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おかえり

俺たちの戦い(戦後の後処理)はこれからだ!

「奇跡は起こるんですね」

キョウは歩きながらそうつぶやいた。その足取りはとても軽い。

「ところで、皆さん無事なのでしょうか?」

私はキョウから、私が出て行ってる間に竜人たちが攻めてきていたと知った。私がいない間に。

「……多少の被害は出ましたが、無事ですよ」

そういった後に「リンさんはなにも気にしなくてもいいですよ」と先に言われた。


 私がレオンを連れて帰ってきたのは戦いが終わった二日後らしい。すでに被害と戦功の把握はあらかた終わり、元の生活に戻りかけているそうだ。ちなみにカムイとリイアは今日も今日とて残業しているそうである。

「大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃないですね」

キョウは即答した。


~~~


「カムイさーん。七階層の亀裂の修復のめど……」

スーカはカムイの隣に着地する。

……地面にうつぶせになって倒れているカムイの隣に。

「大丈夫ですか?カムイさん」

スーカの質問にカムイは右手の肘から先をを力なくまげて親指を立てた。

「なるほど!大丈夫じゃないですね!」

彼女は無抵抗なカムイを(くわ)えるとそのまま九階層に向けて飛んでいった。


~~~


「まあ、戦後の処理はほとんど終わっているので、緊急性の高い仕事は無くなったはずなのですが……」

私とレオンはキョウに連れられて七階層の客間に入ると……

「お邪魔してます」

「どうも」

先客がいた。


「リン、お帰り。そしてそのお連れ様は?」

リイア様は私に微笑みかけてくれた。

……でもその目は死んでる。一切笑ってない。

なんだろう……ゴスロリみたいに見える。

いかんいかん。そんなこと思っていない。

「リイア様、大丈夫ですか?」

私の問いかけにリイアは反応しない。代わりにフェニが

「リイアなら何も感じなくなったらしいから無敵だぜ」

と笑顔で答えた。その答えに力なく笑うリイア。それを見て苦笑するお客様方。

「リイア様、さすがにお客様の前なんですからしっかりしてください。そ れ よ り、私が帰ってきたんですよ。お客様を連れて。その意味が分かりませんか?」


 リイアはしばらくの間、死んだ魚のような目をし続けていたが、突然顔を上げて、生気を宿らすように目を大きく開いてリンを見る。リンはレオンに目配せをする。

「初めまして。僕はジーク・レオン。魔導士として今日は来ました」

レオンの自己紹介に対し、最初に反応したのはリイアたちではなく、

「やはりそうですよね」

先客の一人のキリンであった。

「……あなたは確か」

「クシャの防衛隊隊長のキリンです」

「……そして、その隣におられるのはもしや……」

自分のことを話されていることに気づいたのだろう、ガスロはレオンたちの方を向き自己紹介をする。

「私は旅商人のガスロです」

「やはりそうですか。噂には聞いていましたがまさかこのような場でお会いするとは思いもしませんでした」

どうやらガスロのうわさは見事に貴族にまで広がっていたようである。

「どうしてここに……」

キリンが質問しようとするのをレオンは遮ってリイアに問いかけた。

「それより治療が必要なのは誰ですか」

「……ここにはいない」

リイアはそう言いながら立ち上がると、レオンに軽く会釈をする。

「ついてきてください」

リイアに連れられ、レオンとリンはもちろん、キリンとガスロもそれについていった。


 九階層の洞窟の前にはランドが座っていた。

「異常なしか?」

「問題ございません。が……」

そう言って目線が私からレオンの方に向く

「その人はヒマリを治療できるかもしれないらしい。大丈夫、敵意はない」

その言葉に安心したのか、ランドは特に何も言わずに受け入れた。

 そしてついに泉がある広間に出たのだが……

「……スーカ?」

なぜかスーカがいた。スーカは私達に気づくと、少し飛んで離れる。

そしてスーカがいた場所にはなぜかうつぶせになって倒れているカムイ。

「……カムイ、その様子は大丈夫じゃないな」

カムイは特に反論しない。これはかなりの重傷だな。

「私が報告に行ったら倒れていたのでとりあえずここに連れてきました」

「助かる」

カムイや。あんたスーカが気づかんかったらどうするつもりだったんですか。

……まあ、そのことは後にしよう。私はレオンを連れてヒマリの前に行く。

「この子。かなり時間がたっているけどできそう?」

レオンは身を屈めて、刺された脇腹のあたりを真剣な表情で見る。

「すぐには分からない。ごめん。……けど、絶対にできないものではなさそう」

そう言って彼は一冊の魔導書を取り出した。赤を基本とし、金色の模様が描かれている魔導書は彼が手を使う必要もなく勝手に使用する魔法があるページを示した。

滅毒魔法(キュアラル)

