第45話
次元の間に戻って来た。
ランスゥを探さなければ。
・・・いた。
「ランスゥ、この世界をバルディから守ったよ。そして、手下を1人、ロケットに閉じ込めることが出来た」
「わかっておるぞ。良くやったな」
ランスゥはそう言いながら肩を落とした。
どうしたのであろうか。
吉報のはずなのだが、ランスゥの様子が変だ。
ランスゥに聞く前にその答えがわかってしまった。
ランスゥの手を見ると、2つに大きく割れた鏡がある。
俺がダラスのいる世界にいる間に、この世界はバルディに滅ぼされてしまったのであろうか。
「海人、すまなかったな。お前がいない間に、今、ワシの手にある鏡の世界はバルディによって、滅ぼされてしまった。この世界はもう二度と復活することは出来ぬ。悲しいことじゃ」
聞くべきか迷ったが、割れた鏡の世界について聞いてみることにした。
「ランスゥ、バルディはこの次元の間を狙っているんだよね?。その次元の間にある鏡の世界を滅ぼすとは、何を考えているのだろう」
「海人、この割れた鏡の世界は、バルディに不利益とみられたのじゃろう。故に、バルデイは自身の手でこの世界を滅ぼしてしまった」
バルディは鏡から鏡へと自由に移動することが出来る。
このことをランスゥに聞かなければならない。
「ランスゥ、バルディは鏡の移動を自由に出来るけど、これを止めることは出来ないのかな。俺が行った世界では、バルディは簡単に移動することが出来たので逃げられてしまった。これでは、バルディと戦う機会もないよ」
「それはワシも同じじゃ」
ナナカミである。
「ランスゥ、ワシにはおよその予想が出来ているが、それを海人に話してくれぬか」
ランスゥはその長いヒゲを何度も触りながら、迷っているのであろうか、俺に話してくれた。
「海人、薄々、気付いておるのではないか。ワシはそう思うがどうじゃ」
そうだ。
俺は気づいていた。
気がつかないように、自分に言い聞かせて来た。
「ランスゥ、俺が助け出そうとしている女性・・・桜ちゃんだね」
「そうじゃ。苦しかろう。だが、迷うことはないぞ。桜という娘さんは、バルディに次元移動の力を与えておる。しかも、本人は自分の力に気づいておらぬとワシは考えておる」
やはりそうだった。
バルディに次元移動の力を与えていたのは、桜ちゃんだった。
バルディを倒し、桜ちゃんを助けるという考えは間違っていたのであろうか。
先に桜ちゃんを助け出さなければ、バルディを倒すことは出来ないかもしれない。
どうしたらいいのだ?。
ランスゥが俺の迷いを取り除こうとしてくれた。
「海人、迷わず進むことじゃ。今まで行った世界を旅することによって、得たものがあろう。それが自分の力となり、バルディを倒す力になるとワシは考えておる」
「海人、ワシも同じ考えじゃ」
声の持ち主はナナカミである。
今は、元の剣の姿に戻っている。
「そうだね。迷っている余裕は俺にはない。止まることも出来ない。進み続け、バルディを倒し、桜ちゃんを助けなければならない」
「良く言った。これぞ、ワシの見込んだ男じゃ」
ランスゥとナナカミが同時に声をかけてくれた。
「海人、次の世界が決まったぞ。バルディはこの世界に移動しておる」
ランスゥはそう言い、一枚の鏡を俺に見せた。
その鏡の額縁は波のような模様・・・そう、海を思わせるものだった。
「ナナカミ、行こう。バルディを追い詰め、倒さなければならない」
「そうじゃな。ワシがおることを忘れるでないぞ」
「わかっているよ」
ナナカミに言葉を返し、俺は鏡に意識を集中させた。
鏡は波紋を浮かべ、俺を映した。
「ランスゥ、行って来る」
そう言い残し、鏡の中へ入った。