とあるダンジョンの非日常録 Ⅱ
お久しぶりです。一月以上更新が途絶えてしまい申し訳ございません。
次はもう少し早く更新できるよう頑張ります。
まさかの中編です こんなはずじゃなかったのに……
時間は数時間前にさかのぼる
キョウが一人出て行った後しばらくしてヒマリはミルとレオン、フウランと話しながら食べていたが
「……」
肉を手に持ったままややうつろな目をして止まっているヒマリに
「……ヒマリさん?」
とミルが心配そうに声をかけると、ばね仕掛けのように元の様子で動き出したがしばらくするとまたその手の動きは遅くなる。
「ヒマリさーん」
と呼びながら目の前で手を振ると落ちかけていた顔が僅かに上がる。
「もしかしたら……」
突然言葉を発したレオンに三人の目線は向く。
「疲れてるんじゃないかな?さっきまでずっと寝たきりだったし」
レオンの立てた仮説に「あー…」と納得する二人。そんな二人を傍目にレオンは続ける。
「僕がしたのは解毒だけだからね。そういう疲れの回復はできてない」
はっきりとヒマリの目を見ながら言うと、幸いにもレオンの言ってる言葉の意味を頭で理解できるほどの余力はあったようでおもむろに立ち上がると
「……おやすみなさい」
と言ってこの場から立ち去った。去り際に「一人で大丈夫?」とミルが声をかけたが、返事もせずにヒマリは去っていった。
何の返事もされなかったミルはどうするべきか分からず、結局、『まあ、大丈夫だろう』と結論付けることにした。
(キョウが見回りしてくれてるし)
と心配を払拭し、今は楽しもうと盛られた肉にかぶりついた。
キョウはおびえる少女を前に戸惑っていた。
(あれ?妾、侵入者扱いされてる?)
キョウは最も厄介な未来を瞬時に察知し、それを防ぐべく有無も言わさないように話す。
「妾はキョウ。オークたちの監視役として生まれました」
とりあえず敵意がないことを伝えるが、少女は依然としておびえていた。
(……?もしかして、妾の見た目って怖い?)
一瞬そう思ったが、すぐにそれはないかと一人納得する。リイア様のかわいいリストに入っている限り怖いとか崇高されるような身でないことは大方想像つく。これでも一応立派な九尾なのだが……
さて、そうなると他の理由は妾には見当がつかん。
「何かあったのですか?一人で悩まずに話してもらえませんか?」
目の前にいる狐のモンスターは黙ったまま動かない。おそらく私の言葉を待ってくれている。
うれしい
だけど
怖い
……自分の弱さを語るのが
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また、別の場所では。
ライヤは一人鎚を振るい爛々と光る鉄をうっていた。鉄をたたく音がこの静かなダンジョンに響き、消えていく。一定のリズムで聞こえていたその音は突然途切れる。
「何の用だ。姉さん」
長年共に暮らしてきた彼からすればその足音の主が自分の姉であると振り返らなくても分かるようであった。
「凄い数ね……」
キリンは彼の工房(仮)に山積みになっている武器や防具を見て呟く。ライヤは姉の言葉を手を止めて待つ。
「……あっ、別段用件はないから仕事をしていて」
キリンは特に気にしないように言うが、ライヤはそんな姉の言動に少々顔をしかめる。
(気にするなって言われてもよ)
いつもならクラモがいるから姉がいる中でも仕事をできたがさすがに二人きりの状況だと少し気が引けるのである。彼のよく分からないこだわりである。
「本当に用件はないのか?」
「そうね……強いて言うなら弟が元気かどうかの確認かな?」
そう言って少しはにかむキリン。対してライヤはため息。
「……俺はいつも通りだ。そういう姉さんはどうなんだよ」
「元気な弟を見たから元気になった」
普段の姉(仕事の時の姉)なら絶対しないであろう返事に辟易しつつ、僅かに姉の方を見る。
「……今日くらい休めよ。……体壊すぞ」
弟が体の心配をしてくれたことがうれしかったのか僅かに口角を上げる。
「……あなたも大概でしょ?ライヤ」
「俺のことは気にしなくていいから自分の体調を気にしろ。……言っていいのか分からんがリイアもかなり心配していたぞ」
「リイアさんが?」
「……ああ。あいつと同じ雰囲気だって」
ライヤの返答にキリンは腕を組み少し考えた後、「それは申し訳ないことをした」と呟く。その呟きを聞いた後、彼はおもむろに立ち上がりながら尋ねる。
「最近忙しいのか?」
「そうね。このダンジョンのこともそうだけど。南の方で戦争が起こるはモンスターが軍勢を作っているのが目撃されるし、神出鬼没の悪魔の少女が現れたり正直手が足りてない。おまけにギルドがうるさいし……」
キリンは知らない。四分の二がこのダンジョンが原因であることに。
「この休みもようやく取れたのよ。次取れるのは何か月後になるのやら……」
「……なあ、姉さん」
仕事の愚痴を言う姉を前にライヤはなぜかかしこまっていた。そして、その口を僅かにもごもごとさせた後、意を決したのかゆっくり言葉を出す。
ここで暮らさないか……?
