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第三章2 ヘルペナ村海鮮グルメ

本日より1話投稿予定でしたが、1日2話投稿を11月27日まで続けます。

その後は1話投稿に切り替えて、12月一杯までは書き溜め分を投稿します。


来年以降は不定期投稿になります。




―――翼竜全ての騎乗鞍を求めて。



ナーブ辺境村より北へ遠く海辺に面する漁村ヘルペナに向かう、もう村も間近な空の上。


「はくはく様!見渡す限りの水たまり!これが海なんですね!私、初めてです、海!」


黄金翼竜に騎乗するはくはくの前に座るコスモスが、キラキラした笑顔ではくはくへと振り返る。


「ほら、匂いも感じない?」


「ああ、本当だ!不思議な香りがします!」


「それが潮の香り。海の上を通った風にのって運ばれる匂いだよ」


「私、本当に遠くまで来たんですね!」


初めて見る海に興奮してはしゃぐコスモスに、

「きっと、魚介類も美味しいと思うよ」

はくはくは魅惑の料理の数々を思い浮かべながらそう言い、

「海獲れの魚介類!楽しみです!」

コスモスのいい笑顔を向けられた。



ナーブ辺境村より北へ遠く海辺に面する漁村ヘルペナに到着して。

はくはくとコスモスは、村外れの雑木林の辺りで黄金翼竜を待機させて、目立たぬようにヘルペナ村に入った。


ただの翼竜ではなく黄金翼竜に騎乗している時点で目立とうというものだが、

「黄金翼竜スキンって物がありましてね」

ゲーム時代に、見た目だけを変える『スキン』と呼ばれるアイテムがあった。

強さや能力に一切変化はなく、単に見た目を変えるだけ。

そのスキンの一つに『黄金翼竜スキン』があるのだ。

ゲーム時代のはくはくもお気に入りの翼竜に『黄金翼竜スキン』を装備して、金色の翼竜を愛でたものだ。


そういう理由で、黄金翼竜を見ても冒険者達からはただの翼竜と勘違いしてくれるはずだ。

なぜなら、黄金翼竜は『飼い馴らし対象外』であって本来なら絶対に従魔になる事はないのだから。


「いらっしゃい、いらっしゃい!いい魚入ってるよ!」


「おにーさんどうだい?朝獲れ新鮮魚の定食は?今なら席空いてるよー!」


「お嬢さん、こっちの店にしときなよ。ウチは焼き牡蠣が旨いよ!」


「おーっと、悪いねにいさん、魚運んでんだ!」


午前も遅くにヘルペナの村に踏み入ったはくはくとコスモス。

はくはくが、魚一杯の木箱を数段抱えた体格のいい男にぶつかりそうになったりしつつ、久しぶりの人の活気と精力的に働く村人達を見て少々心が浮き立った。

はくはくもコスモスも、あちこちの店や露店に視線が引き付けられ、魚介類を焼く香りが、二人の空腹感を増しに増していく。


「海も湖も川も遥か遠いナーブ村じゃ、魚なんて手に入らなかったしね」


「あの、はくはく様!焼き牡蠣ってなんでしょう?」


「ああ、えっと食べた方が早いね。お姉さん、焼き牡蠣二つください」


「はいよー。ありがとう!はい、焼き牡蠣ふたっつ、どうぞー」


店に入らず、焼き牡蠣を実演で焼いている屋台の方で、殻ごと焼き牡蠣を受け取って。

添えられた串で身の大きな牡蠣を口に放り込む。

その様子を見て、コスモスも同じように牡蠣を口にほおばった。


果汁がかけてあったらしく、噛むと濃厚な磯の香りと、柑橘系の香りが鼻に抜けた。

はくはくにとって、久しぶりの魚介類の食事である。

ルッタの記憶によれば、ビリル神聖王国王都では魚介類の食事を摂った記憶があるので、実に8年ぶりである。


「ああ、美味しい!」


「美味しいですね!クリーミーです!」


料理に味がする、この辺りも現実寄り変化と言える。

宿で汗を流す事を優先するはずだったはくはくの計画はしかし、その焼き牡蠣の美味しさに刺激されて胃袋がもっとよこせと騒いでいるようで。


「宿は後回しにして、食べよう」


「賛成です!はくはく様!」


コスモスも自分のお腹に手を当てて答えた所を見るに、相当焼き牡蠣が美味しくて、はくはく同様に我慢できなくなったようだ。


「ここが良いかな………いや、あっちも捨てがたい」


「はくはく様!私、空腹で目が回ってきました!」


空腹は意識すると一気に、思考を占領するから性質が悪い。

コスモスは店を選ぶ事を既に断念し、はくはくの僧服の裾を摘まんで付いて歩く事に専念している。

おそらく、どの店を見ても迷うだけだから、はくはくに任せる事にしたのだろう。


「しっかりして。よ、よし、ここに決めた!行くよ、コスモスちゃん」


「は、はい!はくはく様!」



入った店は、定食屋の一つ。

小綺麗な店といった雰囲気ではなく、飾りっけの無い無骨な印象の店だ。

しかし、店内の活気がすごかったから、味に期待が持てるとはくはくは判断した。

結果―――


二人は眼前に並んだ大盆の上に並ぶ、焼き魚に刺身、贅沢にも蟹の入った味噌汁、海藻を使った料理や牡蠣フライに、小鉢の数々に驚き喜ぶのもそこそこに、がっつくようにして食べ始めた。

