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第三章4 呪いと祝福




―――黄金翼竜と共に冒険者殺しと対峙直後。



はくはくは、黄金翼竜着地直後、即座に黄金翼竜の後方へ降りながら、炎の息で攻撃させた。

炎の息が吐き出される音を聞きながら、はくはくは黄金翼竜の後ろ、蹲ったままのキュルの元へと向かい、戦闘状況を一切確認しないままに、

「【忘却咆哮】」

ほとんど呟き程の小声で黄金翼竜に指示。


要は従魔に『指示』を与えることが重要なだけで、従魔に指示が聞こえるかは、さして重要ではない。

小声でも指示は指示。従魔、黄金翼竜はそれに従って、黄金翼竜固有技【忘却咆哮】を放った。


【忘却咆哮】、複数対象のその時点での行動をキャンセルさせ、なお次の行動一回分を阻害する凶悪に過ぎる技である。

そのため一回放つと、一時間程度は再使用できないのは致し方ない調整である。

実は黄金洞窟ではくはくが黄金翼竜と対峙した時、最初の攻撃が【忘却咆哮】だったなら、間違いなくはくはくは殺されていただろう。

あの時、【忘却咆哮】ではなく【炎の息】だったのは、ただの運である。


はくはくが【忘却咆哮】を指示したのは、時間かせぎのため。

はくはくは、キュルへと近づいて、管理者権限で出してインベントリ内に保管していた鉄製建材で、

―――キュルと自分を覆うように四方に鉄製壁、頭上に鉄製天井を張った。


「黄金翼竜も、コスモスちゃんが賢者である事も隠しておきたかったけど………」


いくら賢者が現時点では最高峰職であろうと、黄金翼竜がいようと、冒険者四人の相手は難しい。

一瞬見えた装備から、職業がはっきり分かったのは一人だけ、刀装備は通常物理三次職『侍』を示している。

同パーティーならば、おそらく強化具合も同程度と推測できるから、四人とも三次職だろう。

賢者と黄金翼竜だけで、彼女らに勝ち切るのは至難の業である。


本来なら、従魔が本物の黄金翼竜であること、NPCであるコスモスが賢者であるということは隠しておきたかった。

しかし、キュルは崖目前まで連れてこられてしまっていた。

はくはく達が隠れて奇襲したり、奇策を使う余裕はない。

従って、全力対応せざるを得なかった。


鉄建材で陽光が完全に遮断された薄暗い鉄建材の中。


「うっうー?」


周囲が暗くなって何ごとかとキュルが顔を上げた先に、見知らぬ男がいたから、彼女はなんだろうと声を上げた。


「キュル、今から君に触る。頭を撫でるだけだからね?」


キュルの声を聞き、その不安を感じ取ったはくはくが笑んで出来る限り優しい声をかけた。

右手をキュルの頭に乗せたのは、かつてルッタを救ってくれた神官と同じように想ったから。

胸糞クエストの『腐敗の呪われ』という役割を押し付けられただけのキュルに、かつて浮浪児であった自分を重ねたから。


しかし、その右手をキュルの頭の上に乗せた瞬間、

「ぐっぐぅぅぅくぅぅ―――」

右手の平から凄まじい痛みが広がった。『腐敗』の痛みであり、万本の針で刺されるような、手の肉内を得たいのしれない何かが食い進むような、強烈な痛み。


はくはくは、キュルの頭に手を乗せた瞬間、猛烈な痛みとともに、確かに二つの知覚を得た。

すなわち、キュルのステータス画面の脳内視認と、転職先リストの脳内視認である。

そして、その転職先を見つけた時、迷わずそれを選んだ。

―――ゲームをやりこみ続けたはくはくも知らぬ、その職を。


「は、早ぐぅ」

しかし、転職は完了までに転職の演出が挟まれる。

神官の手から広がって、対象者を光で包む演出である。


その時間は、実に5秒。よって、その間もはくはくは、キュルから手を離せないから、

「―――ぐぅ」

手のひらが黒く変色を始め、痛みが前腕に広がってくる。


「―――が」

既に手の感覚が失われ、痛みは前腕を駆け上がり肘関節へ広がり、金づちで打たれ続けるような激痛が続く。


「―――ぐ、が」

手から腐敗臭が広がるが痛みに不快感が入り込む余地もなく、既に前腕も真っ黒に変色、痛みが二の腕へ伸びてくる。


「あー、あー」


キュルがはくはくの手から逃れようとしたのは、キュルの優しさ故。

自分に触った物はなんでも腐り、壊れる。

目の前の男が見知らぬ人でも、自分のせいで痛みに苦しむ事はキュルは望まないから。

キュルは苦しみを与え続けたくなかったから、頭をふってその手から逃れようとする。


キュルが頭を振ってはくはくの手から逃れようとするから、動かぬ肘から先をキュルの頭から離さぬように左手で右腕前腕を掴んでなんとか制動。

途端に、左腕にも激痛が伸びてくる。


「―――ああああぁぁぁぁああああ」


思わず悲鳴を漏らすほどの痛みは、右腕の二の腕まで真っ黒に、左手前腕を変色させる真っ最中。

狂いそうな痛み、気絶できればどれだけ良いだろうかと現実逃避したくなるほどの、猛烈な痛み。

その永遠にも思える長き痛みに耐えきって5秒。

ようやく―――『腐敗の呪われキュル』の転職は、成った。



もうキュルがはくはくに腐敗を広げる事はない。

がしかし、既に腐敗が進んだはくはくの腐敗は消えないし、その痛みも消え去りはしないから、キュルの頭の上から右手がだらしなく落ちて、既に動かぬ自分の右腕の重みでに腐敗が進んだ二の腕に激痛が走った。


