そこまで考える余裕はないです…
戦闘回は後3話程度続く見込みです
後記
嘘ですスミマセン
(…ああ、私は)
…私は負けたのか。私は殺されたのか。
時間稼ぎに気づけなかった時点で私は詰んでいたのか。おそらく最後の状況で跳躍しようがしまいが結果は変わらなかっただろう。…なんせ広範囲かつ防げないかつ攻撃が見えなかったのだから。避けも防げもできない。ならばわずかな可能性に賭けて攻撃読みの跳躍をしたが、少年はきちんと動きを見てから刀を抜いた。最後の最後まで油断しなかった。
(…僅かな勝ち筋を拾ったその連携、見事なり)
そして…
…申し訳ございませんドーラ様
あれほどのことを言ったにもかかわらず、一匹も殺せませんでした。
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ツチグモは静かに刀を収める。刀を収めきると同時に竜人の体が落ちる。
彼は大きく息を吐き、地面に転がる二つの体を見る。
(…さすがに死んだか)
身体を真っ二つにされてなお生き続けられるモンスターなどほとんどいない。無論即死である。一応確認し終えると、槍がかすったのだろう軽い傷を負ったカムイがやってきて
「お見事」
とだけ言って拳を差し出す。ツチグモはそれに従い、拳をあてる。勝利の余韻に少しだけ浸った後
「その傷は大丈夫なのか」
と尋ねる。カムイは傷の方を軽く見た後に答える。
「問題ない。そっちこそ大丈夫なのか」
「エネルギーは切れたが、刀は使えるから問題ない」
ツチグモは先程の攻撃にありったけのエネルギーを使用したため、簡単な魔法すら使えないが、刀は振れるのでまだまだ戦える。
「ならばこのまま下の階層の援護に回る。ついてこい」
カムイとツチグモはそのまま新たな戦場へと駆けて行くのであった。
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ドーラたち本隊は荒廃した神殿のような六階層を軽やかな足取りで進んでいた。大将から末端の兵までもが自身の勝利は目前まで迫ってきていると信じていたのである。
ドーラは風がわずかに吹いているせいか砂埃が舞い、やや景色の悪い中、辺りを見渡しながら
(…やはり敵が少ない)
と思い、自身が正しいと思い込ませていた。ドーラはそうして歩きなれていない砂地の上を歩き続けた。
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「…来たぞ」
ライヤは敵が来たにもかかわらず口喧嘩をやめない二人に、苛立ちを隠せずにいた。目の前には睨み合っている天狗とドラゴン。
「いいやぼくだ!」
「我に決まっとる!」
話聞いてないなこりゃ。俺は無言で二人に近づいて、
「後にしろ!」
…とうとう手を出してしまった。両手ともじんじんと痛い。
「いったぁ~…」
フウランは頭を押さえる。それを見たアースは鼻で笑い
「フン。その程度で痛がるとは骨のない奴め」
と高らかに笑いながら謎に勝利宣言のようなことをする。…くっそ、こいつの表皮、無駄に硬い。
「いたくねえよ」
フウランは手で押さえるのをやめて怒ったように反論する。…後にしろって言ってるだろ!
