第20話
消えた?。
今まで俺の前にいた、オーベルが姿を消したのだ。
「海人、落ち着け、心を冷静にしてみろ」
ナナカミが声をかけてくる。
そうだ。
俺は剣・・・ナナカミでの戦いに慣れていない。
慣れていないのではない。
初めてなのだ。
ナナカミの言葉通り、心を冷静に集中してみる。
見えた。
オーベルの姿である。
オーベルはあの巨体に似合わず、高速で移動しながら、鞭のようなものを今まさに俺に攻撃しようとしていた。
危なかった。
間一髪で、俺はオーベルの攻撃をかわすことが出来た。
「ほう、若いのにやるではないか。俺の鞭をかわすとはな。小僧、褒めてやろうぞ」
オーベルの余裕のある言葉が聞こえてきた。
どうやら、口は達者のようだ。
ナナカミに声をかける。
「ナナカミ、行くぞ」
「任せておけ、奴ごとき小者、恐れるに足らん」
口では、ナナカミもオーベルに負けていないようだ。
俺は、オーベルめがけて、剣を振るった。
当たった?。
いや、かすっただけだ。
正確には、オーベルのその長髪を剣にかけただけだ。
オーベルから怒声が飛んでくる。
「小僧、俺様自慢の髪に手をかけるとは許さんぞ。次は本当にその命奪ってくれる」
剣と鞭の戦い。
リーチの差で剣の方が不利に思える。
ナナカミから声が飛んできた。
「海人、ぼやぼやするな。考えることはない。お前さんの気をワシに込め、奴めがけて振ってみろ」
俺は、集中しナナカミに気を集めた。
ナナカミが淡く光を放ち始めた。
俺はオーベルめがけて、剣を振った。
危なかった。
オーベルの鞭が目前に迫っていたからだ。
俺の放った気が、オーベルの鞭を断ち切り、そのまま、オーベルを直撃した。
「ううっ」
オーベルから苦痛の声が聞こえた。
「貴様ごとき小僧に俺様の鞭を断たれるとは。小僧、名乗れ、その名前覚えてくれようぞ」
「海人だ、藤木海人だ」
オーベルは傷を負いながらも笑みを浮かべている。
「海人か、覚えてくれようぞ。しかし、バルディ様がお前ごとき小僧の相手をするはずがない。ここで、その命もらっておく」
オーベルがそう宣言すると、オーベルの前に一人の大男が現れた。
そう、空中に突如現れたのだ。
大男といっても、オーベルよりはその背丈は低い。
2mくらいだろうか。
その男が言葉を発した。
「貴様がランスゥの代理だな。オーベル、ここはひとまず退け」
オーベルが不満の声をあげる。
「バルディ様、こんな小僧、私めがここでその命奪ってご覧いたします」
バルディが怒声をあげる。
「愚か者!、こやつは、あのランスゥの代理だ。今回は甘く見たお前の負けだ」
そう言って、バルディが指を鳴らすと二人は姿を消した。
「待て、バルディ!」
俺の声は、バルディに届かなかった。
「海人君・・・」
空耳だろうか。
桜ちゃんの声を聞いたような気がした。
ナナカミが声をかけてくる。
「仕方ないの、ひとまず、次元の間に戻ろう。もうここには何者の気配もない」
バルディを逃してしまった。
桜ちゃんのことを聞けなかった。
悔しいが、ここはナナカミの言う通りにするしかなさそうだ。
俺は、入って来た鏡の前に立ち、意識を集中させた。
鏡が俺の姿を映し始めた。
「桜ちゃん、必ず助け出してみせる」
そう宣言し、鏡の中へと入った。