第26話
鏡に入る前に、ナナカミが声をかけてくれたのを忘れてはいけなかった。
「海人、鏡の出入りが一番危険じゃ。この前のようにならぬようにな」
そう、この前はオーベルの罠にはまり、鏡を出たところを不意打ちされた。
今回は集中を解かず、鏡の中へ入った。
しかし、ランスゥの隠していたことが気になる。
鏡を抜けた。
この前のように不意打ちをされることはなかった。
なぜなら、鏡を出た所には誰もいなかったからである。
ここは?。
長椅子が多くあり、ステンドガラスがある。
そうだ。
俺の世界では、教会と言っていいだろう。
他の世界にも信仰があるのだろうか。
ここでじっとしているわけにもいかない。
ナナカミに一声かけて、ここを出ることにした。
扉は両開きである。
開けると眩しい光が入って来た。
どうやら、昼に近い時間らしい。
扉を開け、数段階段を降りると、そこは道路のようであった。
しかし、俺の世界のそれとは事情が違った。
道路に自動車はなく、そのかわりに馬車が道路の主役だったからである。
俺の前には、道を挟んで店らしきものがあるが、実際は店かどうかもわからない。
馬車に混じり、人が歩いているのがわかった。
どうしたらいいものか。
ナナカミが声をかけてくれた。
「海人、人と馬車が多く進む方へワシたちも行こう。たぶん、それがこの国?の中心となるじゃろう」
年の功である。
俺はナナカミの声に従うことにした。
道路を見て、流れの多い方向を探ってみる。
俺の左手の方に流れが多くあるようだ。
「ナナカミ、左手の方向に進んでみるよ」
ナナカミに一声かけて左手の道路へと進んだ。
俺を見る人々が色んな表情を見せる。
警戒する者。
好奇心で目を輝かせる者。
いったい何なんだ!。
その時である。
木材を多く載せた荷馬車のロープが切れた。
危ない!。
木材の落下点には、一人の少女がいた。
20本くらいの木材は、今まさに少女の上に落下しようとしている。
そして、不思議なことが起こった。
落下した木材は、空中で止まり、母親であろう女性が少女を助け出し俺にこう言った。
「ありがとうございます。どうやら、他の国の方ですね。しかも、大きな力をお持ちです」
何のことかわからなかった。
ナナカミに聞いてみる。
「ナナカミ、今、力を使ったかい?」
ナナカミの答えは簡単だった。
「ワシがか?。そんな余裕はなかったぞ。しかも、あの大量の木材を止めるのはワシだけでは無理じゃ」
木材は既に地面に落ちている。
少女を助けた母親らしき人が俺に話しかけて来た。
大きな事故なので周りはザワザワしている。
「このたびは本当にありがとうございました。この国は初めてですか?。それでしたら、お城で職業登録をなさって下さい。お城はこの道を真っ直ぐに行ったところにあります。白い建物なので、ひと目でわかると思いますよ。あなた様なら、きっと、大魔法使い間違いありません」
女性はそう言うと、娘を連れて立ち去った。
ん?。
職業登録?。
俺はこの国で働かなければならないのか。
バルディのことを聞けなかった。
どうやら、城に行って事の真相を聞くしかなさそうだ。
少しの不安と疑問が残ったが、俺は教えられた通り、城へ向かった。