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迷宮の王

ついに大改造編最終話です。

前回のあとがきに次回最終話と書いたばかりに何が何でもこの話で終わらせようとした結果、二話分相当の文字数となりました(計画性0)ボリューム満点!!

作者は章の最終話は長くなる傾向があるようです。

「ヒマリ……」

私とヒマリはしばらく見つめあった後

「まだそんなことを言うのか」

私は優しくヒマリのでこを小突く。お母さんが子供のだってだってを止めるときのように。

 ヒマリは頭の上に『?』を浮かべるような表情で私を見る。

……なぜ理解ができないのだ!


 リイアさんに小突かれた。変なことでも言ったのかなぁ?

「ヒマリがそれを望むのなら……な」

そう言ってほほ笑む。いつかの私を連れだしてくれた時と同じように。そんなに昔の出来事じゃないのに、そのことがはるか遠い記憶のように思えた。

……それもそうか。私はこの一瞬で今までの人生の何倍もの数の経験をしたのだから。無機質な出会いも喜びも何もないあの地下空間とは話が違う。

「もちろん大歓迎だぜ」

フェニが私のそばに飛んできてそう言ってくれた。

「ええ、私も」

フェニに続いてテンも嬉しそうにそう言ってくれた。

「もちろん私も」

リンが私の後ろから抱きしめながら答える。

嬉しいのですが……

……くっ…くるちいです。

「初めましてヒマリちゃん!僕はフウラン。よろしくね!」

天狗のような男の子が私を興味深そうな目で見る。

「妾はキョウ。よろしく!」

「俺はランド」

「私はスーカ」

「僕はボルカ」

「俺はツチグモ」

「グローリア。よろしくね」

見たことのないモンスターたちが私に挨拶をした後

「まあまあ、ヒマリがヒマリでいてくれてたんだからそれでいいじゃないか」

カムイが私の頭を優しくなでながらそう言ってくれた。


……嬉しい。


こんなにも私の復活を喜んでくれる。


リイアとリンに挟まれてちょっと苦しいけど。幸せ。


(苦しいのに幸せって)


変なの!


