終局
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リイアさんそれは……
「なぜ……お前がここにいる」
竜人は切られた右腕を抑えながら私に尋ねる。
「ここにいてはいけない理由はないけどね」
私は一応竜人の持っていた槍を遠くに投げる。おそらくもう戦えないだろうが……一応な。
「どうやって、気づかれずにいたんだ」
その問いに私はマフラーをひらひらさせる。
「まっ、完璧ではないから、その子と戦ってる間にこっそり近づかせていただきました」
クロマと戦いながらそんなことを考えられる余裕はまあないだろうし。それに同じ芸をカムイもウォルもやっている。
「てっきりもういないと思い込んでいたでしょ?」
「……そもそもその思考にたどり着けなかった。ところで、どうしてあのタイミングで出てきたんだ?前からいるなら他にもっといい時があっただろう」
ああ、それはな……
「その子のわがままだ」
「……リイア」
クロマが少し怒った口調で私に言ったが、外れてもないしわざわざ訂正しなくてもよくない?
そして竜人はしばらく間を開けた後に「お前か?作戦を考えたのは」と尋ねる。
「全体の作戦を考えたのは私だが、各階層の作戦はそいつらに任せた」
その答えに竜人は納得がいったのか少し笑いながら答える。
「なるほど、通りで策が読めんわけだ」
「そりゃ、読みやすい策を講じるのは阿呆だからな」
一芸しかないやつは対策されて消えていくからな。
(こいつはそう簡単に言っているが)
軍師が他のモンスターに策を任すなんてそう簡単にできたもんじゃない。俺は自分が指揮している時はいつも自分でやった。多少読まれても素人がやるよりもはましなはずである。
……いや、ちがうな。そうやっていつまでも素人にさせていたのは自分だ。自分の策でそうしていただけだ。
「……俺の策は読みやすかったのか」
ふと、思ったので聞いてみた。
「ああ、そうだな」
そいつは即答した。……どうやら、俺は愚者にもかかわらず軍師なんて名乗っていたようである。うぬぼれていたようである。
「……そうか」
俺が言葉に詰まると目の前のラスボスは呟くように言った。
「……あんたは素直だ。堅実な軍師だ。だからこそ読みやすかった」
「誇れよ。あんたも苦悩し熟考し決断したんだ。立派な軍師だ」
「策に真の正解なんぞどこにもない。あるのはその結果だけ」
そうか。あんたも同じなのか。
『絶対的な策がない限り軍師に絶対などない。どんな奴も失敗の恐怖と戦っている』
……そりゃ勝てないわけか。
「……あんたとは気が合いそうだ。できることなら夜通し話したい……が、そういうわけにもいかないな」
そう言うと突然首飾りを取り外し、私に向かって投げた。
「それをもってここから真北にある川の源流に向かえ。それを見せたら話が伝わるはずだ。一応何人か仲間を連れて行った方がいいかもしれん」
私は首飾りを見る。鉄製で所々欠けているが錆びてはいない。それなりに手入れがされてるように見える。
「何がしたい」
その言葉に竜人は豪快に笑った。もう、そんな力はないはずなのだが……
「俺の生きた証を残すためだ。……その顔は理解できてないな。まあいい。俺たちとお前らとじゃ何かが違うのかもな」
そう言って自分の首を少し曲げて、そこを指さす。
「さっさと切れ。俺にやり残したことはない」
そうか、私もあんたとは少しだけ馬が合いそうだな。でも、私とあんたで違うところがある。
「私はまだ死ねないのでね。その願いは先送りになるな」
私は右手を一本の剣のように変形させる。これは私の能力によるものだ。
私は一撃で仕留めるべく右手を振る。ただ、いくら竜人が無抵抗でもその皮膚の固さだけはどうすることもできない。前までの私なら一撃なんて無理だっただろう。
だけど……
私の剣のスピードは全く落ちずに首をはねる。とても簡単そうに。ただ、素振りでもするように。
私は対抗手段を手に入れた。おかげで前みたいに苦戦をせずに済むようになった。
これも私の能力によるものだ。
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私は竜人が一応死んだかどうかを確認してクロマに
「残党処理に行くぞ」
と言うとクロマはふらふらした足取りで近づいてくる。……酔っぱらってる?
そうして何とか私の前に来たクロマはそのまま私の体に倒れこむようにしがみつき
「……眠い。寝る」
と言って寝始めやがった! あんたほんとにマイペースすぎだろ!