魔法を唱え、右手をゆっくりと傷口に当てる。するとヒマリの全身が淡い緑色の光で包まれる。その光は泉によって反射され、小さな広間は一瞬にして、オーロラのような光に満たされた。


「……これは…何事だ?」

異変に気付いたのか、カムイが目を覚まし、わずかに首を上げて尋ねる。

私は何も答えずにヒマリの方を指さす。カムイはゆっくりと首を動かすと、突然飛び起きた。ちょっと引いた。

「まさか……」

 カムイは先程までの疲れはどこに行ったのか私に答える暇すら与えずに質問し始める。私がとりあえず落ち着かせようとしていると、レオンがつぶやいた。

「……かなりひどい毒だな」

その言葉に固まる私達。

「……だけど、きちんと応急処置がされているのだろう。だいぶ時間がたっていると聞いていたけど、治せるレベルだ」

「……本当か」

レオンは目だけカムイの方に向けて頷いて、再びヒマリの方を向く。

「ただ、少し時間がかかるだろうね」

レオンは「集中するから静かにしてて」と付け足した。


 どれほど時間がたっただろうか。広間は相変わらず不思議な光と静寂に包まれていた。私の頭の上にはいつの間にかフェニが止まっている。

 ヒマリの話がどこからか広まったのだろうか、フウラン、テン、グローリア、リキ、ボルカそしてツチグモもその瞬間を固唾をのんで見守っていた。

 そしてついにその時が訪れた。

 広間を包む光が弱くなっていった。そのことに気づいたモンスターたちから動揺のざわめきが少し聞こえた。やがて光は完全に消え、レオンは大きく息を吐いた後、こちらの方を向き、優しく微笑んだ。

「治療完了しました」


 広間は歓声に包まれた。ヒマリとかかわりがあるもの、ないものも関係なしに喜び合った。

「やったなリイア!」

フェニが私の頭から降り、羽を差し出してくれたので、私はフェニとグータッチをする。本当はもっと仲間と喜びを分かち合っていたいが、私はそこから抜けて、その場に座り込んだレオンの元に向かう。

「本当にありがとうございました」

私は誠心誠意お礼する。

「いいんですよ。私は苦しんでる人、モンスターを救うために魔導士になったのですから」

レオンはヒマリの方を見ながら話した。私も改めてヒマリを見る。

ヒマリは相変わらず寝たままだが、脇腹にあった不気味な傷跡はすっかり消えていた。表情も穏やかになっているそんな気がした。少し眉が動く。

「……えっ?」

私が気の抜けた声を出すと、後ろで騒いでいた方々も静まり返り、こちらを向く。困惑している私たちのことなどお構いなしにヒマリはゆっくりと目を開け、体を起こす。

 私たちは言葉を失っていた。隣で座ったままのレオンは「早くないか?」と独り言のようにつぶやいていた。

 ヒマリはヒマリで自分が知らない場所にいて、周りには知らないモンスターがたくさんいる状況に困惑したのだろう。しきりに首を動かしていた。やがて私と目が合うと、

「……リイア」

と弱弱しく言った。

 私の名前が呼ばれてはじめて体が動いた。

「ヒマリイィィ!」

私はヒマリを思いっきり抱いた。ヒマリはびしょびしょだが、そんなことなんて本当にどうでもいい。

「リイア…ざ……まぁぁぁ…」

突然抱かれたヒマリは少し驚いた後、私の体を握りながら、声を大にしてなき始める。嘘でしょ。なにかまずいことでもした?

「怖かったぁ。怖かったよぉ…」

顔を体に押し当てて泣く。


……そっか。そうだよね。


「ごめんねヒマリ。辛かったよね」

私はそっとヒマリの頭をなでるとヒマリの握る手はますます強くなった。

「もう、離れたくない」

しゃっくりをしながらヒマリは言った。

「みんなと一緒がいい」

顔をゆっくりとあげる。その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

「だから」

ヒマリは何かを覚悟したような表情で言う。


ずっとここにいさせてください。


次回、大改造編最終話

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