「これからもよろしくな、ヒマリ」

「はい!」


~~~


 ヒマリが私に満面の笑みを向ける。ダメだ全てを許してしまう。

(いや、待てよ……)

これ、チャンスじゃね?

「まあ、カムイもそう言ってるし。許すことにしよう。ただし、少しお仕置きをしないとな……」

私はそう言ってニヤッと笑って見せると、ヒマリは僅かにおびえる。

「ヒマリのほっ……」

「 リ イ ア 」

クロマが私の声にかぶせる。なんだよ。せっかくいい感じに言ってたのに。……って

「クロマ?」

寝ていたのでは? と思いつつも後ろを向くと……

クロマがガチギレしていた。顔は笑ってるけど、青筋が浮いてる。というか鬼の形相のまま笑ってる。

「ヒマリに何してたの?何をしょうとしてたの?」

「普通に再開を喜んで……」

「ほっぺ」

「ヒィ!」

「ヒマリのほっぺを触ろうとしてたでしょ」

なぜ分かった⁉

「え……いや……その」

どうにかしてはぐらかそうと必死になって頭を回す。考えろ! 私は軍師だろうが!

 そんな感じで微妙に態度に出ている私にクロマは勝ち誇ったような、ごみを見るような目をしながらとどめを刺す。

「やろうとしてだしょ?私が寝てるときみたいに」

「……なぜ、それを……」

馬鹿な! 完璧に寝ていたはずだ! 何度も確認したぞ!

「なぜか意識はあったままだったのよ。……そしてその感じだと黒ってことでいいのよね?」

「ま……待て……」

私は周りに助けを求めようとしたが、みんなドン引きしてる。

「ちょっと外に出ようか」

そう言って私の服の襟をつかんで、私とヒマリを引きはがし、ものすごい力で引っ張っていく。


 私は微妙な空気にしてしまったことを少々申し訳なく思っていたので早いことリイアを連れて外に出ようと思っていたが

(……やっぱり今言っとく方がいいか)

そう思ったのでリイアをいったんその場に放置してヒマリのもとに近づく。私はきょとん顔のヒマリにそっと耳打ちする。

「……また、何かされそうになったら私に言ってね」

「……はあ」

何とも気の抜けた返事をヒマリは返す。我ここにあらず……か。

 私はやっぱりヒマリのことが憎いけどこれに関しては協力しなければならないという謎の使命感が進化してる最中にわいたのである。これに関しては被害者同士手を取り合うべきと。

それはそうと……

「動くな!」

「ヒィ!!」

後ろでこそこそ何かしようとしてるの、ばれてるからね。

 本当はもう少し何か話したいけどそういうわけにもいかなさそう。

……いや、そもそもそんなの私に似合ってないか。

「ちゃんと約束を守ってくれた」

私はそれだけ言ってヒマリのもとから離れ、ほふく前進しているリイアの襟を後ろからつかむ。

「逃がさんぞ~」

「助けて!」

リイアは必死に助けを求めているが誰も手を差し伸べない。……フェニに関しては言葉で言い表せないような表情をしていた。憐れみと失望と恐怖を掛け合わせたようなそんな表情である。

 私がリイアを連れて広間を出る直前に後ろから声が聞こえた。

「ありがとう。クロマおねえちゃん!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 クロマさんとリイアさんが出て行った後の広間は何とも言えない空気になっていた。熱が急に冷めた、そんな雰囲気。

 なんだか私がどうにかしないといけない。そんな謎めいた使命感にかられたのでどうしようかと考えているとあることに気づいた。

「あの……私の毒って……」

どうなったのか聞くとリンが「あの人が治してくれた」と指さす。その人と私は目線が合う。メガネをかけていてどこか高貴な雰囲気を醸し出している少年は優しそうな眼をしていた。

「大丈夫そう?」

「はい!」

私の返事に「よかった」と言って立ち上がり、ここから出ようとする。

「待ってください!」

少年は足を止めて振り返る、……その

「……ありがとうございます」

少し照れてしまい声が小さくなってしまったが、少年の耳には届いたようで

「いいんですよ。そのために僕はいるのですから」

そう言って再び歩き始め、広間を出ようとする。

 そういえば、もう一人きちんとお礼しないといけない人がいるんだった。

「カムイおにいちゃん」

「……なんだ?」

「ありがとう!」

あの時のお礼をまだ言えてなかった。もう時効になってしまっているかもしれないけどきちんと伝える。カムイは照れ臭そうに笑う。


 こうして広間はほっこりムードで終わると思われたが……

「ミカエル……?」

遅れてやってきたミルはレオンを見て固まった。

「天……魔?」

レオンもミルを見て足を止め停止する。

「なぜ……ここにいるんだ」

レオンは声をかすかに震わせながらミルに尋ねる。

「ミカエル。ミカエルだよね!」

「ああ、そうだ。俺はミカエル・レオンだ」

レオンがそう答えるとミルは無気力に垂れていたレオンの手を強く握る。

「……よかった」

