第9話
エレベーターは入口近くにあるやつだ。
俺がカードリーダーにカードを通すと、エレベーターのドアがゆっくりと開いていく。
以前にも利用したことがある。
桜ちゃんと一緒に中に入ると以前との違いを見付けた。
上に6階を示すボタンと下に地下5階を示すボタンを見付けたからだ。
以前の時にはなかった地下5階のボタン。
俺がボタンを押そうとするとエレベーターの中に女性の声であろうアナウンスが流れてきた。
「このカードは、当研究所内全ての鍵となります。紛失なさらないよう、お気をつけ下さい」
アナウンスに少し驚いたが、俺は迷わず、地下5階のボタンを押した。
体に重力を感じる。
地下1階、地下2階へとランプが移って行く。
地下4階のランプが点灯した時に何か違うものを感じた。
長いのである。
地下4階から、地下5階へ降りる時間のことだ。
3分くらい経ったであろうか。
やっと、地下5階のランプが点灯し、エレベーターは止まり、ドアがゆっくりと開いた。
俺と桜ちゃんは目で「長かったね」という感じでお互いの表情を確認した。
地下5階は広かった。
明るいのだが、エレベーターを降りた先が見えないくらいだ。
そして、受付で聞いた「特殊開発ルーム」を探そうとしたら、桜ちゃんが案内板の様なものを見付け、話し切り出す。
「海人君、ここの案内板に書いてあるよ」
お手柄である。
俺は気付かなかった。
そして、地下5階の広さに再度驚くことになる。
地下5階には、大小50くらいの部屋があるみたいだ。
この案内板に気付かなければ、迷子になっていたであろう。
そして、父のいる「特殊開発ルーム」は・・・あった。
突き当たりの一番大きな部屋らしい。
桜ちゃんに「行こう」と言って、父のいる部屋を目指した。
途中気付いたことがある。
どの部屋にも、カードリーダーがあり、何と言っても、音が一切聞こえないのだ。
完全な防音ルームなのかと思った。
それほど、重要なのであろう。
5分くらい歩いたくらいで、桜ちゃんが先に見付けた。
「海人君、あったよ。お父さんの「特殊開発ルーム」。本当に広いんだね。良く歩いたなぁ」
そう言って、少し笑っている。
今回は随分と時間がかかったものだ。
俺はドアの横のカードリーダーにカードを通す。
ドアは電動式みたいだ。
横にゆっくりと、スライドしながら開いた。
ドアが開き終わると喜声が飛んで来た。
「桜ちゃん、待っていたよ。海人はオマケな」
父である。
桜ちゃんの手を取り、はしゃしでいやがる。
俺は父の手を払いのけ、バッグを渡した。
「父さん、着替えと弁当が入っているからね」
父はニヤリと笑い。
「おう、確かに受け取ったぞ」
胸を反らし、笑いながら返答している。
所長であり、会社のトップの人間がこんなのでいいのかと何回思ったのやら。
俺はバッグを渡した安堵感と、父の元気な姿を見て、ほっとしている自分がいた。
そして、胸の中にしまっておいたことを父に聞いてみることにした。
「父さん、会社の周りに警察や自衛隊の車があるみたいだけど、何かあったの?」
父は笑顔の中に、一瞬陰を見せたが、少し迷っているようだ。
そして、俺と桜ちゃんにこう説明を始める。
「海人、それに桜ちゃん。これは内緒の話しなのだが、2人なら安心かな」
絶対に他人に話すなという言葉を付け加えて。
いつの間にか、父の顔は真剣な顔になっている。
「その前に、ここではまずいな。2人ともついてきなさい」
よく見ると、部屋の中にもいくつかの部屋があるみたいで、いくつかのドアがあるのが見える。
父はそう言うと、部屋の奥へと進み出した。