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第三章5 防衛戦・圧倒




―――黄金翼竜、賢者コスモス防衛線開始直後。



はくはくの乗った黄金翼竜が冒険者達に見つからなかったのは、彼らがキュルにばかり注意していたから、視界を広く後方を確認しなかったのである。


おかげではくはくの黄金翼竜の接近は直前まで察知されずに済んだ。

同じく黄金翼竜から『飛翔』魔法で飛び立ったコスモスは、黄金翼竜よりさらに高く飛んで、その姿を察知されないように、冒険者四人直上の位置取りを完了。

上空という圧倒的優位を手に入れる事に成功した。


その位置から、予定通りはくはくが建材でキュルと共に立てこもったのを確認。


黄金翼竜の『忘却咆哮』で固まっている冒険者を足元に、

「【知力向上ーイニバリフー】【全能力向上ーオルバリフー】」

そう念入りに自身の魔法威力を底上げした後に、

「【多全能力低下ーオリルザリハー】!【圧落渦雷ーガリ・ギカー】!」

さらに冒険者四人全員の全ステータスを下げるおまけまでつけて、雷系より上位の渦雷系範囲魔法最強の【圧落渦雷】を放った。


四人のHPは削れたはずだったが、一人も削りきれなかった。

全員がコスモスを見上げた事で、コスモスはそれを悟る。


「お、お前、糞が!下りてこい!」


「まさか賢者か、強化が早いにもほどがあるぞ!」


「どこのクランの冒険者殺しだ?コラぁ!」


「おばかなの?頭上に名前がないでしょうが!」


「「「どういう?」」」


「あいつはNPCって事よ!」


「「「は?」」」


早速NPCだとバレてしまったが、はくはくに、

「出し惜しみなく、全力で行かないと危ない」

コスモスは事前にはくはくに言われていたから、

「【圧渦雷ーガリ・ギカー】!」

また全力で高威力範囲魔法を放つ。


しかし、はくはくに事前に聞かされた通り、冒険者達は一斉に魔法を回避すべく動き、回避後すぐに攻撃態勢に移って上空のコスモスを攻撃する。

判断と切替が早いのだ。


遠距離職らしき男二人の、

「【穿ち射り】!」

「【豪炎ージア・ギカー】!」

弓と魔法の単体用攻撃が放たれた。


一直線でコスモスを捉える二つの攻撃を【飛翔】で回避。

コスモスの視界の中、黄金翼竜が冒険者の残り二人。

近接職らしき女と男の攻撃を受け、所有者の命令無しに従魔自身の身を守る行動、つまり迎撃態勢に入っていた。


「【剛・居合切り】!」


「【乱断斬】!」


それを片翼を前に大きく薙ぎ振り攻撃に攻撃を重ね、次いで首を引く【炎の息】の体勢。

それを見取って、二人は黄金翼竜の左右に分かれ移動し、その最中、女が気づいたように声を上げた。


「あいつを建材で覆ったのね!何のつもり?いや―――」


遠距離職二人と攻撃と回避の応酬の中、コスモスの視界で、女が黄金翼竜の後ろへ猛然と走るのが見える。


「―――なんのつもりか知らないけど、好きにさせないわ!」


大切な人が女が向かう建材の中にいる。

心配でないはずがない。

しかし、相手二人の緩急のある攻撃と息の合った回避に手を焼くコスモスに、そちらを気にする余裕がない。


相手は冒険者、そのレベルアップも転職も自身が戦闘を繰り返し続けて得たものだ。

一方コスモスのその高レベルも、現時点で最高峰の職業も、はくはくに与えてもらったもの。

戦闘の経験の絶対的不足が、コスモスより低レベルに過ぎない冒険者二人を倒しきれずにいた。

それは、賢者コスモスであっても、眼下の冒険者殺しとそこまでの圧倒的な差が無いという事を示していた。


一方黄金翼竜の方は、尻尾を薙ぐように振り抜き女を屠ろうとするが、女はこれを高跳びのごとく身を宙でひねるように飛んで躱そうとしたが、足だけは抜けられず接触したようで、

「―――っ!」

痛みに声が漏れ聞こえたが、疾走が止まらない。


黄金翼竜が尻尾で女に攻撃する間も、男の方が女と反対側で攻撃を続けるから、黄金翼竜は女にばかり気を向けられずにいた。


だから、女は黄金翼竜を抜けてしまい、鉄建材へ向けて、

「【剛・居合切り】!」

攻撃を開始し、建材破壊が始められてしまった。


強固でほとんど破壊不能の『鉄製防壁建材』と異なり、『家屋用鉄建材』は固いが破壊できない事はない。破壊に多少時間がかかるだけで。

はくはくが、立てこもりに鉄製防壁建材を選ばなかったのは、上面を完全に覆う建材が存在しないためだ。防壁建材とはいえ、ゲーム時代と違って現実寄りの世界である、数人が肩車してそこを登れば、乗り越えられてしまう。

