硬いのばっかり
後編
テラは新たに現れた炎の精霊のボルカと対峙する。先制攻撃を不覚にも喰らってしまったが大した怪我はないので問題はない。
「僕はボルカ。妖精たちの長でこのダンジョンの下位ボス」
「俺はテラ。竜人族の強化種で五番目だ。見事な先制攻撃だ。…だが、その程度の攻撃じゃ我らの鱗を突破することはできん」
テラは槍を取り出し構える。今更だが竜人たちはほとんどが槍使いなのである。その理由はいたってシンプルで槍が近接武器の中では最強だからである。もう少し正確に言えば槍が近接武器の中では最もリーチが長い。自身のリーチの方が長い場合相手の間合いに入る前に倒すことができれば理論上負けない。竜人はそれを目指す種族であった。
対するボルカは武器は持たなければ武術の構えもせずに宙に突っ立たように浮いていた。
「行くぞ!」
俺は宙に浮いているボルカを捉え、強力な突きを放とうとするが
「灼熱ノ術」
踏み込んだ右足の足元の周辺から突然青色の光が現れる。とっさの判断で退くとそこから青い炎の柱が天まで届かんとばかりの勢いで生成される。炎の柱の熱気は凄まじく、一瞬にして周辺の草が燃え始める。おそらく炎に対する耐性がなければ炎の柱に触れてなくても焼け死んだだろう。そして、たとえ耐性があったとしてもあの魔法が直撃したら間違いなく死ぬ。
周辺の気温が一気に上昇するのを感じる。それが原因だろうか額から汗が出ている気がした。
一度大きく深呼吸をする。落ち着けと。
あの攻撃は確かに危険だが予備動作があるため落ち着いてよければ大丈夫だ。実際に初見でも対処できたんだ。次もできるはずだ。
足元の草はなすすべもなく燃えているが気にせずにボルカを見る。ボルカは今度は空中に三つほど直径30センチ程度の火球を創り出していた。
「熱狂贈呈」
火球は一つずつ放たれる。どうやら追尾機能を持っているようで、二つは上手に避けたが最後の一つは避けれそうになかったので仕方がなしに槍で火球を切る。切られた火球は激しい光と大きな音を出し破裂する。反射的に目を瞑る。すぐに目を開けるのだが
(どこに行った!?)
目の前には先ほどまでいたボルカがいない慌てて周囲を見渡すがあいかわらず草木が燃えているだけでボルカは見当たらなかった。
(逃げたのか!?)
どれだけ探しても見当たらないためそう結論付けかけたときであった
先程と同じく足元が青く光る、少し遅れたがすぐさま後ろに跳んで避けようとしたが、その先も青く光っている。
(不味い!)
しかし、空中に浮いている状態ではもはやどうすることもできない。
「灼熱ノ術」
彼の死の宣告は静かに告げられた。
青い炎に包まれた竜人はしばらくは形を保っていたが、たちまち崩れそこには灰の一つも残っていなかった。
(油断してたな)
ボルカは土がむき出しになっている地面を見ながら思った。
テラはなぜボルカを見失ったのか。その理由は単純である。
ボルカは全身炎の妖精である。そう、全身炎である。そして大きさも50センチ程度しかない。普段は浮いているため、視界に問題なく入っているが、浮くのをやめると竜人たちの目線だと見下げないといけない。
…でまあ結局何が起こったのかと言うと、ただでさえ小さくて見つけにくいのに加え周りの草が燃えていて背景と同化していたのである。相手を見失い焦っている状態では本当に見つけられないのである。
そこでボルカは自分を探してる隙をつき一発目よりも多くのエネルギーを使い、確実に逃げられない範囲の炎の柱を生成したのだ。
テラは見失ったときに棒立ちになるのではなく動きまわるべきだったのである。しかし、彼にはその判断ができなかったのである。
ボルカは一番近くの戦場の様子を見ると、すでにこちらの人数有利になっていた。そこでわざわざ自分が駆けつける必要はないと判断する。彼個人としては骨のある相手と戦いたかったが、私情を優先するような馬鹿な真似はしない。すでに先客がいるのだ。なのでボルカはもう一つの戦場の援護に回ることにした。
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ロロ対カムイ、ツチグモは膠着していた。
最初はロロの方がやや優勢だったが、途中でツチグモが加わったため互角となった。ロロの突きをツチグモが上手にさばいている隙をつき、剣を振るが
「硬いな…」
攻撃がほとんど通らないのである。一応傷ついてはいるが決定打には程遠い。もし、ダメージが表記されるならば1ダメージとしか出てこないだろう。一応能力で竜人に対する特攻つけてるんだけどな…
「…てかさ、なんで俺の相手は固いのが多いんですかね」
カニのモンスターといい毒蛇のモンスターといいさ…別に俺の得意分野ってわけじゃあないのによ…。
なので今度は俺がロロの足止めをし、その間にツチグモに攻撃してもらうが
「ギィ!」
結果は同じで大したダメージを与えられない。
「…俺らじゃ無理か?」
ロロと距離を取りながらツチグモに問いかける。するとツチグモは
「…無理ではないと思いますが。時間がかかるんですよね」
どうやら何か奥の手があるようである。しかしそれには準備が必要らしく
「短くても一分は必要ですね。…ただ、あのモンスターがそう簡単に許すとは思えませんね」
…なら、一分だけ時間を稼げばできるのか?
