第32話
城の屋上へは玉座の左にある扉から、螺旋状の階段を10分くらい上がったところにあった。
眩しい。
まだ陽は落ちていないようである。
「海人さん、ここから飛び立ち下さい。陽が落ちる前までにはバルディの城に着けるでしょう」
サイラが声をかけてくれたが、イマイチ自信がない。
上手く飛べるのだろうか。
「海人、行くぞ。迷う時間はない」
ナナカミに言われるまでもない。
俺は自分に気合を入れた。
それは合気道の手合いの前のように静かで強い心だ。
「では、サイラさん、ディードさん。行って来ます」
俺は友達の家にでも遊びに行くみたいな返事を2人に返した。
仕方が無い。
他に言いようがなかったのだから。
体が宙に浮く。
地図を出して、バルディの城へと飛び立った。
風が心地良い。
空を飛ぶことがこんなに気持ちの良いことだったとは。
進行方向を修正しながら、バルディの城へと進んだ。
1時間くらいであろうか。
俺の世界の人間が俺の飛ぶスピードを知ったら、驚くことだろう。
何しろ、それは俺の世界のどの飛行機よりも速く飛んだからだ。
陽が少し傾きかけていた。
空は黄金色へと変わっている。
あれか?。
島の中央に城らしきものが見えてくる。
城の真上に停止した。
ナナカミが声をかけて来たからである。
「海人、わかるか?。城を覆うように結界みたいな力を感じる」
俺にもわかった。
バルディの城は強い結界によって守られている。
「破れるか?」
ナナカミの問いに問い返した。
「ナナカミ、わからない。一緒に・・・力を貸して欲しい」
「任せておけ。海人、もう少し、自信を持つのじゃ」
そうだ。
ここで止まっては、何も始まらない。
ナナカミに気を送る。
???。
今までと違った力が俺の中から出て来るのを感じる。
いけそうだ。
「ナナカミ、行くぞ!」
その声と同時にナナカミを思いっきり振った。
力が、今までと違う力がナナカミから放出された。
結界は?。
黒い稲光を一瞬見せ、それは消えた。
どうやら成功したらしい。
「海人、やったな。しかし、気を抜くでないぞ。ここからが本番じゃ」
そうだ。
俺は緊張を解かぬようにして、バルディの城へと降り立った。
そこは城の中庭であるみたいであった。