全てはこの時のために
またまた、評価していただきありがとうございます!
戦闘回はこれが最後です
……長かった。
この戦いだけでここまでの全体の五分の一以上占めてる事実に驚きが隠せない。
こんなに長くする予定はなかったんだけどなぁ…
ツチグモたちは吹き飛ばされた。
そして地面に倒れる。
「痛い……」
原理は不明だが、ボルカは剣から現れると同じく地面にあおむけになる。
「ツチグモどいてぇ…」
ミルは上にかぶさっているツチグモの肩をぺちぺち叩く。
「……すまん。体が動かん」
「ツチグモ!?」
ミルがじたばたしてるが抜けようとしているが、どうやらミルも力を使い切っているようで無理なようである。
「カムイ~助けて~」
俺の方に目を向けられるが……
「……すまん、俺も無理だ」
一応とっさに受け身を取ったが、それでも体の節々がいたい。
俺たちは吹き飛ばされた。ただ、俺たちは巨牛に吹き飛ばされたのではない。
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「一閃!」
ツチグモの剣から赤い炎をまとった巨大な斬撃が放たれる。
それは、激しく音を立て、地面を切り裂きダンジョンの地面に大きな亀裂を作った。
無論ツチグモの一閃は迫りくる巨牛を見事に真二つにした……のだが、
「ファ?」
「ちょっ」
俺たちはその反動で後ろに吹き飛ばされてしまったのである。
しかし、そのおかげで俺たちは無事なのかもしれない。
たしかに俺たちは巨牛を切り裂いたが、慣性のためか、その巨体はそのまま俺たちに向かって突き進んできたのである。もし、俺たちがその場で止まっていたら……危険だったかもしれない。
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「やりすぎたね」
ボルカはどこまでも続く亀裂を指さしながら力なく笑う。
「……これ、どうしますか」
ツチグモは俺に向かって心配そうに尋ねる。
「……聞くな。考えたくもない」
俺の戦いはむしろここから本番だなんて、今は考えたくもない。
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「死神乱弾」
少女の周りの黒い物体が自分を目掛けて放たれる。
それを横に走りながらよけ少女目掛けて槍を繰り出すが、その前にいる亀のモンスターによって阻止される。
その間に少女は少し距離を取り、再び魔法の詠唱を始めようとしていた。
七階層の戦いは混沌としていた。
それは両者ともに狙っていたものであった。
ドーラはこの階層のモンスターを全て相手にする余裕はない。
故に乱戦に乗じての突破を目指したのである。
もちろんクロマもそれは気づいている。
だからこそ……
「死神乱弾!」
彼女は集中的にドーラを狙いたかったのである。この階層から動かさないために。
彼女はドーラ以外を見ていない。
ドーラ以外にも強いモンスターはいるが、そいつらも動けない。なにせ…
「熱水光線」
口から放出された圧縮された水が、大地を削りながらゴーレムのボスを二つに切り分ける。
ウォルを突破できないのである。
ウォルはグローリアと比べると見劣りするかもしれないが、間違いなく強い。
相手で倒せるモンスターとなるとドーラだけであろう。現に他の竜人やモンスターじゃ相手になっていない様子である。
他のモンスターも平均はこちらの方が強い。目の端でしかとらえていないが、相手のモンスターだけが倒れ始めていた。
そして、大将は互角。
つまり、この階層の勝負はもう決しているのである。
それに結局、スーカからの援軍の要請は一度も来なかった。どこの階層も大丈夫なのだろう。
クロマは相対する竜人が大きく近づいてくるのを捉え、防御魔法を展開する。繰り出された槍は見えない壁に阻まれ、「ギィ」と嫌な音を鳴らすだけで、その刃は自分には届かない。
「死神弾」
クロマが手を高く上げると、黒い物体が創らる。それが発射されると同時に竜人は大きく後ろに跳ぶ。対象がいなくなったにもかかわらず、黒い物体は止まらずに地面に当たり、土煙が舞う。
ドーラはその隙をついて突破を試みたが、煙の中から追撃するように、「死神弾」がまたも放たれる。ドーラは反射的に防御魔法を同じく展開するが、それを物ともせずに自分の体ごと貫かれる。
幸い黒い物体は大きくないのと当たったのは身体の外側なので、大したダメージではないが……
(散らしたな)
完全にこちらの思考が読まれている。相手は非常に堅実な立ち回りである。決して無理をしない。リスクをとらない。嫌な相手である。
(ジリ貧だな)
こちらもそれを分かっているからいろいろと揺さぶっているが、淡々と捌かれている。
これがラスボスでないと考えるといよいよ気が狂いそうである。これよりも強いやつがまだこの先にいる。そいつを殺さないといけない。
自分たちにそんな余裕があるか。
(……ないな)
少なくとも、今、この階層にいる戦力では無理だ。せめてロロたちが戻ってきてくれないとこいつらを突破できない。
だが、ロロたちがいつまでたってもこちらに来る気配はしない。上の階層の戦闘に巻き込まれたのだろうか。
それまではどうにか耐えなければならないのだが……
「水蒸気爆弾」
後方で何かが爆発した音が聞こえた。……それもどうやら簡単にはできない様子である。
突然現れたネッシーのようなモンスターを止められないもである。一応、ガクとシータで相手をするように頼んでいるが……厳しいだろうな。
他は相手の方が強い。間違いない。
ならばせめて、互角な自分は勝たなければならない!