ミルはただただそう何度も呟いた。レオンはしばらくそうするミルを見続けた後

「なぜ、ここにいる」

と改めて質問した。


 ミルはすべてを話した。レオンが去ってからの生活。クロマとの出会い。そしてダンジョンでの生活。

 そのすべてを話し終わった後、もう一度ミカエルの顔を見ると、その目からは涙がこぼれていた。そしてしばらくの沈黙の後、小さく「ごめん」と謝った。

「もっときつく言っておく……いや、何なら君を連れていくべきだった」

ミカエルは苦しそうにそう呟いた。自分のしたことを後悔しているのだろう。

「ミカエルは何も悪くない」

口先からのものではない、心からそう思ってる。

「怒ってないのか」

「怒ってないし。呪ってない」

「なんで呪わなかったんだ。君は僕のことにかまう余裕なんてなかっただろ」

ミカエルは少し怒ったような口調でそう言った。それは彼が優しいからである。子供の時と変わらない。

「私とミカエルは一心同体、『親友』でしょ?」

ミカエルがいてくれたから私は私であり続けられたのである。ミカエルがいなければとっくの昔に崩壊してただろう。そして人かモンスターに殺されていただろう。

「それと私はミル。親友なんだから名前で呼んでよね」

「そうか。なら……ミル、ミルはこれからどうしたい」

ミカエルは私の目を見ながらはっきりとそういった。そうだなぁ……私は


……したい!



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 クロマに引きずられ強制的に洞窟の外に出された私は

「なんでそんなことしたの」

と相変わらず笑顔を張り付けてるクロマに尋問され続けた。

「……ごめん」

ただ俯きながらそう答えることしかできなかった。

「……だからぁ」

クロマはため息をついた後、「なんでだまっていたの?」と聞く。

「だって言ったら絶対怒るじゃん」

「当たり前でしょ」

クロマの顔の青筋の数が増えた気がした。やばい、これ以上怒らすと本当にやばい。

 でも、今の彼女を前に嘘がつけるとは私は思えない、多分バレる。

 そんなことを考えるていると突然クロマが私に近づく。そして


両手で私のおっぺをつねる。

「……???」

「不本意だけど、やり返さないと気が済まない。こんな趣味ないけど」

そう言いながら私のほっぺをつねる続ける。痛い。

「あのさ、リイア」

つねり続けながらクロマは急にかしこまった表情をする。

 そして一息ついた後、

「無理してない?」

……特に無理はしてないが?

「リイアらしくない」

「何言ってるんだ?いつもああじゃないか」

自分が可愛いもの好きという自覚はある。そう答えるとクロマは違う違うと首を振る。

「多分、いつものリイアならあんなことしない。きちんと自制する」

そう……なのか?

若干疑問に思ったが、口出しすべきではないと思い、黙って頷くことにする。

「……今回は初犯だから許す。だけど、これからは私に正直に話してよね。今回のこともそうだけど、他のことでも。私だって頼ってくれていいのだから。リイアは何かを気にして避けてるようだけど。私達は家族なんだから」

そう言って私の顔から手を放す。「……これでおしまい」となぜか少し不服そうに言う。自分で終わらせたのに。

「家族か……」

そういえばだいぶ前にクロマとそんなことを言った気がするな。多分私から言い出した気がするけどすっかり忘れてた。

 クロマの顔を見るといつもの冷たい表情に戻っていたが怒りは収まったようである。

 私が改めて謝ると「……もういい」とクロマはこちらを見ずに言った。多分許してくれた。


 そんなこんなで仲直りがし終わると同時に洞窟の中からキリンとガスロが出てきた。

「あっ、もしかしてお取込み中でしたか?」

そう言って申し訳なさそうに穴の中に引っ込もうとする二人をクロマは「終わった」と言って制す。

「どうかしましたか?」と私が尋ねるとキリンは遠慮がちに答える。

「いや、その……外部の人間がいるべきじゃないと思って、また、後日でいいかなと」

「気にしないでください!キリンさんも忙しいはずです」

前にライヤに聞いたことがある。キリンは月に一度程度しか休みが取れないと。私よりブラックであることを。今日もおそらく無理をしてここに来てくれている。

 多分自覚はしてないだろうけど、前と比べて明らかに疲れた表情をしている。悟られないようにうまく隠しているのだろうけど、私にはわかる。


……似たようなことをしていて倒れたやつがちょうどいるからな。


「……私は?」

とガスロさんがやや不満げに尋ねる。

「失礼も承知で聞きますけど、ガスロさんって忙しんですか?」

「いや、最近ガスロの目撃情報が不審者として街のあちこちから寄せられてきてる。それでそこから推測するに多分暇」

キリンがバッサリと切り捨てる。当の本人は馬鹿にされたことよりも「えっ、そんなことが起きてるんですか」となぜかショックを受けていた。

 やや話がそれたので軌道修正をしようとしたとき

