第15話
光が体を包む感覚に襲われる。
意識は遠く、自分を遠くから見るような感覚であった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「海人、大丈夫か?」
声が聞こえる。
父の声だ。
「父さん・・・」
父が俺の体を揺さぶるように話を続ける。
「海人、何があった?。時空の鏡に入れなかったのか?」
父の言っている意味がわからない。
「父さん、何のことだよ。時空の鏡に入ったよ。そして、ある人物と出会ったんだ」
父に疑問の表情が見てとれる。
「海人、今、時空の鏡に入ったと思ったら、はじき出されるように出てきたぞ」
「???」
一つのことが頭をよぎる。
どうやら、時空の鏡の中の次元の間では、時が止まっているか、その進行がもの凄く遅いらしい。
時間が惜しいので、父に詳しくは説明出来ない。
そうだ、あれがあった。
自分の右手を見てみる。
ランスゥから渡された手鏡だ。
「父さん、詳しく説明している時間はないけど、俺は時空の鏡に入り、ある人物と出会ったんだ。今、それを証明してみせるよ」
俺は右手に持つ手鏡に意識を集中させた。
両目には赤い羽が浮かび上がる。
手鏡が淡い光を放つ。
そして、左手を手鏡の中へと入れた。
誰かが手を握り返してきたのがわかる。
俺は思いっ切り、左手を手鏡から抜き出した。
現れたのは、一人の女性だ。
続いて、もう一度、左手を手鏡に入れた。
同じく、握られた感触を確かめてから、左手を手鏡から抜き出した。
今度は一人の男が現れた。
父が叫ぶように言葉を発した。
「伊東君、それに、高木君」
父に呼ばれた二人は父を見ると声を上げて叫ぶ。
「所長!!」
安心したように父が応える。
「二人とも、無事だったんだな。安心したよ。海人・・・良くやってくれた」
俺にとって、二人はどうでもいい存在だったが、父の喜ぶ顔を見るとホッとした。
「父さん、これから、また俺は時空の鏡に入って、桜ちゃんを連れ戻さなければならない。だから、また時空の鏡に入るよ」
父に少し困惑した表情が浮かぶ。
「海人、時空の鏡に加える電力を溜めるために、今からでは半日はかかってしまう。時間が欲しい」
俺にはその必要はない。
「父さん、俺は時空の鏡の中である人物に出会い、ある力をもらったんだ。だから、その必要はないよ」
1秒でも時間が惜しい。
「父さん、桜ちゃんを連れ戻してくるから」
父にそう告げ、俺は時空の鏡に意識を集中させた。
両目には赤い羽が浮かび上がる。
時空の鏡は、今や俺の姿を映し出している。
俺は何の迷いもなく、時空の鏡へと入った。