第7話
父の会社は自宅から車で約40分。
そう遠いというわけでもない。
こういった時に車があるのは本当に助かる。
車と言っても、俺がアルバイトして貯めて買った、中古の軽自動車である。
始め、大学入学の時に、父が車があった方が便利だろうと、車の購入までしてくれそうになったので、それは丁寧に断った。
大学の学費まで出してもらって、車まで買ってもらっては、ただのボンボンである。
俺は、中古のスクーターを買い、大学2年までそれで通った。
3年の始めの頃に資金が貯まり、今の中古の軽自動車をバイト代で購入した。
前のオーナーが女性とのことで、車内は綺麗で、中古とは思えないくらいである。
家の玄関を出て、桜ちゃんに「どうぞ」と車に乗ることを勧めた。
桜ちゃんは「お邪魔しまーす」と車の助手席に座った。
初めて乗るわけではないのだが、桜ちゃんの性格だろう。
明るく、気の利くのは、桜ちゃんの魅力の一つだ。
俺はトランクに父の着替えと弁当の入ったバッグを入れると運転席に乗り込んだ。
「じゃあ、桜ちゃん。行くよ」
そう言って、車のキーを回し、エンジンをかけた。
桜ちゃんは、「レッツ、ゴー!」・・・楽しそうである。
車を運転する間に俺は父の会社について、桜ちゃんに話そうと思っていた。
そう、桜ちゃんが父の会社に行くのは初めてなのである。
俺が言う前に桜ちゃんの方から、話しかけてきた。
「海人君のお父さんの会社って、最近ニュースに出てた会社でしょ?」
鋭い。
「大当たり、良くわかったね」
桜ちゃんは素早く切り返してきた。
「だって、会社名が『工藤研究所』で、海人君のお父さんもテレビに出てたから」
工藤健一郎、父の名前である。
そして、『工藤研究所』の所長を務めるのが父であった。
俺は何回か父の研究所に母に頼まれて行ったことがあるが、桜ちゃんは、初めてなのである。
桜ちゃんの質問は続く。
「海人君のお父さんの会社って、何を作っているの?」
俺は、わかりやすく、桜ちゃんに説明することにする。
「あのね、父さんの会社は、父さんが所長を務める会社で、民間から軍まで、色々な開発を依頼されて、研究したり、作ったりする会社なんだよ」
桜ちゃんは、好奇心を隠す様子もなく、次の質問にかかった。
「じゃあ、私が使っているものの中にも、海人君のお父さんの会社?研究所が作ったものがあるかもしれないのね?」
俺は、自分の知っている知識でわかりやすく、桜ちゃんの説明に答えた。
「製品そのものはないと思うけど、研究された技術が使われているのは、結構あるかもしれないね」
桜ちゃんは、何となく納得してくれたようだ。
その何気ない会話をしている時に会社へと続く道に異変があるのがわかった。
警察車両、パトカーを度々見かけたのだ。
そして、父の会社の前に着いた時、疑問は確信に変わる。
パトカーにまぎれて、自衛隊の車両を見つけたからだ。
これはおかしい。
俺の脳裏に、少なからず不安がよぎる。
桜ちゃんもこのただならない雰囲気に気付いたようで、不安な表情を浮かべている。
腕時計を見てみる。
午後5時を少し過ぎたようだ。
俺は、桜ちゃんに「ちょっと、待っててね」と言い残し、車を降り、会社の入口にある守衛所へ向かった。