お願い……します
時間があったので早めの更新。
またまたたままた、評価ありがとうございます!
後半の話の流れは「光もあれば影もある」の続きになってます
「念には念をだ。頼んだぞ」
リイア様が言っていた言葉だ。
また、自分は一人外されたと思っていた。……その当時は。だが、
(本当に)
言っていた通りの未来になった。
何の抵抗もなく飲み込まれたことを確認し、この騒動の中、一切目を開けなかったヒマリを見る。
自分の顔でテンから差し込む光が遮られ、目元が影になっても何の反応もせず動かない。そんな様子を見て、心の端で反発した過去の自分を殴りたくなった。
しばらく覗き込んだ後、ランドは洞窟を出ようとした。
しかし、広間を出る直前に何かを思い出し、しばらく固まった後にその場に座り込む。そして、大きく口を開け、あくびをした後に眠り始めた。
尻尾の蛇も同じく地面につき、目を瞑る。
ただ、その口元の舌はシュルシュルと動き続けていた。
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目の前には一人の少年とその両親と思える人がいた。
「私が……く」
意識が朦朧としているからだろうか言葉がはっきりと聞こえない。何なら視界もぼやけてその三人の以外は何も見えない。
何か大事なものもあるはずなのに。
そんなことを考えている間も少年と父親と思しき人物が何かをしゃべっていた。でもその言葉はほとんど聞き取れなかった。だけれども
「ダメよ!」
母親のはっきりと断るその声だけは聞こえた。
その声に少年は恐ろしいほどに冷たい表情を向けた。
「なら……のか?」
「ダメ!」
母親はもう一度否定した。鮮明な声で。
少年はしばらく母親をじっと見つめた後、黙って後ろを向いて走り出す。
「待って!」
母親は少年に手を伸ばす。しかし、その手は何もつかめない。
やがて、その少年の姿は消えてしまった。見えない背景となるように。
残された母親はその手を力なく地面につけ、顔を地面にうち伏せし泣いた。
やがてその二人も意味のない背景のように消えていった。
……彼らはいったい誰なのだろうか。
私の知っている人間ではないはず。あのような場面を見たことはないはず。
幻想か空想か。
朦朧としている意識の中で見た夢なのか。
何も知らない、分からない。
だけど、
どこか懐かしい気配がした。
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何かが優しく肩に触れた気がした。
私はなぜか重たい瞼を開けると、天井にはガラスでできたシャンデリア。
「目が覚めたか?」
私は慌てて起き上がると一人の少年が目の前に座っていた。
「あんまり無理に体を動かさないで。回復したばかりだから」
そう言って彼は自分の左腕を指さす。自分の左腕を確認すると何重にも巻かれた包帯。……自分が傷ついているのを見て思い出した。私は……
「僕はジーク・レオン。ジーク家の養子で嫌われ者の貴族さ」
眼鏡をつけているその少年はその肩書とは不似合いな優しい顔をする。
「自虐しないでください。あなたも立派ですから」
反対側からもう一人の声がした。振り返ると全身真っ白な鎧をつけた人間(?)が立っていた。中の様子は全く分からず、声も中性的で性別すらわからない。そもそもあるかも怪しい気もするが……
「彼はスワン。なぜか僕についてきた騎士」
彼と言うことは男の人なのだろうか。それよりも
「……どうなったのでしょうか」
私は不思議なあの声が聞こえたとき以降の記憶がない。そのことを素直に話すとレオンは簡単に事の顛末を説明してくれた。
「……というわけ」
なるほど。……ということは
「ありがとうございます!」
私はベットから跳びあがって頭を下げる。どうやら彼らは命の恩人らしい。
「やめてください!顔を上げてください!」
ジークはすぐにそれを制した。手をぶんぶん振っているのが見なくても分かる。
「はら、レオン様はやはり立派じゃないですか」
後ろからスワンのなぜか勝ち誇った声が聞こえた。
「うるさい!いいから顔を上げてください!」
私が顔を上げるとジークは顔に手を押し当てていた。隠しきれてない部分は赤く染まっている。
「照れてますか?」
聞いちゃダメな気がしたが、いつの間にか口に出していた。
「だから僕は嫌われ者がいいんですよ!」
なるほど、そういうことか。
「そんなこと言わないで、褒められる練習しましょうよ。それか私みたいに全身鎧をつければ気にしなくて済みますよ」
となぜかスワンは勝ち誇った口調で言った。
……なんなんだこの人ら。
今まで奴隷として暮らしているときに買いに来た貴族を何回か見たことがあったけど……この人たちは同じ貴族とは思えなかった。
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「そういえば、聞いてたよ。話」
レオンは何かを思い出したかのように言った。あいかわらず顔は赤く、右半分は隠しながらに言った。
「……話?」
「君の仲間が猛毒にさらされているんだろ?」
ジークの言葉に自分がここに来た目的を思い出す。しまった!
「すみません!私は時間がないんです!助けてもらった分際で……」
私が慌てて出ていこうとすると
「まあ、待ってよ。それともなにかつてがあるのか?」
レオンはそう言って。私を止めた。
「単刀直入に言おう。僕なら治せるかもしれない」
その言葉が発せられたと同時に小さな個室の中は凍り付いた。
「僕はこれでも魔導士と認められているものでね。魔法のプロさ」
魔導士……国王に認められた魔法使い。その実力は民族同士の争い程度なら一人いれば戦況がひっくり返るレベル
「レオン様は歴代五位の若さで魔導士まで上り詰めた天……」
「そんな自慢せんでよろしい」
レオンがスワンの言葉を遮る。本当に褒められなれていないんだな。
「君の仲間がどんな状況か分からないから断定はできないけどね……」
そう言ってレオンは少し申し訳なさそうな顔をして「ごめん」と言う。
私は現実に起きている奇跡をすぐには受け止められずにいた。
まさかこんな簡単にチャンスが訪れるだなんて。
だけど……
彼は知らない。
私がダンジョンに住んでいることに。
もし、それを素直に言ったらどうなる?
(……分からない)
もしかしたら殺されるのではないだろうか。
あの男を赤子のようにひねるような人間だ。私を殺すのも簡単にできるだろう。
「……あなたはなぜ私を助けてくれたのですか」
落ち着け。こういう時こそ冷静になれ。
「君がやさしいと思ったからさ」
レオンは即答した。
「僕は『人間だ!モンスターだ!』なんてどうでもいい。優しいやつが優しくて、自己中なやつが自己中なんだ。それにモンスターも人間も関係ない」
そう言い終わった後に「だから僕は嫌われてるんだけどね」と聞こえないような大きさで呟いた。
「僕は貴族や権力争いなんてどうでもいい。ただ、苦しんでる人、モンスターを救うために魔導士になったんだ。そう約束した親友がいるんだ」
その言葉にスワンは黙って頷く。
「だから、君の仲間がどうだろうと僕は差別しない。君が救おうと必死になるような仲間だ。人間であれ、亜人であれ、はたまたモンスターであれ、きっと救いがいがあると思ってる」
そう言って、レオンは優しく微笑む。
……こんな奇跡があってもよいのでしょうか。
私はそう思いながら目の前のレオンを見続けた。
しばらくそのまま固まっていたが、このままではいけないと我に返った。
私は先程以上に頭を下げる。
「お願い……します」
大改造編はもうだけ少し続きます