そして、

「旨い!大当たりをひいた!」

「美味しい!美味しい!美味しい!」

コスモスなど、さっきから『美味しい!』しか言っていないほどに、旨かった。


見知らぬ旅人である二人を見る常連と思しき客が、

「そうだろう、そうだろう。ウチの村の魚はどれも旨いからな!」

「たんと食え、たんと食え」

そう満足そうな顔で二人に声がかかったのも頷けた。



「旨かった、旨かった!」


「私、こんなに幸せでいいのでしょうか?なんだか怖くなってきました」


はくはくは大事な感想なので二度言って、コスモスは謎に不安がって店を後にした。



「よし、宿に行こう」


「はい、はくはく様!」


ひとしきり食事の旨さに沸いた感動が収まってから、はくはくとコスモスは、二階建ての村の宿屋に入った。

この村の宿屋も食堂が併設された、宿兼食堂である。

一階は食堂、二階は宿になっている。


エプロン姿の中年女性が厨房らしき奥から現れたから、

「風呂付きの部屋を二部屋お願いします」

はくはくがごく当然の希望を伝えたのだが、

「いいえ、一部屋で大丈夫です、おかみさん、一部屋で!」

コスモスがはくはくの前に出るように宿屋の女性に迫るから、

「あ、こりゃ駄目なやつだ………」

はくはくはコスモスが譲らないと察して、

「………」

沈黙した。なにせ店先で長々話し合いという訳にもいかない。

要は二人で部屋に入らなければ良いだけであり、順番に風呂に入れば良い。

宿泊する気もありはしないのだから。


「じゃあ、一部屋でいいんだね?ああ、待ってな、お釣りを出すよ」


宿屋のおかみに前払いで精算を済ませて、指定された二階の部屋を確認する。

ベッドが一つ、小さな丸テーブルに背もたれの無い椅子、木窓。

ベッドの反対側に据え置きのバスタブがあり、ベッドとバスタブの間に目隠しのカーテンがかけてあった。


「一応、見えなくできるのか」


風呂に目隠しが無いと思っていたはくはくだったが、これなら問題はない。

はくはくは、コスモスに先に風呂に入るよう促した。

よく妹に、『兄貴たちの後のお風呂なんて嫌』そう言われ続けた結果、ごく自然に風呂は女の子が先とはくはくの中に刻まれていたから。


しかし、目隠しカーテンの向うから聞こえてくる衣擦れの音に、

「………」

やましい気持ちがないのに、顔が赤くなっているのはなぜなのか、

(駄目だ。意識したらもう………よし、部屋の外で待とう)

はくはくが耐えられなくなって逃避を選ぶのは仕方のない事である。


そろりと静かに歩いて部屋の木戸を開けたのに、小さく「キィ」と響いた開閉音にコスモスが反応し、

「はくはく様!離れてはだめですっ!」

そう言ってザっと音をたてて目隠しを開け放ったのと、はくはくが室外に出たのが同時だった。


時間的に考えて裸のままだろうに、

「はくはく様!私から離れては危険です!はくはく様!開けてください!」

はくはくを中に入れようと木戸を押し開けようとするから、はくはくは自分の身体で木戸を開かせないように押しとどめた。


「コスモスちゃんがお風呂から出たら、ちゃんと中に戻るから!」


こうして、なんとかコスモスを風呂に戻るように促してしばし。

コスモスがさっぱりした後、はくはくの入浴の番となったが、案の定プクっと頬を膨らませてお気持ちを表明しているコスモスは部屋から出てはくれず、

「絶対に目隠しカーテンを開けないでね!」

乙女のような願いをコスモスにして、ようやくはくはくは不快な汗を流すことが出来た。


「ふう」


こうして、はくはくとコスモスは風呂に入っただけで宿屋を出るべく階下に降りたのだが。


「おかみさん、どうかしました?」


宿屋のおかみが、厨房の奥をじっと見つめていた。

その表情に不安な様子が見えたから、はくはくが声をかけたのは、やはり神官としての生真面目さのせいだろうか。

それとも、妹の世話をやかずにはいられなかった次男としての彼の性分か。


「あ、ああ………昨日から、あの子が来なくてねぇ」


「あの子、ですか?」


「ああ、お客さんこの村の人じゃないもんね、知らなくて当然か。可哀そうな子なんだ、村中に厄介者扱いされて、村長なんて追い出そうとするから心配で。せめて私くらいはと思って食事の世話をしてたんだ。けど、昨日から来てないんだよ。まだ小さいのに『呪われた子』が」


その瞬間に、はくはくは思い出した。


「はくはく様、どうしました?どこか痛みますか?」


コスモスが心配そうにはくはくの顔を覗き込む。


どうやら顔に出ていたらしい、その感情は『不快』。

『呪われた子』が示すものが、ゲーム時代の記憶にあったから。

ひたすら可哀そうな幼女は、クエスト対象キャラクター。

冒険者の選択によって二つに分かれるクエスト上の分岐のどちらを選んでも救われない幼女。

幼女に『腐敗の呪い』が解けるといった幸福など訪れないのである。

鬼畜な胸糞クエスト、はくはくの顔も不快に歪もうというものである。


「おかみさん、最近冒険者を見ましたか?」

はくはくの問いに、

「ああ、一昨日ここに泊まっていったよ。四人の冒険者が」

おかみが答えた。

「くそ、もう始まってる」



―――それは、胸糞クエストが進行中であることを示していた。




次話が不穏なタイトルですが、お話上のタイトルで、作者は主要キャラを幸福にする事を至上命題にしております。

なので、不安だなあと感じた場合タイトル『キュル』まで飛ばしてみて下さい。

彼女が不幸かどうか、十分お分かりいただけると思います

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