第36話
次元の間に戻って来た。
ことの経緯をランスゥに話さなければ。
???。
ランスゥがいない。
無限に広がる次元の間を捜してみる。
やはり、いない。
「海人、ここじゃ。どうやら無事だったようじゃな」
驚いたことに、ランスゥは俺の頭上から降りて来た。
「ランスゥ、驚かさないでくれよ」
「すまん、すまん。鏡が面倒なところにあったのでな」
そう言うと、1枚の鏡を俺に見せた。
その鏡は、枠は金や銀、宝石などで飾られているが、今までの鏡との違いが一目でわかった。
そう、その鏡には大きなヒビが入っていたからである。
「海人、わかったようじゃな。この世界は滅びの一歩手前にある。バルディの奴が本格的に動き出したようじゃ」
バルディが・・・桜ちゃんを助けなければならない。
「海人、直ちにこの世界に行くのじゃ。迷う暇はないぞ」
ランスゥが俺を焦らせる。
そうだ。
俺はランスゥに言わなければならないことがあった。
「ランスゥ、俺はどうやら魔法が使える。白の魔法使いらしい。バルディが俺の対となる黒の魔法使いというのは初めて知ったよ」
ランスゥは落ち着いている。
「海人、ではその魔法を使ってみよ」
「わかった。今、宙に浮いてみるから」
俺は・・・。
???。
おかしい。
魔力が働かない。
体が軽く、宙に浮くイメージをしてもダメだ。
「海人、どうした?」
俺にもわからない。
つい先ほどには、光のような速さで空を飛べたのに・・・。
今はそのカケラもない。
「ランスゥ、バルディの誕生した世界では俺は空を自由に飛べた。しかし、ここではその力が発揮出来ない。どういうことなんだ?」
「海人、これがワシがお前さんに内緒にしておいたことじゃ。バルディは、その世界の全ての人間が魔法を使える世界で誕生した。お前さんは違う。しかし、焦るではないぞ。その力は、今は眠っているだけじゃと思う。本当に必要になる時には覚醒することになるというのがワシの推測じゃ。しかし、これには根拠がない」
「海人、ワシがおる。魔法に頼らずとも大丈夫じゃ」
ナナカミだ。
そうだ。
俺には、ナナカミがいる。
恐れることはない。
「ランスゥ、俺は行くよ。バルディを倒し、桜ちゃんを助け出さないといけないからね」
「そうじゃ、迷うな、海人。迷いが隙を作る」
ランスゥとナナカミが同時に声をかけてくれた。
「じゃあ、行くよ」
俺は鏡に意識を集中させた。
ヒビの入った鏡は表面に不規則な波紋を見せる。
「行って来る」
そう言って、鏡の中へ入った。
ランスゥの声が遠くから聞こえて来た。
「海人、頼んだぞ。滅びが近い。お前さんが頼りじゃ・・・」