「……お取込み中でしたか?」

と今度はミルとレオンが出てくる。……展開が早すぎる。

 そんな風に遠慮がちなレオンに対して、なぜか上機嫌なミルは気にせずに話す。

「ミカエルがここで暮らしたいって」

「「はい?」」(リイア、キリン)


 ミルから話を聞いてようやく話の全貌を理解した。

「そんな偶然あるのかよ……」

私が感想を一人呟いていると

「レオンさん。本気なんですか?」

とキリンが真剣な表情で尋ねる。

「僕はミルの願いを叶えるべく動く。そう決めた」

レオンは並々ならぬ覚悟を持っているようである。

「ですが、人間がダンジョンに住むのって……」

とやや言葉に詰まったキリンが私を見る。私に判断を仰がれても困るので

「コアラ、どうなんだ?」

ダンジョンの専門家……いや、ダンジョンに聞いてみる。

『普通にできる。僕が設定をいじれば』

「……できるそうです。しかも結構簡単に」

「なら、いいよね!」

ミルがおねだりするように目をキラキラさせて私を見る。

「私は別に構わんが……」

今度は私がレオンに目配せすると

「ありがとうございます!」

私の配慮ガン無視で彼は即答した。


 まさか……

「貴族が手を貸すとはね……」

私は一人思わずため息交じりに呟いてしまった。そのままミルのはしゃぐ声にかき消されればよかったのだが、あいにくレオンの耳に届いたようである。

「あー実は僕はもう貴族じゃないんです。ただの魔導士です」

「それでも同じ」

レオンのうわさは私のもとにも届いてる。

若くして魔導士まで上り詰めた天才。

人間、モンスター関係なしに考える変人。

風のうわさだと彼の独特な考え方に感化されて小さな宗教ができたとも聞いたことがある。

そして、クシャ最強の魔法使い。

 そんな人がダンジョンにつく。もはや私らだけじゃどうすることもできないな。でもまあ、おかげで長々と議論をする必要もなくなったか。

「リイアさん」

「なんでしょうか」

「前の要求。受け入れましょう」

私は確信した。このダンジョンは今後もっと巨大になると。

今はまだ冒険者ギルドの方が強いかもしれないがもはや時間の問題だろう。

それぐらい成長率が異常だ。リイアたちの気が変わる前に早いとこ手を打つべきだろう。


 その様子を見ていたガスロはぽつりと呟いた。

「凄いですね。本当に()()()()の世界にいるようだ」

「……おとぎ話?」

とリイアが尋ねる。レオンはガスロの意味を理解したようで

「『迷宮の王』か」

とガスロの代わりに答えた。それでも理解できない私をみて

「そういうのはダンジョンのモンスターは知らないのですか。まあ、簡単に説明しましょう」



はるか昔に小さな国と同じく小さなダンジョンがありました。


二つとも大きな力によって滅ぼされるのを怖がっていました。


同じ危機感を持った二つの集団がひょんなことから手を結びました。


それから二つの集団はお互いに支えあって大きくなっていき、ついに小さな国はこの大陸の王となったのです。


そして、同じく巨大になったダンジョンのラスボスに対し王はある称号を与えました。


「……それが『迷宮の王』ってわけか」

私が先に言うと「それは私のセリフ!」とガスロに怒られた。

「……でも、まさか商人からそんなおとぎ話をされるとは思いませんでしたよ」

「そういう夢のある話を信じないのはつまらないですよ。たとえどんなに現実主義な商人であっても」

ガスロの答えに「それもそうか」と納得するレオン。

 さて、私はと言うと

(そこまで大きな野望はないんだけどね)

と一人考えこむ。別に世界を統一したいなんて野望は私ない。

だけど……

「……いいじゃん。面白そう」

と賛同するクロマ。

「リイアさんにぴったりな称号じゃないですか!」

と目を輝かせるミル。

「……ガスロ、お前の開いた口は本当にふさがらないな」

とあきれ返るキリン。

「私も今になって言わなきゃよかったと思ってます」

となぜか黒い衣装の上から汗を滑らせているガスロ。

「僕も協力はしますよ」

と優しく微笑むレオン。

なぜかこの人、モンスターとならそんなこともできる気がした。

『最強のダンジョン。フフフ……いいね!そうこなくちゃ!』

コアラも面白がっている。


『そういう夢のある話を信じないのはつまらないですよ』


ガスロさんが言っていた言葉だ。

「ガスロさん」

「なんでしょう」

「そういう話を信じ続けるだけでもつまらないですよ。叶えないと」

私の言葉にガスロは「ほう」と言った後、

「それはつまり……」

ガスロは興味深く私を見る。ガスロだけではない他のみんなもそうである。




「私は『迷宮の王』になる」

面白ければブックマークや感想などなどよければよろしくお願いします!

作者の血となり肉となります(多分)


次回は閑話?

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