通常の戦闘であれば欠損状態になどならない、HPが減って、その演出上血が出たり、装備が劣化して見えるだけ。

しかし、はくはくが受けたのは『呪い』であったから、はくはくの肉体上に腐敗効果が発生していた。

『腐敗の呪い』は、世界に設定された強い効果だったから、その効果はダメージはHPを減少させるだけ、という基本の理を上書きしていたのである。


しかし、はくはくは思ってもみなかったのだ。

現実ではここまで急速に腐敗が進むと。


ゲーム時代では『腐敗の呪われキュル』に接触すると、一定時間ダメージを受け続ける継続ダメージがあったが、接触を続けなければ死ぬほどではなかったのだ。

まさか、5秒でここまでダメージを負うとは想像していなかった。

それも肉体損壊を発生させるとは夢にも思っていなかった。


―――いや、しっかり考えるべきだったのだ。

なにせ、その名が示す通り、キュルに触れると発生するのは『腐敗』なのだから。


「………」


はくはくは、今回ばかりは自分の考えの足りなさを後悔するが、キュルを救う事を諦められたかといえば、答えはノーだ。

ただ、何かしら回復の準備はすべきだったと反省はしているが。


当初の目的通りキュルの転職は成った。

しかし、これから周囲を覆った建材から抜け出して、黄金翼竜に乗って冒険者四人から逃げなければならない。

なのに、はくはくの右腕は全く動かず、左手も指一本動かない。

建材はインベントリへ回収できるが、幼子を連れて黄金翼竜に上る事はやはり難しい。

管理者権限『飛ぶ』で大人であるコスモスを抱えて飛ぶことはできなかったが、幼子であれば飛べるだろうかと考え、その管理者権限そのものが使えないと思い出して解決策が見つからない。


はくはくは神官である。回復は使えるが、最も弱い回復魔法しか使えない。

よって、

「【癒ーイルメー】」

と唱えてみても、二の腕の痛みが和らいだ程度で、腐敗して『欠損』扱いになった腕は治らない。

やむなく、痛みだけでも無くそうと、

「【癒ーイルメー】」

最弱回復魔法を続けて唱える事にした時、キュルの手が、だらりと下がったはくはくの右腕に触れたから、

「どうした?」

まだ治まらない痛みに脂汗を流しながらも、はくはくは笑顔を作りキュルへ向きなおったが、

「いー?いー?」

まるで「痛いの?」と問うような声に感じて、はくはくは、

「だ、大丈夫。キュルは何も悪くないよ」

脂汗の浮く顔でそう返したのだが、

「あーてー」

キュルの心配そうな声が聞こえたと思ったら、キュルの触れた右手が薄く光ったから、

「―――ステータス………状態『祝福』?」

何ごとかと自分のステータス画面を確認して自分の状態を示す欄にその言葉を見つけた。


状態『祝福』―――対象者の長時間全能力向上、幸運値激増、成功率激増。

そして向上された自身のステータスの爆増を確認し、そのあまりに規格外さに、

「ぶっこわれ性能………」

はくはくの口から思わず本音が零れた。


そして試してみる、

「【癒ーイルメー】」

自身へ向けた最弱回復魔法、本来欠損状態を治すはずもないそれが、はくはくの両腕をみるみる癒し広がる。

黒く腐敗し、腐敗臭を放っていた指先まで、まるで一つの小傷すらなく、完全回復。


「うそぉ?」


はくはくは、キュルとすっかり元通りの自身の腕を交互に見て、そのあまりに信じられない内容に驚きを隠せず、それでもしかしはくはくはキュルに救われたのだから、

「ありがとうキュル!ありがとう!」

そう言って、元通りになった右手で改めてキュルの頭を撫でた。


「あーいー?」


その手のひらから伝わってくるのはもう腐敗などではなくて、一人の女の子の温かさだった。


だから、その幼子の首元の痛々しい傷へと、

「【癒ーイルメー】」

回復魔法を唱えて、痛みが消えた事に不思議そうなキュルに向けて笑んだ。


激痛がひいて初めて、はくはくは周囲を覆う建材に衝突音が響いているのを知った。

いつから攻撃されているか分からない。

転職の痛みに耐えたのは5秒程度だが、そのあとの痛みをどうにかしようと【癒ーイルメー】を繰り返した時間がどれくらいだったか、とにかく痛みがひとくて時間感覚が正しく機能していたか疑問だからだ。

時間は無いと考えた方がよさそうである。


「早速、管理者権限『飛ぶ』を試してみようか!ステータス」

「うー?」


何をするのか全く分かっていないキュルのポカンとした顔を見つつ、はくはくはステータス画面を開く。

はくはくはもう『管理者権限』タブを押せるのだから。


ちなみに、はくはくは転職後のキュルに触れた際、変化した彼女のステータス画面から、能力を確認した。能力説明欄にあった内容は、キュルの能力『祝福』は人間以外にも付与できる。


対象食物へ摂取時能力上昇効果付与、対象消費アイテムへ効果上昇効果付与、対象植物へ成長促進付与、対象生物に全能力向上付与であり、そして『全能力向上』の『能力』が指すのがステータスだけではない、魔法・スキルとも『能力』とみなされたからこそ、はくはくの欠損は最弱回復魔法で回復したと推測できたから、



―――キュル、まさにぶっこわれ性能である。




星評価やブックマークしてもらえると、書き続けるモチベーションが迷子にならなくなります。

切実なので、よろしくお願いします。

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