第二章3 黄金翼竜
―――大地の割れ目の中。
異変に気付いたのはコスモス。
コスモスは大地の割れ目という『安全地帯』から翼竜の気を引き続ける誘導役の最中だった。
周囲をぐるぐる旋回し、敵対者コスモスを焼き殺そうと炎の息を吹く翼竜たち。
一度だけ頭上に黄金色が見えたから、はくはくの作戦は成功しているかもしれない。
だから、黄金色が見えてからしばらくたって、コスモスは魔法攻撃を止めていた。
大地の割れ目からはくはくの元へ戻るためである。
「翼竜はしばらく攻撃をしなければ、怒りが収まって洞窟に戻る、です!」
それが、はくはくの説明だった。
しかし、あまりにも突然頭上が静かになった。
怒りが収まるにしては急すぎるとコスモスは感じる。
「ついさっきまで咆哮が止まなかったのに?」
だからコスモスは飛翔して、大地の割れ目から頭を出して周囲を確認。
「翼竜達が黄金洞窟に戻った?」
コスモスの視線の先、全方位を見渡しても翼竜の姿がなかった。
「どうして、こんなに急に?」
最近までただの宿兼食堂の店員であったコスモスに分かるはずもなく、とにかくコスモスは大切なはくはくの元へ戻ろうと飛び上がった。
黄金洞窟の上部大穴の上まで戻ったコスモスだが、周囲にはくはくの姿が無かったから、恐ろしい想像に心胆を振るわせて、足元を見た。
そこに、黄金翼竜とその下にはくはくをを見つけたから、
「私の大神官様に何をしたぁ!【知力向上ーイニバリフー】【全能力向上ーオルバリフー】」
魔法威力を底上げする能力向上魔法を奮発し魔杖を剣のように頭上に掲げ、真っ逆さまに降下しながら、
「【剛凍ートル・ギ―――」
「待ったー!」
誘導時に放ったのと同魔法、しかしその威力は1.5倍程度にまで上昇した高威力魔法はしかし、
「待って!生きてる!俺、生きてるし―――」
足元の黄金翼竜の翼の下に横たわった状態のはくはくによって止められて、
「はくはく様!でも敵が!」
コスモスにとって許せないのは、敵がはくはくを組み敷いているように見えたから、
「違う、違うよ。こいつは敵じゃない、仲間」
はくはくの言葉の意味が分からずにいるコスモスは、宙空でこてりと首をかしげ、
「転職できたんだよ。『黄金の守護者』から『従魔』に」
それがどういう事かコスモスには測りかねたが、これだけは言えるから、
「はくはく様!ずいぶんと予定が違います!もう、私の大神官様ったら凄い!」
コスモスは全て『偉大な大神官の奇跡の御業』という理由で全てをまるっと受け入れる事にした。
はくはくを押しつぶすばかりの翼から逃れようとはくはくは、胸を圧迫しつづける黄金翼竜の翼を掴んだ時、初めてNPCに過ぎないコスモスの腕を掴んだ時と同じく、はくはくの脳内に弾ける感覚が起こった。
それはつまり、手で触れた対象のステータス画面の脳内視認であり、転職先名リストの脳内視認を知覚した感覚である。
ステータス画面には人間のステータス画面では職業を示す欄に、黄金翼竜は『黄金の守護者』とあった。
しかし、ゆっくり確認している時間はなかった。
はくはくは胸の圧迫で満足に呼吸ができておらず、頭が思考を停止しそうな程、視界が暗くなり始めているからだ。
転職先リストに示されたのは二つ『従魔』と『騎獣』。
はくはくは『従魔』を選び、転職が完成するまでの光の演出の数秒を無呼吸で乗り切った。
こうして、黄金翼竜の転職は成った。
加えて、黄金翼竜が『従魔』になった途端、十六体の翼竜達が洞窟へ戻って来た時、はくはくはもう駄目だと死ぬ覚悟を決めたのだが―――
「はくはく様お手をどうぞ!」
『従魔』になった事で黄金翼竜の敵意は霧散し、既に翼からは逃れていたものの。
はくはくは取り込み損ねていた酸素を取り返さんと呼吸に専念し、あおむけのまま横たわっていたから、またもコスモスに助け起こされる事になった。
「ありがとう!」
「あの、はくはく様、他の翼竜はなぜ攻撃してこないのですか?」
「黄金翼竜に従ってるみたい。だから、黄金翼竜が敵視しない相手には攻撃してこないっぽい」
はくはくとコスモスの前で、黄金翼竜に首を垂れるように、十六体の翼竜は頭を地面につける格好で座している。
これほどの数の翼竜が視界に収まると、荘厳さすら感じてコスモスがはくはくを見る目が一層輝きを増した。
この光景を成させたのがはくはくなのだと思うと、はくはくが一層偉大に見える。
「私のはくはく様は本当に凄い!」
