第44話
ダラスはどうやら、スライセンターから出て来たみたいである。
俺の頭に疑問が浮かぶ。
ダラスは俺の疑問を感じたように話し始めた。
「海人さん、スライセンターには緊急用の脱出口が下水道につながっています。私はそこから、スライセンターに侵入しました。しかし、そこは誰もが出入りが出来るものではありません。この国の首相だけに許されています。出入りは、私の目の網膜を認識する装置でドアのロックが解除されます。そして、私はスライセンターに入り、海人さんの戦いを見ていました。見たと言っても、私の目では見えませんでしたがね。この世界を守る、監視衛星を通してでもです」
ダラスはこの国の首相だったんだ。
だから色々とレジスタンスの情報に詳しく、まとめるのが上手かった。
俺は自分の国の首相を思い浮かべた。
俺の国、日本では政治家が私腹を肥やし、選挙のためだけに政治をしていて情けなく思った。
そして、その首相のリーダーシップがなく、政府としての機能を維持し続けられず、国民の支持率も最低なのを思い出す。
しかし、ダラスは違う。
この国、この世界のことを真剣に思い、自らが先頭に立って行動している。
「これで、我われの国、いや、世界は元通り平和と秩序が訪れるでしょう。我われは、海人さんに何かお礼をしなければなりません。海人さん、お望みのものがあれば、どんな要求にもお応え出来ますよ。ご遠慮なくどうぞ」
望みか。
俺の望みは、バルディを倒し、桜ちゃんを助け出すことだ。
この情報が欲しい。
「ダラスさん、バルディの行き先と『桜』という女性を見ませんでしたか?。その女性は俺にとって、かけがえのない大事な人なのです。もし、知っているなら教えて下さい」
ダラスの表情が曇る。
「海人さん、申しわけありません。突然のことでした。バルディの軍団がこの世界に現れたのは。そのため、我われはバルディに関するデータを何一つ知りません。わかっているのは、強大で邪悪な存在だということです」
俺にはダラスの気持ちが何となくわかる気がした。
「ナナカミ、次元の間に戻ろう。この世界は救われた。バルディを追い、次の世界に行かなければならない」
ダラスがこの会話を聞いていた。
「行かれるのですか?。せめてものお礼と思い宴の準備をしようとしていたのですが」
「はい、俺たちには時間がありません。急いでバルディを見付け、倒さないといけません。お気持ちだけ、頂いておきます」
「残念です」
ダラスはそう言い、俺に小さいカプセルのようなものを渡してくれた。
「海人さん、これは我われの世界の技術の結晶となるものです。きっと、海人さんの旅に役立つと思います」
「ありがとうございます」
ダラスに礼を述べ、俺は鏡のある図書館へ向かうことにする。
「海人、使い方を聞かなくて良かったのか?」
ナナカミが声をかけてくれたのだが、当然のことと思われる。
「ナナカミ、ダラスさんがあえて説明をしなかったのだから、必要な時に力を発揮してくれると思うよ」
「そうか。では、行くぞ」
この世界の入口である図書館の前へと戻った。
「ナナカミ、バルディを追って、世界を移動しているけど、バルディには簡単に逃げられてしまう。次元の間でランスゥに相談する必要がありそうだね」
「そうじゃな。ワシもそう思っておった」
「じゃあ、行くよ」
そう言い、鏡に意識を集中させた。
鏡は波紋を浮かべている。
俺は鏡の中へと入った。
次こそ、バルディを倒すことを心に決めて。