つまりこの世界では防壁は内から外敵を排除する能力がある場合にのみ有効で、その能力をはくはくは持たない。

だから、建材上面を完全に覆ってしまえる『家屋用鉄建材』を選ぶしかなかった。


焦るコスモスの眼下で、建材を攻撃する鈍い音が響く。

黄金翼竜も【炎の息】で【翼爪薙ぎ】で【竜尾薙ぎ払い】で男と渡り合っているが、決定打にかけているようで、男のHPは大きく減ってはいるがまだ旺盛に動き回って、黄金翼竜を女の方へ行かせないようにしている。


コスモスの下男二人のHPも減っているが、こちらも決定打がない。

焦るコスモスの足元で、

「【穿ち射り】!」

男二人が何度も同じ攻撃をしていたから、単体対象の弓と魔法であろうとコスモスは疑いもせず、

「【爆炎焼ージンジア・ゼー】!」

しかし、魔法攻撃が範囲攻撃かつ、【穿ち射り】の矢から逃れて飛んだ先へ、その魔法が放たれたから、

「―――っ!」

炎系魔法の中で中程度の範囲と威力を誇る【爆炎焼】に被弾してしまった。


魔法攻撃を受けた時、どれだけダメージを受けるかを決めるのは、魔法攻撃力の強さを決めるのと同じ『賢さ』である。

通常レベル上限100の賢者であるコスモスの『賢さ』は非常に高い。

よって、それは大きなダメージではなかったが、しかし―――


「大神官様に頂いた偉大な力でっ、大神官様をお守りする私がっ!なんて失態っ!なんて醜態っ!」


コスモスの自尊心を大きく傷つけた。

コスモスの自尊心はコスモスだけのものではない。

それは神のごとき大神官を守る盾として、はくはくの偉大な自尊心を含んだものだ。

少なくとも、コスモスは本気で自分ははくはくと一体であるかのように考えている。

自分がはくはくの盾であるならば、それを持つのははくはくである、

故に盾とそれを持つ者、まさに一体ではないか、と。

コスモス=はくはく。

それはつまり、コスモスははくはくの自尊心をも傷つけられた事になる。


「許さない、許さない、許さない、許さない、ぜーったいに許さないっ!」



―――コスモスの怒りは頂点である。



そしてコスモスの怒りが頂点になったのと同時。

建材への攻撃と攻撃の間にある時間。

女侍が連発する【剛・居合斬り】の特徴、納刀しないとは放てない【居合切り】の納刀行動時ぴったりを狙って、建材上部の天井を消して、そこからはくはくがキュルを背におんぶして飛び上がった。


