第1話 <第1部誕生編>
う~ん、よく寝たなぁ。
枕元の時計を見てみる。
「もう、昼かぁ」
大学生の海人には、時間に縛られることがない。
今は、昼からの講義に出席して、夜はアルバイト。
アルバイトは父も社会人になった時のためと、賛成してくれていた。
これが、海人の普通の日課であった。
2階から、リビングに降りて行くと、母が遅い朝食を作ってくれていた。
「おはよう」
母は俺に「よく寝るわね」という感じで声をかけてくる。
「ああ、おはよう」
頭をポリポリかきながら、海人は母にいつも通りの返事をしていた。
そして、今日が土曜日だったことを思い出す。
「あれ?、父さんは?」
母は肩をすくめてこう言った。
「最近は仕事が忙しいみたいで、休日出勤ですって。
本当はショッピングに付き合ってもらう予定だったのだけどね」
俺はまたかと思い、母に言った。
「父さんの会社って、最近ニュースによく出ているよね」
そう、父の会社は、最近開発して取った特許が画期的な発明とのことで、度々テレビで目にしていたのだ。
母はまた肩をすくめるように、早く食べなさいと俺に遅い朝食をすすめた。
そう言えば、空腹で目を覚ませたようなものである。
自分のことを忘れるとは情けない。
母のマネをするように肩をすくめ、遅い朝食を食べ始めた。
そして、母はいつもの伝言を俺に伝える。
「海人、たまには道場に顔を出しなさいよ」
俺の祖母、母にとっては義母のこと。
祖母は道場を持っていて、俺もそこに通っているからだ。
「わかったよ」
俺はその会話を軽く流して、朝食との格闘を再開した。
そのほのぼのとした、遅い朝食の空気を変えたのは一本の電話。
母は急いで電話を取りに行き、嬉しそうに、笑いながら相手と話しているみたいである。
女性の電話は長い。
たぶん、電話相手は女性だろう。
母の話し相手の電話が俺に変わった。
そして、母は嬉しそうに電話を俺に手渡した。
「海人、桜ちゃんだよ」