第18話
ランスゥは俺を落ち着かせるかのように話し始めた。
「よいか、この次元の間は、お前さんが見た通り鏡を媒体として、ワシがその秩序を管理しておる。鏡を通して、あらゆる世界のバランスを保っておるのじゃ。故に、この次元の間を支配することは、全ての世界を支配することに通じる。それを狙っておるのが、バルディじゃ」
バルディ・・・桜ちゃんをさらった奴だ。
ランスゥがどこから取り出したのか、小さなペンダント、ロケットを手にしている。
「海人よ、このロケットを開けてみるといい」
ランスゥに言われ、俺はロケットを受け取り、開けてみた。
これは?。
開くと鏡らしきものはあるが、その姿を映すものはなかった。
そう、時空の鏡に似ている。
「海人、このロケットにバルディを閉じ込めて欲しい。このロケットに閉じ込めることが出来れば、バルディは二度とそこから逃げ出すことは出来まい」
俺に出来るのか?。
しかも、バルディを倒さないと桜ちゃんを救えないらしい。
選ぶ道はないのか?。
ランスゥが俺の迷いを断ち切ろうと優しく話しかけてきた。
「海人よ、バルディを倒すといっても、殺すことにはならぬ。奴は死なぬからな。それに、ナナカミは命を奪うことは出来ぬ。ナナカミで奴を倒せば、ある程度、そう、そのロケットに閉じ込める時間を稼ぐことが出来る。さすれば、お前さんの大切な人も取り戻すことが出来ようぞ」
まだ頭の整理がつかない。
「何を考えておるのじゃ。迷うことはないぞ」
ナナカミの声だ。
剣と会話をしている自分が未だに信じられない。
「ナナカミ、俺は桜ちゃんを取り戻したい。力を貸して欲しい」
剣・・・ナナカミから声が聞こえる。
「始めからそのつもりじゃ。バルディを野放しには出来ぬからな。お前さんの大切な人も待っているじゃろう。これは、ワシを操れる気を持つお前さん、海人にしか出来ぬ」
桜ちゃんを助けなければいけない。
俺に迷う暇はない。
「ナナカミ、力を貸して欲しい」
「おう!」
すぐに、ナナカミから返事がきた。
そこに、ランスゥが割り込んできた。
「二人とも、話しは済んだようじゃな。海人よ、恐れ迷うことはない。ナナカミ、そして、自分の力を信じるのじゃ」
そうだ。
バルディを倒し、桜ちゃんを助けないといけない。
「ランスゥ、ナナカミ。バルディは俺が倒し、桜ちゃんを助け出してみせる」
俺の心が決まった。
言葉が自然と俺の口から出て来た。
ランスゥが「よろしい」と頷くと古びた鏡を指した。
「海人よ、ナナカミと一緒にこの鏡に入るのじゃ。バルディと桜と言う女の子はそこにいるであろう」
ナナカミも声をかけてくれた。
「海人よ、ワシに任せておけ。お前さんとワシが組めば、バルディなど赤子の手をひねるより軽かろう」
ランスゥがここぞとばかりに言葉を発する。
「ではよいな。海人よ、この古びた鏡に意識を集中するのじゃ。要領は同じなので、簡単に出来ようぞ」
俺はその古びた鏡に意識を集中させた。
俺の両目に赤い羽が浮かぶ。
鏡は今や俺の姿を映し、表面に一瞬波紋が出来た。
俺は迷わず鏡の中へと入った。
ナナカミと一緒に。