第3話
いつも待たせているので、今日は予定より、30分早く待ち合わせ場所へと向かった。
俺は甘かった。
待ち合わせ場所は地下鉄の地下街の噴水の前と決めていたからだ。
桜ちゃんは既に来ている。
しかも、桜ちゃんを囲むように4人の男達がいる。
「お嬢さん、カラオケでも行かない?」
などと、男達の声が耳に入って来た。
桜ちゃんは困惑した様子で、小さな声で言っている。
「待ち合わせをしているんです」
俺は本当に甘かった。
桜ちゃんみたいな女の子が一人でいたら、ナンパされない方がおかしい。
急いで、桜ちゃんの手を握り、男達に言い返した。
「彼女、俺の連れなんだけど、何か用かい?」
男達が不満の声をあげる。
「兄ちゃん、横入りはいかんよ」
今日、何回目かの肩をすくめて男達に言った。
「本当なんだよね。桜ちゃん」
桜ちゃんは「うん」とうなずいて、俺の手を強く握り返してくる。
行こうと桜ちゃんを促して、その場を離れようとした時、一人の男が俺の腕をつかんで来た。
「待ちなよ」
その言葉と同時に俺は男の手を軽くひねった。
男は、円を描くに宙に舞い、背中から地面に落ち、何が起きたのかわからなかったようだ。
空気投げである。
合気道・・・。
俺は3歳の頃から、祖母に合気道を叩き込まれていたので、自然と体が反応したのだ。
勿論、手加減するのを忘れなかった。
余談だが、未だに祖母に手合いで勝ったことがない。
何しろ、祖母ときたら、合気道7段で多くの門下生をかかえている。
俺はそこで、師範代なのだが、祖母の強さときたら、妖怪かと思えるくらいだ。
周りがザワザワし始めている。
面倒に巻き込まれるのはゴメンだ。
目を点にした男達を尻目に俺は桜ちゃんの手を引っ張り、その場を後にした。
「ありがとう」
小さな声が桜ちゃんから聞こえてきた。
返事に困ってしまう。
何しろ、待ち合わせの場所をここにしたのは俺なのである。
「何言ってるんだよ。俺が待ち合わせの場所の選択を間違えたからだよ」
桜ちゃんは、小さな声でうなずき、更に俺の手を強く握ってきた。
「じゃあ、行こうか」
俺は桜ちゃんに合図をし、目当ての映画館へと向かうことにした。