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第二章2 黄金塊奪取計画




―――はくはくとコスモスのアイテム回収の旅の中。



はくはくとコスモスは、冒険者が最初に降り立つ西側を避けていた。

西側から東側へ移動した冒険者に出会う可能性はあったが、それでも西側に自分から行くよりはましである。

ナーブ村と同じ東側を中心に、すでにいくつかの遺跡、洞窟、大樹、湖上の島を飛んで各種アイテムを回収していた。


「私、ずいぶん強くなりました!」


嬉しそうなコスモスの言う通り、コスモスの魔法職装備は揃った。

コスモスの姿は、いかにも村娘なワンピース姿から、太ももの付け根や脇、お腹部分が所々露出するデザインの魔導ローブ姿になっている。

頭にはつば広なとんがり帽子に、手には魔杖である。

装備としては、厳密に言うと効果を付与する宝石が手に入っていないため、まだ強化可能な要素は残っている。

それに、本当はクエスト報酬などの装備やアイテムの方が強いものまであるくらいだ。

しかし、まだその段階ではない。


「切実に、飛ばずに移動できる方法がいるなあ」


冒険者に見つかった場合、はくはくの管理者権限『飛ぶ』は、おそらく『賢者』の『飛翔』魔法と捉えられるのが普通だ。

問題は、はくはくには攻撃魔法の一つすら放てないこと。

つまり、行動如何によっては『賢者』ではないとばれてしまう。

だから、管理者権限『飛ぶ』を使わないのが一番安全ということになる。


コスモスも同様に、すぐさまNPCが『賢者』とばれるよりは、できれば隠しておいた方が、要らぬ危険を呼び込まない。こちらも、『飛翔』を使わないのが一番安全となる。


しかし、

「飛んで移動する事を覚えると、歩いて移動なんてやってられないと思うもんで」

飛ぶと徒歩では移動速度が段違いなのだ。

それに、

「空中の方が、冒険者とばったり対面って危険がないからなあ」

そういった理由で、

「よし、従魔翼竜を買おう」

と考え至るのである。


「はくはく様、従魔は『魔獣使い』が従えるものですよね?」


首を傾げたコスモスがまた可愛いが、それは横に置いて。


「戦う力を持った従魔はそう、『魔獣使い』しか扱えないんだけど、戦う力を持たない従魔ってのがいて、それなら誰でも扱える。そういうのを『騎獣』って呼ぶんだけど………」


「だけど?」


「すんごくお高い!」


「私じゃお役に立てない………」


「大丈夫。元手さえあれば、カジノで増やせる―――」


「それならいけますね!」


「―――はず!」


「私の大神官様ならば賭けにも神のごとき御業が炸裂するはず、完璧な計画ですね!」


はくはくがカジノで勝てる保証は全くないのに、コスモスの盲信じみた発言が重い。

カジノで賭け事をするという部分はひとまず横に置き、とにかく元手を稼ぐ事は優先しようと決め、向かう先はナーブ村から北東の大洞窟『黄金洞窟』。


クエストで訪れる場所ではなく、通常の魔獣の発生場所、所謂スポーンポイントである。

『黄金洞窟』の魔獣は死ぬと時間をおいて再出現する、そういう場所だ。


しかし、この『黄金洞窟』が変わっている所は、報酬が用意されている事。

この洞窟の最奥にある、洞窟の名が示す通り、『黄金塊』という換金アイテムがそれである。


そして、この『黄金塊』は報酬でありながら、洞窟内部の魔獣を倒す必要はない。

これがこの『黄金洞窟』の特徴である。


この『黄金洞窟』こそ、ゲーム時代の『魔獣使い』はくはくが、翼竜を従魔に従えるために足しげく通った場所であり、その特徴から便利情報まで知り尽くしていた場所である。

『魔獣使い』はくはくが最も好きな魔獣、それは翼竜だったのだから。


その『黄金洞窟』の特性とはくはくの知識を利用して―――


空中に浮かぶはくはくの眼下で魔法が炸裂する轟音が響くと、『黄金洞窟』の横穴から魔獣―――巨大な翼をはためかせその巨躯を悠々と宙に浮かせる翼竜『ワイバーン』がその身を現した。