コスモスはそう言ってぶるりと身体を震わせる。
「それにしても、魔獣が転職可能って。しかも『従魔』か『騎獣』って、まるで言葉遊びみたい」
はくはくの言葉にコスモスはやっぱり首をこてりと傾げている。
確かに魔獣使いが飼い馴らした場合、魔獣は人間に従うようになるし、その呼び名は『従魔』だ。
しかしそれは人間が呼び名を変えているに過ぎない。呼び名が従魔であろうと魔獣は魔獣。
なのに、魔獣からの転職が起きた。それも、人間が勝手につけた呼び名の方へ合わせる形で存在を変化させて。
現実の『魔獣』が、言葉に過ぎない『従魔』に変わる。
―――まるで冗談みたいな言葉遊びである。
それでも、はくはくは生き残ったのだから良しとしようと思い直す。
大変危険だったし、正直死ぬかもと思った。
この危険のくだりは、コスモスには話さない方が良いだろうとはくはくは考える。
話したら、もう単独行動は絶対させてもらえなくなる、コスモスがそれを許すまい、と。
もう一つ、『騎獣』を買わずに済んでしまった。
カジノで博打をしなくて済むならそれが一番だ。
今回は換金アイテム『黄金塊』を売った金を賭けの元手にするつもりだった。
しかし、賭け事は魔物である。
おそらく負け続けたら、負け分を取り戻そうと、元手額を超えて自分の給金にまで手を出すだろう。
教会の神官として勤めてきた給金ははっきり言って少ない。
その微々たる給金まで使った上で、破産などしたくは無い。
だから、これも死にかけた見返りとしては安い気がするが、まあまあ良いのでは?と。
「よし、じゃあこっちの賭けの結果を確認しよう」
「賭け、ですか?」
「そう、本来魔獣使いしか扱えない『従魔』を選んじゃったから。転職『従魔』は魔獣使い以外でも扱えるか?っていう賭け」
「勝っていて欲しいですね!」
『騎獣』を選べば無難だとは分かっていた、しかし戦う力は捨てがたかった。
はくはく自身が全く戦えないために、一層戦う力を捨てられず、はくはくは賭けにでてしまったのである。
はくはくは、首を曲げて自分を見つめる黄金翼竜のごつごつした固い頭をひと撫ですると、翼に足をかけてその胴体へと上がり、背の一部を覆う毛足の長い毛をしっかり掴むと、
「飛べ」
そう命じた。
すると大きな翼を羽ばたかせ、その身を宙に浮かせたから、どうやらはくはくは賭けに勝ったらしい。
「勝った!」
「勝ちました!」
―――転職した『従魔』は『魔獣使い』でなくとも扱える、光明である。
賭けの勝ちを確認して安堵したはくはくは、黄金翼竜から降り、元々の狙いだった『黄金塊』を無事インベントリに収納。
そうして、いよいよ黄金洞窟を去ろうと黄金翼竜に跨ったはくはくに、
「はくはく様!翼竜全部、転職してもらって行きましょう!」
コスモスがいい笑顔で少々強欲な事を言い出すから、
「全部?って、俺たち二人きりだよ?この黄金翼竜だって三人くらい乗れるし、ちゃんとした騎乗鞍を付ければ5人乗れるのに?」
普通に正論を返したが、
「多いにこしたことはありません!それに、私に考えがあります!」
黄金翼竜だってコスモスの働きあって手に入ったのだ、無碍に断れるはずもないが、
「全部?三体くらいじゃだめ?」
そう粘ってみたのだが、
「全部です、全部!それでこそ、私の神官様の偉業を見せつけられるのですから!」
コスモスがフンスと鼻息を吐いて言うから、
「誰に見せつけるのかな?」
その問いに、
「世界に!」
コスモスが大層大仰な事を言い出すから、
「目立っちゃ駄目だよ?俺の命が危なくなるよ、コスモスちゃん?」
真顔でそう突っ込むしかなかった。
どうやらコスモスちゃんの『考え』は実行しない方がよさそうであるから、はくはくは考えてすぐに解決策を思いついた。
考えてみれば、これしかないという方法だ。
乗る当てのない翼竜は、預ければいいのだ。
こうして、翼竜達十六体の転職を終え、コスモスと二人で乗った黄金翼竜の上から、
「皆、付いて来て」
そう命じて飛び立つと、十六体の翼竜が一斉に飛び上がった。
陽光に煌めく黄金翼竜と、追従する十六体の翼竜達、それはやはり壮観としか言えない光景であった。
こうして、その日『黄金洞窟』から全ての翼竜が居なくなった。
はくはくが考えた、今は乗る当てがない翼竜の預け先、それは―――あそこである。
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