第11話
日常が・・・
色んな計器類の中心にその「物体は浮かんでいた」。
「今は近づいても安心なので、もっと近づいても大丈夫だ」
父は戸惑っている俺と桜ちゃんを促すように言った。
物体に近づいてみる。
その物体は、縦1m、横60cmくらいの金属のように見えた。
鏡かと思ったが、それは誰の姿を映すこともなく宙に浮いている。
「海人、それは「時空の鏡」だ。私がそう名付けた」
後から父の声が聞こえる。
俺はその物体をもう少し観察しようと、色々な角度から、距離から見ていると父が説明を始めようとしているところだった。
「海人に桜ちゃん。「時空の鏡」を真横から見てごらん」
俺と桜ちゃんは鏡を挟むように、お互いを見つめるかたちで鏡を真横から見ることが出来た。
「???」
いや、違う。
「見えない」のだ。
真横から「時空の鏡」を見ると、それは姿を消した。
父が気付いたように説明を始める。
「その「時空の鏡」は私たちの次元には存在しないものなのだ。故に、真横から見るとその姿を消すことになる」
説明はつづく。
「私たちの世界は、縦、横、高さと三次元の世界として存在している。どうやら、それは違う次元のものだと思う」
父の話しは止まらない。
「これが実験で起こったことの副産物だ。次元が違うがゆえに、私たちはそれに干渉することは出来ない」
桜ちゃんは面白そうに、それの周りをくるくると回り、目を輝かせているが、俺には疑問が残る。
「父さん、こんな大事なものを俺たちに見せていいの?」
答えはすぐに来た。
「実はな、この実験中に人的トラブルが起こり、このフロアを一週間後に閉鎖することに決めたのだ。私はそれを、海人と桜ちゃんに見てもらおうと思ってな」
二度と目にすることは出来ないだろうという言葉を付け加えて。
俺は油断していた。
「時空の鏡」を見た驚きもあってのことだ。
今まで何も映さなかった「時空の鏡」が光を取り戻し、表面に波をうつ。
そして、鏡の中から男であろう「腕」が桜ちゃんを掴んだのを目撃したからだ。
桜ちゃんは「腕」につかまれ鏡の中へ入って行く。
「桜ちゃん!」
俺は桜ちゃんの手をつかもうとしたが、時既に遅し。
「海人・・・く・・ん」
桜ちゃんは俺の名前を呼びながら鏡の中へ吸い込まれた。
そして、「時空の鏡」は輝きを失い、元の姿へと戻っている。
父に叫んだ。
「父さん、どういうことだよ!」
父の顔に驚愕の色が浮かんでいるのが見れる。
「まさか向こうから干渉してくるとは・・・」
それから父に、事の経緯を暫く聞くことになった。
それは、父がこの実験をしている最中に現れた「時空の鏡」に所員が吸い込まれたこと。
そして、同じくこの「時空の鏡」に電力を加えたら、また所員が一人吸い込まれたこと。
それから実験を中止し、「時空の鏡」の調査を始め、今の結論に至ったこと。
「時空の鏡」は電力を、しかも、大電力を加えない限り、ただの物体として存在していること。
「時空の鏡」にはそれ以降・・・半年だが、何の変化もなかったこと。
俺にとって、そんなことはそうでもよかった。
「桜ちゃんはどうなるんだよ!」
父に問いただす。
「わからない」
先の二人も「時空の鏡」に吸い込まれ、戻って来ないことを俺に話した。
そして、俺にすまなそうに、意を決したように、はっきりと告げた。
「海人、すまない。桜ちゃんを助けに行こう」
・・・非日常に変わった。