「はあ?あんたも賢者?二人もいるのっ?」


建材上部から見知らぬ男が飛び上がったのを見て、ベニは当然のように男も賢者で飛翔魔法で飛んでいると考えるのは当然だ。

まさか管理者権限を使っていると考えるはずもないのだ。


はくはくは、飛び上がりながら、

「黄金、飛べ!」

そう指示を出し、コスモスの元へと飛ぶ。


「はくはく様!ご無事で、良かった!」


コスモスは安堵からはくはくに抱き着こうとするのを、はくはくはコスモスの手をとってさらに上空へ、コスモスを促して飛翔。

黄金翼竜もこれに従った。


「これくらいの高さなら攻撃もあたらないかな」


地上からの攻撃を警戒した安全対策である。


そして、地上から四人集まって三人と黄金翼竜を睨む冒険者殺し達を見たうえで、

「よし、帰ろう!」

目的は不幸まみれのキュルを救う事のみ、それがかなったのだから冒険者殺しなど放置で良い、当然の事を言ったつもりのはくはくだが、

「嫌です!私、あいつらを許しません!」

コスモスが、むふーむふーと鼻息荒く反対するから、

「放って帰ろうよ、コスモスちゃん?」

コスモスの眉がハの字になってしまい、瞳がうるうるし始めるから、

「やるの?やりたいの?」

諦め気味で念押し確認、

「私、あいつらを、ぜーったい、許しません!ぜーったい、です!」

そして完全に説得を諦めた。


しかし、冒険者殺しが四人とも生きていることから、はくはくの予想通り、黄金翼竜と賢者コスモスだけでは倒しきれないほどには、四人は強い。

戦っていいよ、といった所で勝てる保証はないから、

「うーん………」

と悩んでいると、

「あーうーの?」

背中からキュルの声がかかった。


「たたかうの?って聞いてる?」

「あーいー」

「このコスモスちゃんがね、戦うって」

なんとなくキュルの言う事が分かったからそう答える。


すると、キュルがはくはくの背中から必死に手を伸ばすから、コスモスも意図を読み取ってキュルの手をとった。


「キュルちゃん、なあに?」


「あーあーてー!」


キュルの手がまた鈍く光った。


「はくはく様?キュルちゃんは何を?」


コスモスが聞くから、

「コスモスちゃん、キュルが『祝福』してくれた。もう、何も心配なし。さあ、やっちゃって!」

はくはくは答えて、

「あ、自身の強化魔法もまたかけてからね。そしたら」

念入りに準備を勧めるはくはくの言葉の続きが気になったコスモスが、

「そしたら?」

そう聞くから、

「たぶん魔法一発で終わる!」

コスモスの目が見開かれ、次に眼下を見る目にギラギラした闘士が揺らめいた。



◆◆◆◆



冒険者殺しクラン『ブラックローズ』所属、女侍ベニ率いるパーティー。

皆が通常三次職でレベルは50前後。

レベル自体は高くないが、これは三次職に至るために時間を割いたためで、現時点の冒険者の中で三次職でレベル50前後は決して弱くない。


一次職をレベル60以上まで上げて、はじめて二次職に転職できる。

今度は、二次職をレベル60以上まで上げて、はじめて三次職に転職できる。

三次職になってその上で経験値を稼いで、現在レベル50前後である。

弱いと侮られる謂れはないし、言ってきたら返り打ちで処すだけだ。


魔獣相手ばかりのPVE民と違って、対人戦の経験も豊富な四人である。

だから、凶悪技を持つ黄金翼竜にも、圧倒的優位の空中から魔法を落としてくる賢者にもなんとかHP全損を避けられた。


そして今、

「あんたたち、回復は済ませたわね?」

「はいっす、全快っす!」

「もちろんでさぁ!」

「は!全快であります!」

既に彼らのHPは回復薬によって全快である。戦闘再開に抜かりなしだ。


しかしながら、

「飛べるんだから、逃げる方を選ぶかもしれないわね」

ベニの旺盛な戦闘意欲は満たされないまま終わるかもしれなかった。


「しかも、呪われを取られてしまったし。あの男呪われを背負っているけど、なんで死なないの?」


そういぶかるベニに、

「あああ!ベニ様、受注してたクエストが消えてるっす!」

「おばかなの?クエスト表示は成功しても失敗しても消えないわ!」

ベニの言う通り、クエスト表示は受注すると冒険者のステータス画面から受注クエストタブ画面に表示され、成功したら『クリア済』印が付き、失敗したら『クエスト失敗』印が付いた上で、どちらになっても灰色文字表示になる。

その上で、クエスト再発行による受注可能まであと何時間という表示が追加されるのだ。


「ベニ様!本当でした、我のクエスト表示も完全に消えております!」


「あ、俺もだ」


「はあ?―――噓でしょ、私のも消えてる。何が起きてるの、一体?じゃあ、クエストは再発行されないって事?冗談じゃない、フドウ様への贈り物の指輪が!あいつら!」


ベニの怒りに満ちた顔が上空の敵に向けられたのと、女賢者が視線の先から真っ逆さまに急降下してきたのは同時であった。


「戦う方を選ぶのね!いいわ、いいわ!腹いせに殺してあげる!来なさ―――」


「【圧落渦雷ーガリ・ギカー】!」


一瞬、その魔法名に最初の一撃を思い描き、それ位ではHP全損などするわけがないと当然四人は考える。

実際に経験済みである。これほど確かな事はない。

それに、【忘却咆哮】を食らった時の動けない状態ではない、回避に専念すれば良いだけだ。

ごく当たり前を瞬時に思考し、回避行動をとろうとしたのだが。


上空を仰ぎ見る彼らの視界に覆いかぶさるように、極太い極光が無数に落ちて来たから、四人は即座に理解した。

これは全くの別物であり、おそらく彼ら全員のHPを全損させておつりも出そうだと。

ごく当たり前の彼らの思考に、当たり前ではない魔法が降り注ぎ、


「「「「―――あ」」」」


―――冒険者殺しクラン『ブラックローズ』所属女侍ベニ率いるパーティ四人は紫電に焼かれて一瞬で消しとんだ。



上空にフンスフンスと鼻息荒く、一撃破壊の快感に上気する賢者コスモスを残して。




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切実なので、よろしくお願いします。

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