私はクロマの肩をたたくが返事がない。一瞬にして深い眠りに落ちていった。
途端に訪れる静寂。聞こえるのはクロマの小さなスースー音だけ。
とても先程まで殺し合いをしていたとは思えない光景の中で私は
「終わったのか……」
と呟いた。
……無抵抗なクロマのほっぺを触りながら。
「やっぱりもちもちだ『ムニッ』絶対そうだと思ってた『ムニムニ』前もこっそりしようとしたけどなぜかばれたからな『ムニーー』」(独り言)
今しか堪能できないからな。しっかり堪能しないと。あーたまんねえぇ。
「クロマはもうちょい素直ならもっとかわいいのに『ムニムニ…』ヒマリみたいにさ」(独り言)
……待てよ『ムニュ!』
(ヒマリのほっぺも柔らかいのでは!?)『ムニュムニュムニュムニュ……』
……と上機嫌でいるリイアだが
クロマの意識はまだ残っていた
つまり……
(リッ…イアァァァァァァァァ……‼‼)
クロマはブチキレていた。
何も知らないリイアがどうなったかはまた別のお話……。
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こうして竜人たちとの戦いは幕を閉じた。
否、終わっていなかった!
一人の竜人は薄暗い洞窟のようなものの中を歩いていた。
七階層での混乱に乗じて数匹の竜人(強化種ではない)が突破をしたがこの階層にいるヤギのようなモンスターに襲われ、いよいよ残りは自分だけになってしまった。
モンスターも何もない暗い道を手さぐりながらに歩いていると少し明るい広間に出た。
何の飾り気もないただの広間のように思えたが広間の端に小さな泉があった。さらにそこに近づくと、浅い泉に一人の少女が横になっていた。
おそるおそる近づくとその少女は寝ているのだろうか、目覚める気配がしなかった。さらによく見れば脇腹のあたりが紫色に変色していた。
何者かは分からない。……だが、寝ていてもなお感じる強者の気配。もしや……
「あんたがラスボスか」
竜人は問いかけたが、その言葉は狭い洞窟内でこだまするだけで返事はなかった。
(まあ、ラスボスにしろそうでないにしろ)
いい手柄になるだろう。そう思い槍を抜き構え……
「何をしている」
低く大きく聞こえたその声に驚き、自分が来た方向を見れば、そこには最初の時にみたキマイラがいた。
「命が惜しけりゃ今すぐ立ち去れ」
キマイラはそう言って、頭も尻尾の蛇も大きく口を開けて威嚇する。
そのおびただしい様子に震え、できることなら今すぐにでも立ち去りたいと思ったが。
(そうやすやすと逃がしてもらえるはずがない)
どう頑張っても自分ではあいつを倒せない。ならば……
「そっちが立ち去れ!でないとこの者がどうなるか知らんぞ」
一か八かの賭けで震えながらに寝ている少女に槍を向けた。
するとキマイラは一瞬身をこわばらせた後
「……貴様、本気なんだな」
と睨めつけながら静かに言った。
「ああ、本気だ」
どうやら、かなりの重要なモンスターなのだろう。これなら生きて帰れるかもしれ……
「しっかり槍を握れよ。その武器が貴様の唯一の希望なのだから」
その言葉が聞こえきったとき、自分は壁に打ち付けられていた。
訳が分からない。理解ができない。キマイラ以外のモンスターの気配はしなかったし、何か魔法が放たれた気配もしなかった。ならまさか……
「きちんと握れと言ったのに……」
キマイラは強靭な足で押さえつけながら憐れみを込めたような口調で言った。見れば先程の衝撃で放してしまったのだろう。槍がなかった。
キマイラは二つの顔をグッと近づけて言う。
「貴様は我らの同胞をを殺そうとした。その罪は分かってるんだろうな!」
「ガッ……」
何とか身をよじって脱出しようとしたが押さえつけられた身体はピクリとも動かない。
この強さ……まさか……
「貴様……がラスボスか」
そう呟いた瞬間、目の前の怪物は毛を逆立て、目を開く。
「我ごときがラスボスだと?貴様はリイア様をバカにしているのか」
「ア……アッ…」
何かをしゃべらないといけない。弁明しなければならない。
でも、言葉が出ない。
「リイア様に対する冒涜……貴様は生きたまま丸呑みしてやろう」
蛇の頭がそう言い、大きな口を開けて近づいてくる。
「ガアァァ……!」
クロマ「覚えとけよ」(ガチギレ)