人間を丸のみにできるその頭のサイズから分かる通り、その体躯は人からすれば巨大に過ぎる。

その巨躯が、十六体。

群がるように、小さな大地の割れ目を苛立たし気に飛び回りはじめた。

その口から、吐き出した炎の息が大地を舐めるように焼く。

炎の息は四方八方から浴びせられるから、大地の割れ目にいる者などひとたまりも無いと思える光景だ。


しかし、その割れ目の中、

「はくはく様の言った通り、炎の息が入ってこない!これが『安全地帯』!」

コスモスが、はくはくによって教えられた『安全地帯』に目を輝かせていた。


大地の割れ目は、地面から三メートルほどの深さの自然にできた亀裂である。

三メートルというのは実は人間が入り込める隙間としての意味合いで、実はさらに深い。

コスモスが踏みしめている足元の細い亀裂から風が吹き上がっていて、炎の息の亀裂への侵入を拒んでいる。

いくら攻撃対象コスモスに向けた攻撃でも、自然現象を無視はできないのである。


「【剛凍ーゴル・ギカー】!」


氷系魔法より一段上の凍系魔法単体攻撃最強の【剛凍】が大地の裂けめの上で発生し、頭上を旋回していた翼竜に直撃する。

「―――ギャオッ」

翼竜はその威力に飛行姿勢を完全に崩したが、さすが翼竜というべきかHP全損には全く至らない。

錐もみで墜落しかけたが、それも空中で飛行姿勢を取り戻していた。

しかし攻撃と痛みを受けた怒りから翼竜は轟く咆哮を上げ、つられるように周囲の翼竜も次々に咆哮を上げる。

翼竜の咆哮が重なり、まるで轟音のように周囲に響き渡った。


「さすが竜種です、強いですね!」


安全地帯であるとはいえ翼竜に囲まれた状態にしては呑気なコスモスの言葉であるが、この安全地帯から、コスモスが亀裂の外目掛けて魔法を放つのは、誘導目的である。

ひたすら翼竜の気を引き、黄金洞窟に戻らせなければ良い。倒す必要はないのである。



―――『黄金洞窟』お宝奪取作戦前。


「私、戦ってみせます!」


「いや、翼竜が強いうえに数が多いんだよ。コスモスちゃんを無駄に危険にさらせないし、それにせっかく『安全地帯』があるんだから使わないともったいない」


「私、戦えるのにぃ………」


はくはくがコスモスに作戦内容を伝えた時、戦いたがるコスモスに手を焼かされた。

最後は、ぷくっと頬を膨らませて拗ねてしまったコスモスである。


それに、

「はくはく様一人で黄金洞窟に入るのですか?駄目です!危険です!」

次には、はくはくを一人危険にさらせないと粘られた。


「大丈夫!黄金翼竜が洞窟から出るのを確認してから入るし、入るのは洞窟上部の穴だから、入るのも出るのも早いから」

そう説得してようやく、

「分かりました、私、はくはく様をお守りできない苦しみに耐えてみせます!」

理解してもらえた。

コスモスが言う『はくはくを守れない苦しみ』の方は、はくはくにはさっぱり理解できなかったが。



コスモスの派手な攻撃で翼竜の咆哮が響き渡った後。

空中に浮かぶはくはくの足元の大穴の先で、黄金色が動いた。

動いた方向から見て洞窟の横穴出口だ。


「よし、そろーりと」


飛んで入るのに音などするはずもなく、意味のない静音宣言を口にしてはくはくは足元の大穴へ降下していく。

一度大穴の手前で、頭を下にして洞窟内を覗き、確かに黄金翼竜がいない事を確認。

慎重に慎重を重ねてやっと洞窟内に降り立った。


目指すは一点、最奥の黄金翼竜の座。

黄金洞窟の上部大穴は、洞窟最奥寄りに位置してはいるが、最奥直上ではないため、二十メートルほど飛び、幾重にも積まれた藁敷の黄金翼竜の座に着くと、中心に置かれていた『黄金塊』に手を載せ、『インベントリ』へ収納しようとして―――


「グルルルルルルァァァァァァァアアアアアッ!」


圧倒的気配と共に鼓膜も破れんばかりの咆哮を背に受けて、はくはくは状況の最悪を理解した。

戻って来た黄金翼竜の位置が、既に洞窟上部大穴に至ってしまっている。

それは、はくはくが大穴から逃げ出そうとする前に黄金翼竜と接敵することを意味する。

現にはくはくが、助かる方法を必死で考えていた間に、黄金翼竜は目のまえにズザーと乱暴に着地していたのだから。


黄金翼竜の二つの大きな紅い瞳に、貧弱そうな男が映っている。

それはもちろんはくはくで、黄金翼竜の頭がぐっと後ろに引かれたのは、

「―――炎の息っ!」

口から前方へと吐かれる炎を避けるには、

「―――っ!」

黄金翼竜の口より後ろ側しかない、よってはくはくは猛然と黄金翼竜に向かって低空飛行。

炎熱を溜め込んだ黄金翼竜の咢の下を、ぎりぎりでかいくぐれたのは、走るよりも早い飛行であったから。

頭を前にして飛ぶはくはくの肉体として、黄金翼竜の咢を最後に通過するのは足である。

その足が高熱を感じるほど、死はすぐ間近だった。


しかし、黄金翼竜の身体の下に滑り込むように飛び込んだ状況。

そのまま、黄金翼竜の後ろ足の方から抜けて、上部大穴を目指そうとしたはくはくだったが、黄金翼竜が炎の息を吐き出した直後にその身体をひねって尾を自身の肉体を包むように閉じるから、はくはくが見ていた逃げ出す隙間が閉じてしまった。


必死に隙間を探すはくはくだったが、自身の身体の下に敵がいる黄金翼竜は翼で巨躯を空中に浮かせるから、視界が開けたはくはくは今度こそ抜け出そうとして、

―――突然滞空を止めた黄金翼竜の巨躯が、はくはくを押しつぶすべく落ちて来た。


「―――っ!」


落ちてくる黄金翼竜の巨躯のうち、まともに受けると危険なのは、胴体、足、首、付け根に近い尾。

逆に、多少なら死なないかもしてない部位は翼、付け根から遠い尾の先の方。

瞬時にはくはくが移動できたのは、翼の方だった。


「ぐ、があ―――」


しかし、翼のうち翼膜であれば良かったのに、そう上手くはいかず、はくはくを地に縫わせたのは翼の内筋肉を伴った太き腕の部分だったから、はくはくの低きにすぎるHPは危機的状況へと陥った。


視界が明滅するような痛みと圧迫感の中、黄金翼竜の右翼の重さで胸が圧迫されて十分に息ができない。

はくはくは、なんとか身体の上の翼から逃れるため、黄金翼竜の翼を掴んで引きはがそうと手で掴み―――――脳内に弾ける感覚が起こった。



―――はくはく、命の危機の真っただ中である。




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