第二話 異世界への招待
その夜、千紗はいつものように自室で参考書を広げ、黙々と勉強をしていた。全国模試1位の座を維持するには、常に先を見据えた計画的な努力が必要だと彼女は知っている。それが習慣であり、彼女の生き方そのものだった。
時計が午前2時を指した瞬間だった。
突如、部屋中に強烈な光が放たれた。
「な、何これ!?」
千紗は驚きのあまり椅子から転げ落ちた。目を覆いながらも光の中心を凝視すると、そこには見たこともない紋様が浮かび上がっていた。まるで空間そのものが裂けたような異様な光景だ。
「夢……? いや、そんなわけ……」
言葉を呑み込む間もなく、千紗の体が引き寄せられるように足元から崩れる感覚が広がった。
目を開けると、そこは見知らぬ大広間だった。
「……ここ、どこ?」
煌びやかなシャンデリアが天井から吊り下がり、豪奢な赤い絨毯が床に敷かれている。目の前には鎧をまとった兵士たちが並び、その中心に立つ壮年の男がこちらをじっと見つめていた。
「ようこそ、異世界レイナール帝国へ。我が女王様」
「……は?」
壮年の男の威厳ある声に、千紗は思わずポカンとした顔をしてしまった。
「女王……?」
混乱の中、男が深々と頭を下げる。周囲の兵士たちも一斉に跪き、大広間は一種の荘厳さに包まれた。
「神託により、あなたが次代の女王と定められました」
「いやいや、待って。私、ただの高校生なんだけど!?」
千紗の声は大広間に虚しく響く。しかし、目の前の男は微動だにせず、彼女の言葉を受け止める様子もない。そのとき、後方から銀髪の女性が進み出てきた。
「あなたが女王だなんて……冗談にも程があるわ」
その冷たい声に千紗は背筋を伸ばした。彼女の名はエリザ。帝国の宰相であり、強大な魔力を持つ女魔導士だと周囲がささやいているのが聞こえた。