第21話
悔しさでいっぱいだった。
バルディどころか、バルディの手下のオーベルまで逃してしまった。
桜ちゃんを助けることが出来なかった。
次元の間に戻り、ランスゥに事の経緯を話した。
「ランスゥ、バルディを逃してしまった。敵はバルディだけではないのか?」
ランスゥは、その長いヒゲを触り、少し考えているようだ。
答えはこうだ。
「海人、バルディは己の力を取り戻しただけではなく、己の配下のものまで復活させたようじゃ。ワシが知っておる限り、奴の配下は8人じゃ。その中には、人のカタチをなすもの、人のカタチをなさぬものもおる」
敵はバルディ一人だけではなかったのか。
「ランスゥ、俺はどうしたらいいんだ?」
答えはすぐに返って来た。
「バルディが鏡を使い別の世界へ移動すると、ここの鏡が曇るのでな。奴の居場所を探すのは容易い。じゃが、移動した先にバルディがおるとは限らん。今回のように、奴の配下のものがおる可能性があるからじゃ」
ナナカミが声をかけてくれた。
「心配するな。ワシがおれば、バルディやその配下のものなぞ恐れるに足らん」
今はナナカミの言葉が心強かった。
バルディだけではなく、バルディの配下、ランスゥの言葉が正しければ8人。
桜ちゃんを早く助けなければならない。
気持ちが焦る一方だ。
「海人よ、落ち着くのじゃ」
ランスゥとナナカミが同時に声をかけてくれた。
そして、ランスゥが話し始めた。
「海人よ、バルディの移動先は既にわかっておる。じゃが、先に述べた通り、バルディ本人か、奴の配下なのか区別がつかん」
そう言うと、一枚の鏡が宙を飛び、俺の前へと移動してくる。
その鏡は、ランスゥの言う通り、曇り、鏡の枠には様々な動物が描かれている。
驚くべきは、鏡に映っている人達、人と言っていいのだろうか?。
鏡の中で動くそれらは、体は人間のようだが、頭が全て動物・・・ライオンや犬の姿をしていたからだ。
動揺を隠せず、ランスゥに聞いてみる。
「ランスゥ、この鏡にいるのは人間なのか?、それとも、動物なのか?」
穏やかなランスゥの答えが返ってくる。
「海人、この世界の住人は、頭はお前さんの世界の動物じゃが、お前さんと同じ人間じゃ。心配は必要ないぞ。バルディはここに移動しておる。しかも、この世界の住人は、争いというものを知らぬ。平和な世界じゃ」
少しの安心と緊張が俺を支配する。
ランスゥは宣言した。
「海人、ナナカミと一緒に、この世界に移動するのじゃ」
不安が過ぎるが、俺に選ぶ道はない。
鏡に意識を集中させた。
俺の両目には、赤い羽が浮かぶ。
鏡は俺の姿を映し出す。
俺は、ナナカミと一緒に鏡へと入った。