彼の言葉に彼女は少し目を瞑った後、ゆっくりとそしてはっきりと答える。
「ありがとう。でも、遠慮する」
彼の決意に敬意を払うべく彼女もまた彼の目を見ながらそう言った。
「どうして……」
「私はクシャの防衛隊長よ。私はあの街を守らないといけない」
「なんで!なんで姉さんはあの街を守ろうとするんだ!あの街は……」
声を荒げて何か言おうとするライヤを、彼女はゆっくりと近づいで人差し指を立てて制す。
「やっぱり優しいままだ」
静かになった彼の頭を優しくなでながら彼女は笑った。
「でも、もう大丈夫だから」
それだけ言うとキリンはこの場を去って行った。
ライヤはただ茫然とその背中、頼りなく小さくなっていく背中を見届けていた。やがて、彼は彼女の姿が消えた後
「クソ野郎が!」
顔をゆがめ、怒りのままに鉄を打ち続ける。すでに鉄は冷めきっており、ガンガンと鳴り響くだけであった。
やがて、鉄は目的の形になる前に砕けてしまった。ライヤはドカッと切り出した石製の椅子に座り、星のない天を仰ぎながら
「姉さん……」
と人知れず泣き続けていた。
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ヒマリは何度も覚悟を決め「あの……」と呟いたのちに踏みとどまってしまう。そんな状態が30分以上続いた。
「……ごめんなさい」
「……いいですよ、気にしないでください」
もう、何度目か分からない謝罪をした後、謝るだけで、一向に話そうとしない自分がますます嫌になってしまった。
「ヒマリさん」
キョウさんからの呼びかけに過剰に反応してしまう。
「すみません……また、驚かせてしまいました……」
「そんな……キョウさんは何も悪くないですよ」
首を横に激しく振る私に「まあまあ……」と言った後
「何も全部素直に言わなくてもいいんですよ。一部分、言いたいことを言いたいように言ってください」
キョウさんは優しくそう言った後、また私の言葉を待つべく尻尾の毛づくろいをしようとしたが、途中で何かを思い出したようで
「どうか妾に罪滅ぼしをさせてほしい」
と懇願した。意味が分からなかったので詳しく聞けないか尋ねると彼女は二つ返事で話してくれた。
「――妾の心の弱さです。きっと、この嫉妬の能力も妾の心を現しているのでしょう」
キョウさんは何もかもを打ち明けた後に「どうか妾を怖がらないでほしい」と言った。
「……そんなのを簡単に打ち明けていいのですか」
怖くはないのか……と私は尋ねる。するとキョウさんは微笑みながら答える。
「リイア様が大切にされているお方ですから。現に、あなたは私の話を聞いても笑わない」
その指摘に私はドキリとした。そして、胸が苦しくなった。
情けない。私は心の底から信用していなかったのだ。
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