ドーラは槍を構える。砂煙が薄くなり少女と再び目が合う。
最終戦、開始。
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私が再び詠唱を開始しようとすると、それに合わせて竜人は「灼熱吐息」を放つ。
「……っ」
防御魔法を円形に広く展開し、私に直撃しないようにするが、その炎の中を縫って、竜人の槍が防御魔法に刺さる。
不味い! とっさに横に跳んで避けると、先程まで自分がいた場所を刃が過ぎる。何とか回避ができたが、距離が近い。おまけに反撃の魔法もまだである。
竜人はすかさず、突いたその槍を横に振る。
(多少のダメージは覚悟するしかないか)
私はその槍にわざと当たり、吹き飛ばされる。
身体がいたい。
やりなれてない受け身をとり、追撃しようとやや強引にとった距離を詰めてくる竜人に向かい『死神弾』を放つ。弾は大きめでやや散らして。牽制のつもりではなったのだが、竜人もまた多少のダメージは覚悟しているのだろう。脇腹の方に弾の一つがかすったが一切止まる気配がしない。
もちろんそれも想定してる。すでに詠唱準備をし終えた防御魔法を展開し、槍を受ける。
(今だ!)
先程はタイミングがづれてしまったが、今回は早めに放つ。
私が手を振る直前に竜人と目が合った。その口元は真っ赤に染まっている。
「灼熱吐息!」
「死神弾!」
二人の攻撃は互いに直撃する。
私は二、三歩よろめいたが問題はない。妖精は魔法に対する耐性が優秀な種族だ。直撃したがやけどをしただけで問題はない。だけれども……
「あんまし効いてなさそうだな」
私が放つよりも先に放たれたせいで、弾がわずかにずれてしまったようである。竜人は左肩のあたりに深めの傷を負っているがまだ動けそうであった。
(今ので決めたかったけど)
過ぎたことは仕方がない。私は再び魔法を唱えようとしたとき
「そこだ!」
竜人は持っていた槍を投げたのである。
私は大慌てで防御魔法を展開して槍をはじくが、すかさずに距離を詰めた竜人が走りながらに落ちていく槍を持ち、そのまま突き刺そうとした。
(防げない)
防御魔法は一つは展開できる。だが、竜人はさらに『灼熱吐息』を放とうとしている。槍か魔法かどちらか片方しか防げない。
槍はもちろんだが、魔法の方も連続で当たるといくら耐性があろうとさすがに危険だ。
……やられた。
私の意識外の一手、竜人の賭けの一手であった。
私は魔法を防ぐべく、円形に大きく防御魔法を展開する。
これだと槍は防げない。
けど、それでもいい。
「私の勝ちだ」
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「リイア!?」
私はリイアが何を言っているのか理解できなかった。
「リイア様がする必要はないではないですか!」
ランドもリイアを止めようとする。
リイアは私達に「ありがとう」と先に言ったあと、少し間をおいて続ける。
「でも、ごめん。私には無理だ」
「リイア様……」
ウォルは止めようとしたが言葉が見つからない様子であった。
「私だけ、安全な場所でのんびりなんてもうできない」
リイアは淡々と言葉を発していく。
私はもともと六階層の隠しボスだった。私がその階層で仕事をしてるときに冒険者や侵入者が来ることは一度もなかった。みんな上の階で終わっていた。私は冒険者や侵入者の恐怖からは遠い生活をしていた。その時の私は別段それを気にしていなかった。どれほどのモンスターが犠牲になったか。一階層のボスはどんな思いでいたのかも。
でも、ケンとミーアが死んでから……私が一階層のボスに任命されてから。革命を起こしてから……初めてそれらを知った。体験した。
……私はルヴァンのことを心の中で馬鹿にしていたけど、あいつも私も大して違わなかった。死んでいったモンスターのことなんて気にも留めなかった。
いつの間にか他のモンスターもリイアのもとに集まっていた。そこには自由意志を持たないはずのモンスターも。
だけど、ケンとミーアが死んで。ヒョウリとアランが死んで。初めて気づいた。自分が一階層に任命されてはじめて悩んだ。
「……長くなりそうだから簡潔に言うと、私は一人だけ安全な場所にいるなんてできない。『私以外のモンスターは死んでもよみがえるから問題ない?』そんなはずがない。私は他人が死ぬのを黙ってみてろなんて御免だ」
「わがまま」
私は無意識にそう言っていた。するとリイアは笑って言う。
「そんなこともないと思うぞ」
その後リイアは突然、ウォルとランドに問いかける。
「二人は、ダンジョンモンスターの掟を知っているか?」
その問いにランドはすぐに自信満々に答える。
「それはもちろん、リイア様を守る…」
「違う」
ランドの言葉を強引に遮る。そして周りを見渡してリイアは言った。
「ダンジョンモンスターの掟は『ダンジョンを守ることだ』。そして、そのダンジョンとは何か。コアラ?それともこの不思議な世界?それもそうかもしれない」
「でも、私は思うんだ。ダンジョンとは何か。答えはすべてだ。この世界もコアラも私も各階層のボスも、自由意志を持つもの持たないもの、あるいはダンジョン外から来たモンスターも。みんなダンジョンの一部だ」
「ラスボスの使命、それはダンジョンを守ること。……もう、何が言いたいかわかるよな」
その言葉に誰もすぐに返事しようとはしなかった。……しかたがない
「……分かった。でも、そうしなくてもいいなら、しない。そう約束できるならいいよ」
「もちろんだ。私は死ねないからな」
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(でも、まさか……)
まさかここまでリイアの予想通りになるとは思わなかった。
すべての策はこれにつなげるための布石だったのだろうか。
(もしかしたら、ここまで読んでいたのだろうか……)
……この戦いが終わったら聞いてみるか。
そこにいる……
いつかの黒いマフラーを着ているリイアに。
次回、終結