんだね………ああ、神様!」

おかみは驚きと、キュルを案じていた想いからくる喜びに、神に祈らんと両手を結んで額に当てたのだが、

「神様じゃありません」

コスモスが断言するから、

「でも、『呪い』を消して下さるなんて、こんな奇跡を起こせるのは、神様だけだろうに」

ごく当たり前の事を言ったのだが、

「違います!この子を助けたのは、『腐敗の呪い』を消したのは、ここにいる私の大神官はくはく様です!」

大きな蒼い瞳をきらきらさせてコスモスがフンスと鼻息を吹いたから、

「そ、そうだったのかい。そんな奇跡みたいな事ができるんだね。あんたの大神官様は………」

やはり理解できそうにない事だったが、それでも『腐敗の呪い』が消えたのは事実だからと受け入れる事にした。


「おかみさん、それにこの子の名前はキュルです。これからは、名前を呼んであげてくださいね!」


コスモスに言われて、おかみはまた目を見開いて、それから優しい目になったその視線を、はくはくの胸に顔をうずめる幼子に向けて、

「本当だね。あたし、なんで名前を呼んであげる事にすら気が付かずに過ごしてたんだろう。いい大人が、みっともないったらありゃしない………」

そう言ったおかみの目の端から、涙がこぼれた。

涙の意味は、後悔か、喜びかはくはくには分からなかったが。


しんみりとした雰囲気を吹き飛ばしたのもまた、おかみだった。

キュルの頭を撫でてしばし、おかみがはくはくとコスモスを交互に見て、

「さあ、お二人さん!キュルを身綺麗にしてやらなくっちゃ!手伝ってくれるかい?」

そう問われたから、はくはくとコスモスは、

「「もちろん!」」

そう答えた。


最初からはくはくは、キュルを身綺麗にして、一杯美味しい料理を食べさせて、嫌程幸せをかみしめさせるつもりだったのだから。


おかみとコスモスは、二人で微睡むキュルをお風呂に入れるべく動き出し、はくはくは服を買うために村唯一の装備店へと向かった。

装備店に通常の衣服が売られているのは、非常にゲーム寄りではあったが、手に入るのなら問題など何もない。

夜であっても閉店していない事もまた、ゲーム寄りといえるかもしれないが。


ともかく、はくはくは装備店に所狭しと並べられた、武器や防具には目もくれず、ハンガーにかけられ並べられた普通の衣服を端から物色していく。


桃色の髪の幼い子に似合う服を求め、

「あー、うん………髪色と同じ桃色のこれと。緑の、おお、ふりふりが可愛いこれと。肌着、肌着………あった。あ、これも似合いそう………」

そうしている内に、はくはくの手には実に十数着の服と、十着程の肌着で一杯になったから、

「お客さん、一旦預かろうか?」

店員にそう言われ厚意に甘えて、

「よし、あと数枚は………あ、帯紐リボン、いいね!そうなると………肩下げポシェットだ!」

などと、キュルに似合いそうな複や飾り、果てはポシェットや小さな子用のリュックサックまでを購入することになっていた



―――キュルが生まれ変わった姿を皆の目に刻み付けるため、金は惜しんではいけないのである。




星評価やブックマークしてもらえると、書き続けるモチベーションが迷子にならなくなります。

切実なので、よろしくお願いします。

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