第33話
これがバルディの居城なのであろうか。
俺の降りた中庭には、中心に水を噴出している噴水があり、その周りには緑・・美しい花々がある。
驚くことに蝶まで舞っているではないか。
これは・・・幻覚なのか?。
「海人、どうやらここには誰もいないようじゃ。それと、この城自体が生きているかのような力を感じる」
ナナカミに言われるまでもなく、それは俺にもわかった。
誰の気配を感じることが出来ない。
それと、城が生命を持っているような不思議な感覚。
これがバルディの魔力によるものなのだろうか。
300年の時を経ても衰えぬ力。
それが未だに機能しているのだろうか。
城の奥へと進んでみる。
やはりそうだ。
この城は主がいない間もその姿を変えることはなかった。
通路や壁に飾られた絵画や装飾品には、埃を被った様子が微塵も見られない。
勿論、地面である通路にもだ。
「ナナカミ、バルディはここから何かを持ち出したと聞いたけど、一体何だろう?」
「ワシにはわからん。この城がワシの感覚を狂わせているようじゃ。しかし、わざわざバルディが持ち出したのだから、奴にとっては相当なものじゃろう」
俺と同じく、ナナカミにもわからないようだ。
通路を進み、大きな広間へと出た。
どうやら、ここがバルディの玉座らしい。
部屋の奥に大きめの立派な椅子が見えたからだ。
その時である。
玉座の前に半透明な画像が浮かび上がった。
そして、驚くべきものを見ることになった。
画像は俺の世界にあるテレビのようで、ある人物と・・・!!!。
ついに見つけた。
「どうやら、お前がワシの宿敵となるようじゃな。ランスゥの代理ということで、薄々、感じておったぞ」
声の主はバルディである。
「海人君!」
そして、桜ちゃんだ。
今は淡いブルーのドレスを着ている。
「無駄足じゃったな。そこにはもう何もあるまい。桜姫はワシがもらった。お前がワシに会うことは叶うまい。何故なら、その前にワシの配下の者たちによって、その命を失うことになるからな」
「海人君、私は大丈夫!。私、海人君を信じて待っているから・・・」
「もうよかろう。さらばじゃ」
バルディがそう言うと画像は消えた。
桜ちゃんは無事だった。
やはり、バルディに連れ去られていたんだ。
しかし、「桜姫」とは?。
ここで止まってはダメだ。
ひとまず、サイラさんとディードさんに事情を話した方が良さそうだ。
「ナナカミ、ここではバルディに関することは何もわからないと思う。ひとまず、引き返そう」
「そうじゃな。それが賢明のようじゃ。海人、焦るでないぞ」
ナナカミは逸る俺の心を静めてくれているようだ。
オレは急いで城の中庭に戻った。
体が宙に浮く。
城がだんだん小さくなる。
俺はガイツの国を目指した。
光のような速さで。