「お前ら、あとでリイアたちに言うからな」
侵入者が来てないときはお前ら特に何もしてない職務怠慢組なんだから、せめて今ぐらいはきちんと仕事してくれ。だが、俺の切実な願いは叶わなかった
「お前もだライヤ。なぜ我に対して命令する。古参だからか?」
とんでもねえこと言いだしやがった。
「今それ気にするか? バカなんか?」
やっべ、つい本音が出てしまった。
「…リイア様が決めたのだからそれには従おうよ…」
フウランは根はいい子なので特に文句は言わないのだが…
「なにもリイア様はライヤの言うことに従えなんぞ一言も言っとらん。無論貴様の案が合理的なら従うが、そうでなければ独自に動く」
「なら、お前はなにか案があるのかよ」
ドラゴンは俺の問いに即座に返す
「貴様らで雑魚を片付けろ。我が大将の相手をする」
…何言ってんだ?それは俺たちの
「我が想定以上の手柄を取ればリイア様は認めてくださるはずだ!」
…これはダメだな。俺たちの声は届かないな…
「…どうする?」
フウランが少し不安そうに顔を見ながら聞いてくる。…どうするって言われてもよ
敵軍は目前に迫ってきている。今更変更することなんてできない。
「アースがいない体で最初は作戦通りやってみるが、ダメそうなら自由にしろ。…この件についての責任は俺がとる」
戦う前なのに疲れたよ。…リイアは優しいから多分許してくれるだろうけど、情けねえよ。ほんとに…
そのころ四階層では…
「避けろ!」
ピグがオークに対して命令するが間に合わずにそのまま相手の斧により、スクラップにされる。オークの軍は半分崩壊しかけていた。
(あの竜人め…)
確実に相性のいいモンスターをぶつけてきやがった。オークの天敵それは…
「ブゴー!」
「フーガ、フゥーーガ」
巨牛族と巨人族であった。二つの種族に共通する特徴として高火力高耐久だが機動力などが極めて低い、いわゆる重戦車であった。こいつらの火力は恐ろしく、オークなど簡単に吹き飛ばすことができる。もちろん機動力は低いので避けられないことはないが、オークだってこいつらのことをバカにできるほどの機動力を持っているわけではない。両種族…特に巨人族に関してはゆっくりと近づいて鉄こん棒を振ることしかしない脳筋バカなので攻略方法としてはひたすら遠距離から攻撃するのが基本なのだが、前述したとおりオークは遠距離攻撃ができないのである。その補完として魔法使いモンスターがいるが、数が少ないため、無駄に耐久力の高い巨人族どもをなかなか倒せずにいた。
いや、巨人はまだどうにかならんことはない。むしろ問題なのが…
目の前の巨牛は両手を地面につけ、低く構える。不味い…
巨牛はそのまま高速で突進をする。自身はなんとか回避できたが、その直線上にいた数名のオークたちは全員まとめて吹き飛ばされる。
巨牛の突進攻撃をどうすることもできないのである。
直線にしか移動することができず、また予備動作があるが、その分火力は高く、オークが何匹いようが盾を構えていようがお構いなしに吹き飛ばす。
そんなわけで、こちらの戦力だけがとんでもないスピードで削られ続けていた。オークの数も最初の半分以下にまで減っていた。せっかく新たに増えたにもかかわらず。
「援軍はまだなのか!?」
パクは尋ねる。その鎧と盾の一部が砕けている。
「もうすぐだ!」
もう何度目かは分からない返事をする。その頻度は少しずつ狭まっていた。
オーク軍は崩壊寸前である。もう五分も持たないだろう。
(…この状況をリイア様は想定しているのだろうか?)
ふとそんな疑問がうかんだ。リイア様がこんな危険な手を指すだろうか。…あのリイア様が?
もしかしたらこれは想定外なのかもしれない。リイア様が力を見誤ったかもしれない。おそらくもっと余裕があると思っていたのかもしれない。
もしかしたら…
援軍はまだまだ来ないのではないだろうか
「ピグ様!魔法使いモンスターたちがエネルギー切れを起こしました!」
ポクは泣きながら叫ぶ。…嘘だろ。それじゃあもう
(攻撃手段がないじゃないか)
巨人と巨牛は合わせてまだ20体近く残っている。…今から、あいつらの攻撃を耐え続けないといけないのか?
煩わしい攻撃が途切れたため、巨人どもは地面を大きく揺らしながら悠々と接近してくる。その光景は自分たちの死を想像させ、絶望させる。いつの間にかほとんどのオークが戦意を喪失したようでその場に倒れこんでいた。
ピグもまた、その光景を見て地面に倒れこんだ。
(ああ、神よ。お助けくだされ…)
そう願いながら