「可能ですが、そんなことできますか?」
たしかにロロを相手に普通に時間を稼ぐのも難しい。だけど…
「できるかは分からんが、手がないわけではない」
俺にもまだ見せてない手札はある。ジョーカーみたいに強力ではないが、一分時間を稼ぐだけならばそれでも十分事足りるはずだ。
「低リスクだし、一旦やってみるか?いざとなれば耐久でもすればいい」
「どうするかはカムイさんにお任せいたします」
ツチグモはこちらを一切見ず、ロロを凝視しながら言う。そうか…なら、やってみるとするか!
相手の動きが変わった。
(…せっかく慣れてきたのによ。面倒なことしやがって)
先程まではどちらかが自分の攻撃をさばき、もう片方が攻撃するといった感じだったが今度は両者ともにお構いなしに攻撃を仕掛ける。攻撃の激しさは増したが、回数が増えたところでダメージがほとんどないから何も意味がないだろうが。焦らず、冷静に相手の動きを注意深く観察する。両者ともにかなりの戦闘を経験したのだろうその動きは洗練されており、また多彩であった。行動が読まれないよう、重複しないように立ちまわっている。
だが、逆にそれが仇となる場合もある。行動パターンを探られないようにするために意図的に行動パターンを散らすのである。それを掴むことができれば自分のほぼ勝ちである。
そうして動きを読むのに専念していたが、読み切る前にまたも相手の動きが変化した。白髪の少年が突然魔法を使ったのである
「岩石散弾」
しかも地面に向かって。勢いよく飛ばされた岩石たちによりあたりには砂煙が立ち込める。
(今度は目くらましか?)
だが、問題はそこじゃないだろ。いくら不意打ちしようとダメージが与えられないんだから意味がないだろ。現に今背中側に剣がぶつかったが痛くもかゆくもない。時々、魔法も飛んでくるが、どれも基本的なもので威力は低く攻撃されたことにすら気が付かなかった。…それとな、砂煙の中に隠れたら安全と思っているんだろうが
「目で見えなくても気配でわかる!」
砂煙の中から現れた少年の剣と槍が交差する。少年の脇腹に槍がかすり、そこから赤い血が出る。一方で私はほぼ無傷である。少年と目が合う。傷を負った少年はなぜか笑っていた。その左手には岩の塊
「岩石散弾」
反射的に目を瞑る。それが功を奏し、岩石たちはきちんと硬い鱗に覆われた瞼に当たり、砕ける感触がした。
…こいつ、唯一鱗でおおわれていない目を狙ってきやがった。…もしかして
(さっきからずっと狙っていたのか?)
相手に手がないように見せておいて、油断したところを狙っていたのか?
恐ろしい奴めと思いつつ目を開けると少年は距離を取っていた。…? なぜ追撃をしなかった? 無駄だと判断したのか?
「…俺たちの勝ちだ」
背後からの声。振り返ると時間経過により薄くなった砂煙の間から、居合の構えをした鬼人がいた。そしてその刀には
(…やばいか?)
強力なエネルギーが感じられた。…これはまずいぞ!
慌てて大きく跳躍する。あれは喰らったらダメな奴だ。
(かかったな!)
大きく跳躍したのをツチグモは確認する。まだ、刀は抜いていない。
ツチグモはほぼすべてのエネルギーを刀に集中させて放つ
「一閃!」
狙いを定めて刀を抜く、さらにそこに
「能力付与」
カムイが自身の能力をツチグモに付与する。付与するのはオーク特攻、毒耐性、そして竜人特攻。
ツチグモの刀から放たれた黒く光る斬撃はロロの槍を折りながら、鱗を突き破り、体を切り裂いた。