第14話
頭がくらくらする。
ここは?。
そうだ、俺は時空の鏡に入ったのだった。
ぼんやりしていた意識が元に戻っていくのがわかる。
「ここは・・・どこだ?」
自分が生きているのがわかり、自然と声になってしまった。
「ここは「次元の間」じゃよ。お若いの」
俺の頭の中に男・・・老人らしきと思える人物の声が聞こえる。
「ここはどこですか?、あなたは?」
自分のおかれた立場がわからず、俺の口からは疑問だけが出てくる。
俺は落ち着こうと、深く深呼吸をしてみる。
「ほう、若いのに落ち着いておるな」
頭の中に声が響く。
「先に来た2人は混乱し、暴れておったのじゃがな」
声の主を探そうと周りを見渡して見る。
そして、ここがとんでもない場所だと気づく。
ここ・・・次元の間には、数万・・・いや、数億、それ以上とも思える「鏡」が存在し、宙に浮いていたからだ。
そして、時空の鏡と違うのは「鏡」が厚みを持っていることだ。
声の主は、驚くべきことに俺の目の前にいた。
鼻と顎に白く長いヒゲを蓄えているので、やはり、老人らしい。
その老人も「鏡」と同じく、宙に浮いていた。
俺の戸惑いを感じたのか、老人から話しかけてきた。
「お若いの、ここは先に述べた通り、「次元の間」じゃ。そして、ワシはここの管理人・・・そう、ランスゥと呼ばれておる」
ランスゥは、俺の考えを読んだかのように、話を続ける。
「お前さん、名は何と言うのじゃ」
名乗って良いのか迷ったが、素直に自分の名前を名乗った。
「海人、藤木海人と言います」
ランスゥは、顎のヒゲを触りながら、話を続けた。
「海人か、良い名じゃ。どれ、ワシの目を見つめてみるがよい」
ここでは勝手が違う。
俺は、言われるままにランスゥの目を見つめた。
「ううっ」
ランスゥの目を見つめると俺の記憶、心が読まれているような気がする。
「ほう、珍しいの。素直な心じゃ。それに強い心を持っておるな」
ランスゥは直ぐに返答してくる。
「海人よ、お前さんの事情はわかった。探し人がおるようじゃな。それに協力しないでもない」
桜ちゃんのことを言っているのだろうか。
ランスゥは続けた。
「お前さんに協力してもらうために、ワシへの協力を手伝って欲しい」
何のことだろう。
「海人よ、ここ「次元の間」に最近、侵入者が現れるようになったのじゃ。お前さんの「世界」の人間も含めてな」
話しは続く。
「その中には、この「次元の間」を支配しようとする輩もいるのじゃ。それを阻止して欲しい」
俺は、とてつもない話に頭が少し混乱してきたのがわかる。
ランスゥの話しは更に続く。
「そこでじゃ。海人、お前さんに力を授けようと思う。この力はここにある「鏡」、様々な世界に通じておるのじゃが、そこに出入り出来る力なのじゃ」
ランスゥは、今までにない険しい顔をしながら、俺に話し続けた。
「もう一度、ワシの目を見るがよい」
ランスゥの両目には、赤い、そう、「鳥の羽」のようなものが浮かぶ。
自分の目が見えたら気づくだろう。
俺にもその「羽」が両目に浮かび上がったことを。
「これで完了じゃ」
ランスゥは、満足そうに言い放った。
「その前に、この2人をお前さんの世界に帰してやってくれ。今のお前さんなら、それが出来るはずじゃ」
そうして、ランスゥは一枚の手鏡を俺に渡した。
手鏡を見ると、男女2人が鏡の中で混乱しているのがわかる。
「海人よ、意識を集中させるのじゃ。そうすれば、道は開かれる。この鏡でお前さんの世界に戻ることが出来る」
ランスゥは、俺が入って来た「時空の鏡」を指差した。
俺は、「時空の鏡」に意識を集中した。
俺の両目には、赤い羽が浮かび上がる。
鏡は俺を映し出し、そして、その中へ入った。
入りぎわにランスゥが、言葉を付け加えたのを忘れてはいけなかった。
「用が済んだら、また、この「次元の間」に戻ってくるのじゃ。忘れるでないぞ」