第10話
日常が・・・
「特殊開発ルーム」とやらは、相当に広い。
父の後をついて、50mくらい進み、突き当たりを右に曲がった先にその部屋はあった。
この部屋だけは、今まで見た部屋と違うことがわかる。
それは、セキュリティとなる、カードシステムのことだ。
父はIDカードをカードリーダーに通すと、近くにある壁のくぼみのようなところに右手を入れた。
どうやら、静脈認証システムのようである。
ドアがスライドして開き終わると、父は俺たちにこう言った。
「海人に桜ちゃん、先に入りなさい。この部屋のドアは私が入ると、自動で閉まるようになっているのでね」
俺と桜ちゃんは少し緊張しながら、部屋の中へと入る。
そして、父が部屋に入り終わるとドアがゆっくりと閉じたのがわかる。
部屋の中は資料が山積にされたデスク、たぶん、父のであろう。
それと、応接用のソファーが向き合って並んでいるのが見てわかる。
父は俺と桜ちゃんに、ソファーに座るよう促し、自分は反対側のソファーに座った。
そして、信じられない話を俺と桜ちゃんに話し始めた。
「海人、桜ちゃん。この話しは絶対に他人に話してはいけないよ」
俺と桜ちゃんは「うん」と頷くと父は話を進めた。
「実は実験中にトラブルがあってね。それで、警察や自衛隊が動いているのだ。その実験は新たなテレビ、そう、『空間テレビ』と言っていい。空中に映像を映す実験をしていたのだ」
話しは更に進む。
「実験の最中に所員の一人が、入力データを間違えてしまってね。通常の10000倍の電力を実験で使ってしまった」
父は俺の方を向いて話す。
「海人、以前、大きな停電があっただろう?。それは実験の影響によるものなのだ」
そう言えば、以前、大きな停電があったのを覚えている。
「じゃあ、あのテレビ放送は?」
俺は最近の父の会社のニュースについて聞いてみた。
父は何のためらいもなく話す。
「ああ、あれは実験を隠すためのダミー放送だよ」
桜ちゃんは、少し驚いたような表情で聞いている。
父がなぜ俺たちに重要な話をするのか、疑問を父に聞いてみた。
「父さん、こんな重要な話を俺たちに話していいの?」
父は目を一回閉じて、ゆっくりと開き、俺と桜ちゃんを見て話を進めた。
「もういいのだ。この実験は中止にして、データを全て破棄することにしたのでな」
そして、意外な言葉が俺と桜ちゃんの耳に入って来た。
「今、このフロアには私たちしかいない。実験装置は全て停止させてある。これから実験を見せてあげよう」
父はこう付け加えることを忘れなかった。
「危険なことは一切ないので、安心しなさい」
俺と桜ちゃんは目で意見を交わし、俺が父に「うん」と頷いた。
「では、ついてきたまえ」
父はそう言うと、ソファーから立ち上がり、入って来たドアへと歩き出す。
俺と桜ちゃんも父の後について行く。
父がドアの前に立つと、ドアはゆっくりとスライドして開いた。
「さあ、行こう」
父は俺と桜ちゃんを呼び、部屋を出て行こうとしていた。
どうやら、出るのは自由のようだ。
部屋を出ると父は反対方向へ、今来た通路を反対に進み、左側へと方向を変え、ある部屋の前へたどり着く。
父の部屋と実験室とやらは、正反対の位置関係にあるらしい。
「では、同じように入るぞ」
父はそう言い、カードリーダーにカードを通し、くぼみに手を入れる。
ドアはゆっくりと、開き出した。
「先に入りなさい」
前と同じセキュリティのようだ。
俺と桜ちゃんは先に部屋に入り、後から父が入るとドアはゆっくりとスライドして閉まった。
その実験室は広い。
大学の体育館くらいの広さがある。
それを囲むように、色々な計器類、コンピューター、実験装置らしきものがある。
そして、部屋の中心に、ある物体らしき物が浮いているのを俺と桜ちゃんは見ることになる。
「海人、桜ちゃん。中心にあるものを見てごらん」
父は話し始めた。
・・・変わる。